第17話 女子校生「パンツ、気になりますか?」
「それじゃあ掃除道具はこれを使って」
掃除機、雑巾、ハンディワイパー。家にある掃除道具を一通りかき集めて五十嵐に手渡す。
「ありがとうございます。それでは使わせていただきます」
五十嵐は頭に三角巾を巻いて頭髪を固定した。きりっと引き締まった眼差しは、学校の掃除の時間に見劣りしておらず、本格的なお掃除モードだと見て取れる。
やっぱり五十嵐は良い子だなぁ。こんな良い子を疑っていた自分が恥ずかしい。
「それじゃあ、お掃除始めちゃいます」
宣言すると五十嵐は羽織っていたパーカーを脱ぎ、丁寧に畳んでベッドの上にそっと置いた。
その下に着ているのは黒いミニワンピ。華奢な腕を脇まであらわにするノースリーブと、白くて眩しい太ももを露わにする短い丈のデザインだ。
意匠はシンプルで飾り気がないものの、タイトな作りでジャストフィットサイズなため身体のラインがくっきり浮かび上がっている。中学一年生の頃に比べて胸とお尻が発育し、くびれたウェストがコントラストを織りなし、女性らしさを強調していた。
うーむ、この格好はどうなのだろう……。
デートで恋人が着てくれたらますます惚れちゃうが、掃除に適切とは言い難い。
「い、五十嵐……」
「はい、なんでしょう?」
「今日、ちょっと肌寒くないか? 身体が冷えると良くないから上着は着ててもいいんじゃないかな?」
「そうですか? むしろポカポカ陽気ですよ。どのみち掃除してたら身体が温まってくると思いますし」
動き回ると暑くなって、汗をかくかもしれないからアウターは不要。
その判断自体は間違ってはいないと思う。
でも別な意味で間違いを犯してる。
成長が見れて先生は嬉しいけど、ちょっと危機感持とうか?
「そ、そう……。寒なったらすぐ上に羽織るように」
「はい、分かりました! 先生ってやっぱり優しいですね」
そんな、陽だまりのような笑顔でうっとりしないでくれ……。不可抗力とはいえ、いかがわしい視線を向けてしまった自分が恥ずかしくて消えたくなる……。
そんな調子だからいざ掃除を始められるとまた邪念に苛まれた。
屈んだ際、重力に引っ張られて存在感が強調される胸は、まさにたわわに実った夏みかん。
部屋を動き回る時にはワンピースの短い裾が蝶のようにひらひら舞う。加えて五十嵐は上機嫌にお尻をふりふり揺らす始末。
目の保養だけど、目の毒だ……。
生徒を淫らな目で見るなんて、教師失格。
俺は『紳士な能登先生』だ。なるべく五十嵐を見なくて済むよう、俺も掃除を手伝おう。
五十嵐の邪魔にならないよう俺は机に積み上げていた紙類や本を整理することにした。彼女も「処分していいか分からないから」と机には触らないよう気を遣ってくれている。本当に気の利く子だ。
「掃除機終わり! 次は雑巾掛け!」
雑巾に持ち替えた五十嵐は床に手と膝をつき、床磨きを始める。
……始めるのだが、またしても問題が。
五十嵐は四つん這いの姿勢になっている。そして繰り返しであるが彼女のスカートは短い。
すると何が起こるのか?
そう、スカートの中が見えそうなのである。
太ももの太くてぷにぷにしてそうなところまでが露出している。
……もう少しで……見えそうだ。
五十嵐の柔らかそうなお尻が……十代の初々しい少女のお尻が……。
こちらに向けられてないから紙一重で見えないが、万が一にでも……。
……いやいや、いかん!
また俺は邪な考えを抱いている。心頭滅却、心頭滅却。
自らに言い聞かせ、机の整理に戻る。その際、手に取った古新聞の見出しが目についた。
『男性教諭、職場盗撮で逮捕』
『「少女の下着に興味があった」と供述』
わぁ……やらかしたなぁ、この人……。
下着の盗撮も立派な犯罪だ。加えて教師が教え子にだなんて卑劣極まりない……。
されど俺とて他人事ではない。パンチラを虎視眈々と狙っていては未必の故意。卑劣な盗撮教師と大差ない。
見ないように見ないように……。
「きゃ!?」
明鏡止水の心に落ちる大石。俺の心はにわかに水飛沫を上げ、反射的に振り返る。
「五十嵐!? どうかし――ぶふぉ!?」
目に映ったのは四つん這いになった五十嵐のお尻。掃除に集中していたせいか、スカートは捲れ上がり隠すべきものを隠せてなかった。
「なーんだ、虫かと思ったら黒い消しゴムでした。大きな声上げてすみません……先生?」
姿勢を変えず首だけで振り向く五十嵐。俺と目が合うと眉尻を下げ、違和感を訴えた。
しかし今の俺に紳士的に取り繕う余裕はない。
お尻が……五十嵐のお尻が丸見えになってる!?
シンプルな濃紺のインナーに覆われた、たわわな桃みたいなお尻がぷりんと……。
やっぱり、子供と思っていたが身体はもう大人だ。間近で見るお尻の色気と、ある種の迫力にドギマギし、俺は咄嗟に両手で目を覆った。
「五十嵐! スカート、スカート!」
見てしまったのは不可抗力。せめて紳士的に指摘して正常な状態に戻してやらねば……。
五十嵐は指摘されても何のことかピンと来てない様子。やや時間を置いて自分の目で確認し、ようやくめくれているのに気づいた。
「ありゃりゃ、めくれてましたね。お目汚し、失礼しました」
いえいえ、お目汚しだなんてとんでもない。むしろ目の保養をどうもありがとう……ってそうじゃない!
なんでそんなに冷静なんだ。普通、恥ずかしがったり、見た人を睨んだりするものじゃないのか? 「先生のえっちー!」みたいに。
「五十嵐、あのな……先生のことを信頼してくれているのはよく分かった。だが、相手が誰であれ、女の子は恥じらいとか貞操観念を持ってなきゃダメだと思うぞ」
隙だらけだとケダモノに襲われかねないからね?
もちろん先生はそんなことしないけど!
「もう! 子供じゃないんだからそれくらい分かってますよーだ」
そうかなぁ? 君、パンチラしたり写真送り間違えたり隙だらけだよ。
「今日はちゃーんと、対策してるんですよ?」
疑う俺に、五十嵐は立ち上がって対峙した。
そしておもむろにスカートの裾をたくし上げ、神秘に包まれた内側を惜しげもなく晒したのだった。
それは学校でうっかり晒しちゃう白や水色といった鮮やかな色でも、先日思い切り見てしまった黒紅でもない、濃紺無地な簡素なインナーだった。
「今日は見せパン履いてるので恥ずかしくないのでした!」
と、なぜか五十嵐は誇らしげに見せパンを見せびらかした。まるで上手に描けた絵を褒めてほしくて自慢する子供のような無邪気さ……。
いや、「えっへん」じゃないよ!?
パンツじゃないからは恥ずかしくないの!?
パンツじゃなくても恥ずかしがって!
しかも見せパンと言っても布面積はパンツよりちょっと広いくらいなので、太ももの際どいところまでしっかり見えている。普段スカートで隠れている部分なので、それだけでも刺激が十分強い。
さらには腰の上、お茶目で可愛いおへそも顔を覗かせた。
プスプス、と俺の頭から煙が吹き出し、けたたましいアラートが鳴り響いた。
「えへへ。見せパン、あんまり可愛くないけど今日履いてるのは刺激が強いかもだからさすがに隠したのでした」
「今日は……刺激が……強い……」
「はい」
いったいどんな下着だというのだ……。
初心な少年みたいに固まった俺を、五十嵐は笑った。
それは、最近見せるようになった、妖艶で、どこか魔性な黒百合のような微笑みであった。
ふわり――
柑橘系の甘酸っぱい香り。
俺の意識が飛んでいる間に彼女は顔を近づけてきて、そっと耳打ちをした。
「今日履いてるの、この前見せたやつの色違いなの。何色か当ててみて、センセイ」
当てる……予想してみろと?
先日の黒くて大人びた下着よりも刺激の強い下着を……?
この前は想像するなと言ったのに、今日は真逆……。
なんなんだ、この子は……。
俺を挑発して、煽って……。
「センセイ、私、さっきアッチの方見ちゃいました」
「あっ……ち……」
「はい。すっごく溜まってましたね。奥さんがいなくなっちゃったから、仕方ないですよね」
蜜のような甘い響き。ねっとり、耳から侵入し、脳をじわじわ侵食して官能に染め上げる淫魔のごとき囁き。
そのくせ五十嵐は初心に頬を紅潮させ、瞳を静かな湖面のようにきらきら、ゆらゆら波打たせている。
されど芯の強い眼差しは逸らすことなく、俺の一番深いところにある領域を覗き込んでいた。
「今日は私がセンセイの奥さんの代わりですから、全部シてあげますね……」
なんかもう……どうでもいいや……。
全部、五十嵐に委ねてしまおう……。
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