第63話体育祭の復活
さらりとの決別からいくらか時が経とうとしていた。
二学期が始まって一ヶ月も経とうという頃、五限目のLHRであのイベントの話し合いが開かれる。
「去年は体育祭が無かったということで運動部を中心に意見が出たことは言うまでもないのですが…今年の生徒会長である姫野さんは全生徒の要望を叶えたいということで体育祭を復活させてくれました」
担任教師の話し出しを耳にした陽キャグループは黄色い声をあげて大いに喜んでいた。
「ただし。喜ぶには早いですよ。文化祭の日程は一日になりますしテスト期間は例年よりも一週間伸びます」
テスト期間とはテストを含む準備期間も指している。
「テスト期間に部活はできないの?」
運動部の生徒の困ったような声が教室に巻き起こる。
「そうなります。学校のルールを変更するのはそう容易く無いのです。しかしながら去年の生徒会長は特別でしたからね…姫野さんは体育祭を復活させるのに尽力してくれました。校長や理事長に直接単願して…やっとの思いで少数の生徒の願いをもぎ取ったのです。その代償がテスト期間の延長です。一、二年生はテストよりも部活に精を出したいでしょうが…三年生は受験も控えていますし丁度いいでしょ?この機会に勉強を頑張ってください」
担任教師はきっぱりと言い切ると話を進めた。
「じゃあ体育祭の種目決めをします。体育委員。お願いします」
声を掛けられた体育委員の男女が教壇に立つと話し合いは始まった。
「では最後に全学年男女混合リレーのメンバーを決めたいと思います」
滞り無くメンバーが決まっていく中で僕は参考書を広げて上の空だった。
「ここはカグヤさんが教えてくれた所で…こっちはかがりちゃんが教えてくれたっけ…」
復習をしつつ放課後は何処で過ごそうかと考えていると体育委員が黒板にチョークで書き記す音が聞こえてくる。
「真田くんはどの種目にも出場してないから…リレーで良いよね?」
「ん?なに?」
黒板に目を向けると体育委員が僕の許可を得ることもなくその種目に名前を書き記していく。
「いや…ちょっと…」
「え?でももう他の種目は決まってるから。ここから変更するにはまた時間がかかって…皆の部活の時間を奪うことになってしまうから…」
困り果てた表情を浮かべる体育委員の顔を見た僕は仕方なく頷く。
「では全ての種目は決まったのでこれにて種目決めを終わります」
体育委員が自席に戻っていくと担任教師が口を開く。
「残りの時間は自習でお願いします」
その言葉に従うように殆どの生徒が参考書や教科書を机に広げた。
前の席の方にいるさらりのことがふと視界に入った。
彼女は努力の手を止めずに今も一人で頑張っているらしい。
僕もさらりのその姿に力をもらうと自習に集中する。
終業のチャイムが鳴るまで自席で自習をして過ごすと放課後はやってくるのであった。
「おつかれ〜。種目、リレーに決まってたね」
かがりは僕の席までやってくると冷やかすように口を開く。
「そうなんだよ…困ったな」
「何で?足遅いの?」
「普通だけどリレーは得意じゃない」
「どういうこと?」
「バトンがあるから…」
「だから?」
「いや…僕ってあまりコミュニケーション取るのが得意じゃないから…」
「それとバトンが何の関係があるの?」
「え?もしかしてかがりちゃん…今までリレーの選手になったこと無いでしょ」
「………」
言葉に詰まったかがりは唇を尖らせると拗ねたような表情を浮かべていた。
「ごめんごめん。意地悪言いたいわけじゃなくて。バトンパスって結構対人スキル問われるんだよ」
「そうなの?ただバトン渡すだけでしょ?簡単じゃん」
「慣れた人がやってるのを見ると簡単そうだよね。でも実際にやるとムズいんだ。もしもバトンを落としたときのロスは凄いし明確なルールを知らないと違反になるし。考え出すときりがないけど…バトンは無くして欲しい。タッチしたら走者交代。ぐらいのルールであってほしいよ…」
嘆きの言葉を耳にしたかがりはウンウンと頷くと提案を口にする。
「皆誘って練習してみる?バトンなら借りられると思うし」
「良いの?」
「うん。でも肝心の走力は大丈夫なの?バトンパスが上手いだけで走るのが遅いんじゃ意味なくない?」
「そこはコソ練する…」
「コソ練って…勉強もあるのに大丈夫?」
「スケジュール組んで無理しない範囲でやるよ」
「私達も協力していいかな?体育祭まで体動かしておきたいし」
「分かった。いつから始める?」
「今日からでもいいよ」
「OK。じゃあ早速協力してくれると助かる」
かがりとの会話を終えると白と五月雨に連絡を入れて待ち合わせをするのであった。
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