第62話白とデート1
普段の学校生活はかがりと過ごす時間が多かった。
他の仲間達とは違い同級生であることから一緒に行動する時間は長い。
それでも昼休みは図書室で仲間たちと集まって勉強をしつつ談笑を交わす。
「この間、先輩と休日にデートしたんですよ!」
五月雨が嬉しそうな表情で口を開くと対抗するようにかがりが口を開く。
「私だって放課後デートしたわよ」
二人は視線を交わすとお互い負けじとデートのときの自慢話をしていた。
「私だけデートしてません…」
清瀬は明らかに落胆したような表情を浮かべると俯いた。
「仲間外れにしたわけじゃないよ。デートぐらいだったらいつでもするから」
慰めるような言葉を口にすると清瀬はぱっと表情を明るくさせた。
「今日でもですか!?」
唐突な提案に僕は思わず頷いてしまう。
「雪見くんは受験生なんだから無理はさせないでよ?」
かがりは清瀬と五月雨に忠告をする。
「かがりさんだってデートしたんですよね?それなのにそんな言い方ないですよ」
清瀬は頬をふくらませると拗ねたような表情を浮かべる。
「わかったわよ…じゃあ今回だけね」
「なんでかがりさんが決めるんですか?」
「じゃあ雪見くんが了承したときだけにしましょ?決して無理はさせないで。私も出来るだけそう心がけるから」
「そうですね。私達のせいで進学先が変わってしまうのは避けたいです」
女子陣三人はそれに頷くと机の上の教科書に目を落とした。
僕は少しだけ苦手意識を持っている問題を中心に解いているとかがりが口を挟んだ。
「そこ。苦手な感じ?」
「そうなんだよね。毎回ここに時間取られて…」
「それならこう考えたら…」
そう言うとかがりは難問を解くコツを丁寧に教えてくれる。
「こうすれば簡単に解けるでしょ?」
「本当だ。何でこんな簡単なことに気付かなかったんだろ…」
「応用を上手く活用できればどんな問題でも解けるよ。この間のクレーンゲームみたいなものだよ」
「最適解を導き出すってこと?」
「そういうこと」
「アドバイスありがとう。慣れるまで特訓するね」
「難しく考えすぎないで」
それに頷くと昼休みが終わるまで勉強会は続くのであった。
放課後。
清瀬は三年生の教室を訪れると僕の姿を探しているようだった。
「清瀬さん。おまたせ。HRが長引いちゃって…」
僕の声に反応をした彼女はこちらを振り返る。
「いえいえ。真田先輩を探す時間も楽しかったです」
「廊下から教室を覗いているのが見えて…笑いそうになっちゃたよ」
「酷いです…私は真剣に探していたのに…」
「小動物みたいで可愛らしかったってことだよ」
「かわいい…ですか?」
それに頷いて応えると僕らは揃って廊下を歩いていく。
突然後ろから大きな足音が聞こえてきて振り返ると不機嫌そうな表情を浮かべたさらりが大股で廊下を進んでいく。
僕らの近くを横切る時に冷たい視線を送るとさらりは一人で帰宅していった。
「露骨な態度ですね…」
清瀬は困ったような表情を浮かべると一つ嘆息した。
「まぁ僕に当たりたい気持ちは分かるけどね…自分は無理して頑張っているのに僕らだけが楽しそうにしていたらムカつきもするでしょ」
「でも…その道を選んだのはさらりさんですよ。真田先輩が楽しんじゃいけない理由にはなりませんし勉強を疎かにしているわけでもないですよね。遊んでいても集中する時はするって切り替えが上手に出来ているだけじゃないですか。逆を言えばさらりさんは切り替えが下手なだけじゃないですか?それさえ出来れば心に余裕を持てると思うんですけどね…」
清瀬は呆れたような表情を浮かべると僕の表情を確認しているようだった。
「さらりちゃんはあれで良いんじゃないかな。ただ不器用なだけだから。やることはちゃんとやれる人だって知ってるし。きっと成果もちゃんと出すよ」
「元カノのことを信じているんですか?」
「僕らは喧嘩別れではないと思っているからね。さらりちゃんはどう思っているかわからないけれど…僕はさらりちゃんならできるって未だに信じてるよ」
「そうですか。真田先輩も久しぶりの自由を楽しんでください」
「そうだね…。それで何処に行こうか」
「えっと…」
清瀬はそこでスマホを取り出すと何やら検索をしているようだった。
「今の時間なら空いているかもしれません」
「ん?何処が?」
「お気に入りのアイス屋があるんですよ。いつも行列が出来ているんですけど。この時間なら空いているかも。早く行きましょう。混む前に」
校舎を抜けると清瀬は小走りで目的地まで向かう。
だが不幸なことに本日は既に行列ができている。
「並んでもいいですか?」
了承を得るように問いかけてくる清瀬の質問に頷くと僕らは列の最後尾に並ぶ。
「そう言えば…唐津さんのこと名前呼びするようになったんですか?」
「うん。そうして欲しいって言われたから」
「じゃあ私も名前呼びが良いです」
「白さん?」
「ちゃんが良いです」
「白ちゃんね。わかった」
「私も雪見先輩って呼んでいいですか?」
「先輩は要らないよ」
「じゃあ雪見さんで…」
それに頷くと少しずつ暑くなってきた街の中で僕らは行列を少しずつ進んでいく。
「何か問題出してくれませんか?」
「ん?二年生の範囲で良いのかな?」
「はい。今まで習ってきた範囲だったら何でも良いです」
「じゃあ…」
そこから僕は白に対して問題を出していく。
彼女はそれに真面目に取り組むと二人だけのゲームのような時間は続いていく。
「ヒント!ヒントください!」
「えっと…」
少しだけ手助けをしつつ彼女の学力を上げるように際どい問題をいくつも出していく。
「雪見さんって本当に頭いいんですね」
「鍛えてもらったから。僕だけの努力の成果じゃないよ」
「そうは思いませんけど。努力の成果は自分だけのものですよ」
「そう言ってくれてありがとう」
長くも短くも思える時間が過ぎていくと僕らが注文する番がやってくる。
「バニラにしようかな」
メニューを見てオーソドックスな物を注文する。
「私はチョコミントで」
店員に注文を終えるとアイスクリームは提供される。
「ベンチに座って食べましょ」
それに頷くと僕らは近くのベンチに腰掛ける。
アイスを一口食べると濃厚な味に目を見開いた。
「美味っ…初めてこんなに美味しいの食べたよ」
「そうでしょ?ここのアイスはすごく濃厚な味わいで一度食べると病みつきになるんですよ」
「病みつきになるのも分かるな。既にまた来たいかも」
「良かったらまたご一緒してもいいですか?」
「是非」
「私のも一口どうです?次来たときの参考になるかもしれませんよ?」
白は少しだけ顔を赤くしながら背伸びをした提案をしてくる。
「じゃあ一口」
白のチョコミントアイスを一口貰うと味を確認する。
「こっちも美味しいね。僕のもいる?」
白にアイスを差し出すと彼女は思い切って口を開く。
そのまま僕のアイスを一口食べると恥ずかしそうな表情を浮かべていた。
「やっぱり美味しいです…」
照れくさそうにしている初々しい白を見て僕は破顔する。
「また来ようね」
「はい。絶対です」
次の約束をすると僕らの放課後デートは日が暮れるまで続くのであった。
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