第51話 (ちょいエチ)女子校生「お礼させてください」

 ふわりと少女の柔肌に包み込まれる感覚。バスローブの上からでも分かるくらい十六歳の少女の肌は弾力があり、俺の胸板にマシュマロのような乳房が押し付けられる感覚に脳は一瞬で麻痺した。


 その隙をついて五十嵐はローブの襟を力任せに開き、隙間に腕を差し込んで背中に手を回す。


 肌同士の擦れる独特な感覚。

 くすぐったくて、気持ちがいい……。


 脇腹と背中に細腕が擦れ、胴体が弓形ゆみなりに反り返ってしまった。

 そんな俺の反応などお構いなしに五十嵐は俺のデコルテに顔をくっつけて頬擦りをした。


「センセイ……センセイ……!」


 酔っ払いのうわ言のように――いや、実際五十嵐は酔っているのだ――夢現ゆめうつつとしたチューニングの定まらない声で連呼した。


「五十嵐、やめなさい!」


 俺は吹き飛びかけた理性のわずかな残りを使い、五十嵐の肩を掴んで引き剥がそうとする。だが掴んだ肩もすべすべした地肌だったので驚いて放してしまった。


 五十嵐は今裸なんだ……。


「いいじゃないですか、センセイ」


 流れ出るハチミツのように粘り気のある囁き声。五十嵐はツイっと背伸びをして顔の距離を限界まで近づけてくる。胸同士が地肌で密着し、コリっと固い二つの蕾が俺の胸板を意地悪くくすぐった。


「センセイに助けてもらったんですからお礼くらいさせてください」


「お礼なんて……いらないよ」


「そんなこと言わないで。私、処女なんです。誰ともまだ付き合ったことないからセックスの経験も無い。さっき危うく奪われかけたけど、センセイに助けられたから処女のまま……。ねぇ、センセイ、私の処女をもらってください」


 雷に打たれたような衝撃。


「処女をもらってください」だって? そんなエロ漫画みたいなセリフを実際に聞く日が来るとは夢にも思わなかった。


 五十嵐が処女なことには驚かないが、それを自分に捧げるだなんて……。


 倫理観など欲求の前には無力だ。俺の教職の矜持はその官能的な声で紡がれる淫靡なセリフに膝を屈しようとしている。


「生徒とそんなことできるか……」


 息も絶え絶えになりながらどうにか声を絞り出す。


 なおも抵抗する俺の胸にチュウっと可愛らしい音を立てて五十嵐が吸い付く。その場所を中心にゾクゾクと快感が駆け巡り、俺の身体はますます硬直した。


「でも身体は正直です。固くなってますよ」


 再びチュウっと音を立てて俺の乳首を吸う。吸ったり、舐めたり、甘噛みしたり。電流の走るスイッチと化した突起を何度もいじめられ、俺は情けなく喘いだ。


も、固い……」


 バスローブ越しに擦れる。五十嵐は子をあやす母親のごとき優しい手つきでガチガチに固まって欲望を主張するを撫でた。


「うぅ……」


 恥ずかしい……。


「ふふ……。センセイ、可愛い。大人の男性でも恥ずかしいんですね」


「当たり前だろ……」


「どうして? 奥さんとは何度もシてたんでしょ?」


「そうだけど……それとこれとは話が……違う……」


 妻以外の女性にこんな姿を見られて恥ずかしいに決まっている。


 今まで頑張って良い教師になろうと努力してたのに。

 女子生徒に欲情するようなふしだらな教師と思われないよう自分を律してきたのに。

 その努力が一瞬で水の泡だ。穴があったら入りたい。


「私も恥ずかしいです……。でも、センセイになら全部見せられるし、なんでもして上げたい……」


 五十嵐の顔が足元に向かってゆっくり離れていく。顔が股の辺りの高さになるようひざまずいたのだ。


「今からご奉仕します……。私に任せてください。センセイのこと気持ちよくして差し上げます。奥さんのことなんて忘れて、私しか考えられなくしてあげますね」


 襟下に手をかけ、しっかり隠していた俺のを剥き出しにしようとした。

 だが、


「やめろ!」


 最後に残っていた理性の一欠片を使って五十嵐の肩を力任せに突き飛ばす。不意を突かれた彼女は小さく悲鳴を上げ、床にへたり込んだ。


 呼吸が荒くなり、立ちくらみのような眩暈に襲われる。


 危なかった……。もう少しで欲望に負けるところだった。


 着崩れたローブを正し、厳しい顔を作って彼女を見下ろす。暗くてどんな顔をしているか分からないが、さぞ驚いていることだろう。


「こんなことされて、俺が喜ぶと思ったのか!? さっき自分を大切にしろと言ったよな。それをもう忘れたのか?」


 返事はない。よろよろとおぼつかない足取りで立ち上がると、黒い影は俺に向かって突進してきた。それを踏ん張って抱き止める。


「忘れてなんかいません! 自分を大事にします! でも、先生だからこそ大事な自分を上げたいんです!」


「矛盾してるぞ!? 女の子が自分を上げたいなんて言っちゃダメだ!」


「いや! お願い先生、私のこともらって! 私のことを縛って! 私のそばにいて!」


 ヒステリーを起こしたように金切り声で懇願する少女に焦燥を抱かされる。


 欲望に飲まれてはいけない。欲望を正当化してはいけない。彼女を愛してはいけない。


 そんな良心に従えば従うほどこの子を追い詰めるジレンマ。


「私、センセイのこと喜ばせられるよ? 気持ちよくできるよ?」


 暗闇に慣れた瞳に彼女の顔が浮かび上がる。泣いているのに笑っているという歪な表情を浮かべていた。


 不意に右手を掴まれ、いざなわれる。むにゅっと柔らかい、でも一箇所だけ豆のように固い乳房の感触が手のひらに伝わった。


 この子はもう子供じゃない。少なくとも、性交渉ができるくらいに身体は成長している。男の欲望を叶えることは不可能ではない。


「こっちの方も準備できてる。濡れてるからセンセイのいつでも挿入れられるよ?」


 誘惑するというより薬物を欲するような陶酔した口調と共に再び右手を誘われる。足元に引っ張られるようにして誘導されたその先で指先に感じたのは、柔らかい肉と温かく滑りのある粘膜の感触。


「私のこと好きにしていいから……。抱きたい時に抱いていいし、殴りたいなら殴っていいから……」


 この子は自らの全てを、それこそ生殺与奪の権利さえ明け渡すつもりだ。


「昨夜、母から電話がありました。なんてことのない、定期的な連絡。その時に『卒業したら結婚したい』と試しに言ってみました。怒られるとか、説教喰らうとか覚悟しました。幸せな結婚生活を送れてないあの人だから、止められるかとも……。でもやっぱり母は母です。『あ、そう』の一言で片付けられました。『お幸せに』とかも無しに……。母は私のことなんかどうでもいいんです。先生みたいに本気の心配もお説教もしてくれない、私を愛してなんかくれない。愛してくれるのは先生だけなの……。だから……見捨てないで……」


 そして一番大事な心の鍵を差し出された俺は己の弱さゆえに受け取るか否か迷ってしまった。


 熟れた果実を割ったような瑞々しい少女の陰部に興奮を禁じ得ず、否応なしに鼻息が荒くなる。


 五十嵐の心はすっかり俺に傾いている。お望み通りベッドで愛を囁いて慰めてやれば、この子を手篭めにするのは容易い。労せずして少女の心身を我が物にできるだろう。


 もちろんリスクはある。最後の一線を越えた弱みを握られるのだから、きっと彼女から逃げられない。


 だが弱点を把握しているのは俺も同じだ。この子の孤独を満たし、自己肯定感を高められるようエサをやれば手懐けるのは容易い。

 この子の身体をむさぼりながら「そばにいるよ」「愛してるよ」「君だけだ」と欲しがる言葉を欲しいだけくれてやれば俺の言うことはなんでも聞く。

 俺との関係が終わらないよう口止めするなど朝飯前だ。


 公私ともどもこの子の世話をしてやったのだ。そろそろちょっとのご褒美をもらっても良いじゃないか。


 せっかく生娘きむすめが抱いてくれとせがんでいるんだ。楽しまないと損だろ。


 もちろん一線を越えれば、俺は生徒と寝たというカルマを背負い、制裁に怯える人生を過ごすことになる。しかし恐怖に苛まれればこの女の身体を貪って現実から逃げればいい。そうやって審判の日までせいぜい楽しむまでだ。


 後のことなど知ったことか。


 だが……この子の人生はどうなる……。

 俺の慰み物にされたこの子の人生は……。


「五十嵐……君を抱こうなんて思えないよ」


 愛液にまみれた秘部に押し当てられた手を引っ込める。


 この子を慰み物になんかできない……。


「いや、いや! 行かないで! 嫌いにならないで……見捨てないで!」


「嫌いにもならないし、見捨てないよ」


「嘘、信じられない! あれだけ迷惑かけて、先生は私のこと嫌いになる! 見捨てられて当然です!」


「だから、見捨てないって!」


「どうして!? 親からさえも愛されてない私なんて何の価値もない! そんな私をどうして見捨てないと言えるんですか!?」


 そんなの、決まっている――


「君は愛する生徒だからだ!!」


 邪な欲望の全てを払いのけ、俺ははっきりと答えた。


 取り乱していた五十嵐の呼吸が一瞬止まる。

 まるで時計が止まったかのような張り詰めた沈黙が訪れ、永遠とも一瞬とも取れる時間と暗闇の中、俺達は見つめ合っていた。


「最愛の生徒を見捨てたりするもんか! 君が卒業するまで、俺は必ずそばにいる。何かやらかしたら耳にタコができるくらい説教をしてやる。うざがられても、嫌われても、ネチネチ小言を言ってやる」


 見捨てたりなんかしない。見放したりなんかしない。


 俺の生徒でいる限り、たくさん説教と小言を言って、宿題を出して、進路指導もみっちりしてやる。甘ったれた考え持ってたらとことん分からせてやる。


 この子が立派な大人になれるように……。


「『そばにいてください』だって? 言われなくても鬱陶しくなるくらいそばにいてやる。それどころか、とっとと卒業して能登とおさらばしたいと思わせてやる。だから覚悟しとけ!」


 意気揚々とスパルタ指導宣言をして、ポンと手のひらを頭に乗せた。それが合図になったかのように、五十嵐はまた嗚咽混じりに涙を流して俺の胸に縋りついた。

 その泣き声は先ほどまでのヒステリックな悲鳴ではない。脆くも健全な少女の泣き声だった。

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