最終話 本当の日々

華やかな学生生活が終りを迎える予感がしていた。

文字通りの意味でもう大学に通うことはないのかもしれない。

と言うよりも通えなくなるはずだ。

GWがやってきて僕とカグヤは揃って実家に帰ってきていた。

僕の両親に前もって連絡をして予定を合わせて実家で顔を合わすことになっていた。

カグヤが口にしていたように僕の両親は結婚に猛反対した。

「ダメよ。許さない」

母親は固く口を閉ざすと僕らの結婚には反対意見しか無いようだった。

父親は言わずもがな口を閉ざして首を左右に振るだけ。

「両親の言う事でも聞けないな」

「じゃあ家族と離れて生きていきなさい。もう何の世話もしない。絶縁よ。それでも良いの?」

「そうなる運命だから仕方ないね」

「何言ってるの?運命だなんて…わけわからないこと言わないで」

「僕らにしかわからないことだから。僕は結婚して星解の婿に入るよ」

「本気で言ってる?」

それに頷いて応えると母親は完全に呆れた表情を浮かべると手を払うような仕草を取った。

出ていけとでも言うような両親の様子に納得すると僕は完全に勘当された。

その様子を確認してカグヤとともに立ち上がると父親が最後に珍しく口を開く。

「我を通そうと言うんだ。学費も払わんからな。これからも大学に通うつもりなら自分で学費を払え」

それに頷くと今度こそ僕とカグヤは実家を出ていく。

もう戻れなくなった家族に対して不思議と未練がなかった。

「大学はどうする?」

家を出て二人のアパートに帰る途中にカグヤはスマホの画面を覗きながら口を開く。

「通う必要が無くなったかもね」

「でも雪見は大学でやりたいこととか学びたいことあったんじゃないの?」

「いや…元カノに一緒の大学に通いたいって言われて勉強を頑張っただけだから。僕の意志で積極的に通いたかったわけじゃない」

「そう言えばそうだったね。どうする?このまま星解の実家に戻る?」

「一度そうしてみようか。あっちでやること見つけるよ」

「そうね。二人が一緒なら生きていけるわよ」

カグヤの言葉に頷くと僕らは早々にアパートへ帰宅する。

数日掛けて部屋の荷物を纏めると引っ越しの準備を整えた。

カグヤが手続きを済ませてくれて恙無く引っ越しの準備が整うと大学へと向かい退学届を提出した。

それを受領してもらうと僕らはキャンパスから出ていこうと歩き出す。

「何処かに行ってしまうの?」

僕を待ち伏せていたのかさらりとかがりが険しい表情を浮かべて現れる。

「そうだね」

短い言葉を残して二人のことを置き去りにしようと歩き出す。

「私達のこと捨てるの?」

さらりの言葉を耳にして僕はそれに頷くことしか出来なかった。

「あの日々は全部ウソなの?」

ここで首を左右に振ることも出来たはずなのに僕は頷いてしまう。

「そんな…私は所詮、雪見くんの人生のモブ女子だったってこと?」

それには応えることもなく僕とカグヤは黙ってキャンパスを後にするのであった。


後日。

引越し業者が荷物をトラックに積むと僕らはアパートを出て新幹線に乗り込んだ。

「カチカチのアイス食べながら帰ろ」

カグヤは美しい表情で微笑むと僕らは車内販売のアイスを買って席に座った。

「これから…雪見は苦労する。今なら戻れるかもよ?」

「今更だろ。何もかもを捨ててカグヤと一緒になるって決めたんだ。その覚悟に揺るぎはないよ」

「そう。それならもう何も言わない。これからいつまでも一緒に居てね」

「そういう運命なんだろ?」

カグヤはそれに深く頷くので僕はそれ以上何も言わない。

数時間掛けてカグヤの地元に戻ってくると無人駅に見慣れない人々が僕らを待っていた。

その中心にカグヤの母親と父親が待っていて僕は理解する。

「星解にようこそ」

カグヤの母親の暖かい笑みを受けて僕のこれからの居場所を理解する。

「ここに居るのは皆一族の人間。嫌われ者の集まりね」

カグヤの母親はジョークでも言うように笑っていた。

「僕は嫌いませんよ」

「そうね。これからは貴方も嫌われ者の一族になるんだもの」

「そうですね。これからどうぞよろしくお願いします」

そこにいる全員に頭を下げると彼らは快く迎えてくれる。

「懐かしいな。俺の時もこんなだった」

「最初は不安で心細いと思うけど。いつでも私達を頼りなさい。味方は一族の人間だけだからね」

「わからなくなったらカグヤに尋ねると良い。抱えている不安も消えるはずだ。未来を教えてもらいなさい」

「独りだなんて思わないで。貴方を捨てた家族や捨ててきた友人のことをもう考える必要はないわ」

星解の人達に支えてもらう言葉をもらいながら僕らはカグヤの実家に戻っていく。

用意してもらっていた様々な用紙に記入していくと僕は星解の婿に入りカグヤと結婚することは決まった。

これから僕は新たな地で生きていくことを決めると何処か吹っ切れた気分だった。

何の柵もなくこの狭い閉鎖的空間で生きていく。

もう周りを気にする必要がないと思うと何処か楽だった。

僕の今までの人生は何だったのかと少しだけ振り返ったがそれに答えなど無かった。

ただ運命の相手に導かれるように遠回りしてきただけだ。

今まで僕に関わってきた相手は僕とカグヤの人生にとってただのモブだったのだろう。

そう自分に言い聞かせるとここからの本当の日々に思いを馳せるのであった。

                 完

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