第75話仲間との決別
大学生になって気付いたことがある。
毎日違う服を着るのが面倒くさい。
決まった服装や制服という制度は有り難いものだったのだと今更ながら理解する。
そして、これは一般の学生には関係のない話なのだが…カグヤと居ると周りの視線がずっと険しいものだったことだ。
カグヤに話しかけに来る学生は存在しない。
大げさではない話、目を合わせようとする人も存在しない。
カグヤはそれに慣れているのかずっと涼しい顔をしている。
初めて謂れのない敵意や悪意にも似た視線を受けて僕はカグヤの今までの苦労を考えていた。
彼女は生まれてからずっと家以外の場所ではこの様な視線に晒されていたのだ。
それを思うと僕はカグヤをもっと大事にしたいと思った。
間違っているのは周りの方だとでも言うように自分に言い聞かせて本日もカグヤと二人で過ごしていた。
「学食のうどんが一番安い。安いのに美味しい」
「100円って赤字じゃないのかな?」
「最安値で出してるんじゃない?流石に赤字じゃないわよ」
「そう言えば以前…将来のこと考えているって言ってたけど。具体的には?」
「ん?どういう意味?」
「職に就かないわけじゃないでしょ?」
「まぁね」
「でも…その…カグヤは他人と関われそうにないと思うけど?」
「他人と関わらない仕事をする」
「そんなものってあるの?」
「いくつか」
それに頷いてうどんを啜ると汁を飲み干して器をテーブルに置いた。
「逃げるか戦うか。あと二分で考えて」
唐突にカグヤは僕の目を真剣に見つめると冗談とは思えない言葉を口にした。
「逃げる?戦う?何のこと?」
「だから。また面倒な相手が雪見のもとにやってくるよ」
「え?なんで分かるの?」
「それは今度言う。今は早く選んだほうが良いと思うな。今日の相手はこの間みたいな簡単な相手じゃないよ」
「簡単な相手じゃない…」
「ちなみに逃げると後が面倒くさいけど」
「じゃあ戦う」
「分かった。私はお手洗いに行ってるね」
それに頷くとカグヤは学食を出ていく。
入れ替わるように学食に姿を現したのは久しぶりの
「久しぶりだね。事情は二人から聞いたよ。何があった?」
南雲は隣の席に腰掛けると伺うような表情を浮かべて尋ねてくる。
「いえ。特に何もないんですけど…」
「そんなことはないだろう。あんなに大事にしていた副嶺と別れて…別の女性と付き合っている。その相手は既にキャンパス内での嫌われ者の立ち位置に居る娘だ。何があった?」
「本当に何もないですよ。高校生の頃からの知り合いですし。さらりちゃんとは違って面倒なところも無いですし。今のところはですけど」
「面倒なところは十二分にあると思うが?」
南雲の言葉に首を傾げて応えると彼女は何でも無いように口を開く。
「あの娘と居ることによって君まで嫌われ者になる。それに今のこの状況だって君からしたら面倒なんじゃないのか?」
「たしかに面倒ですね。ただ僕はカグヤを独りにしたくないだけなんです」
「それは何故?」
「何故って…好きだからですよ」
「信じられないな。どうして好きになれる?」
「言っている意味がわかりません」
「周りを格下に見ているだろ?見下されている自覚はないのか?」
「無いです。僕らは対等な関係ですよ」
「君以外は全員見下されている自覚がある。だから敵意を持っている」
「気の所為ですよ。皆の被害妄想だ。カグヤが可哀想過ぎる」
「自覚がないなら…何を言っても無駄だな」
「そうですね」
「では今後…私達には関わらないで欲しい」
「了解しました」
「本当に良いんだな?それは副嶺や姫野とも関われないということだぞ?」
「そちらがそれを望むのであれば仕方ないです。僕はカグヤを取ります」
「どうしてそこまで頑ななのか…」
南雲はそれだけ言い残すと学食を後にした。
彼女が学食から消えたと同時にカグヤは戻ってくる。
「今日はカレー作るね」
戻ってきたカグヤはスッキリとした表情で口を開く。
「いいね。多めに作って冷凍しておこう。うどんにも蕎麦にも合うからカレーは良いよね」
「じゃあスーパー寄って帰ろ」
それに頷くと僕とカグヤはキャンパスを抜けていくのであった。
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