第61話かがりとデート1
未練が無いとは言えないが同じクラスに元彼女が居るというのは少しだけ居心地が悪かった。
さらりの存在はどうしても気になってしまい視界の端に捉えることが多かった。
チラチラとさらりの一挙手一投足が気になってしまうとかがりが僕の席までやってくる。
「もっと堂々としてなよ。雪見くんが原因で別れたわけじゃないんだから。何も後ろめたいことしてないでしょ?」
「そうなんだけどね…それでも気になるから…」
「別れた彼女のことをいつまでも引きずっていても良いこと無いわよ。それよりも次に進みなさい。まぁ今は何よりも勉強が最優先だと思うけど」
「そうだね。家に帰っても勉強ばかりでちょっと疲れたな」
「じゃあ息抜きする?」
「息抜き?」
「そう。放課後にゲームセンターでも行かない?」
「かがりちゃんにしては意外な場所を提案するんだね」
「クレーンゲームが好きなのよ」
「そうなんだ。じゃあ一緒しようかな」
「わかった。じゃあ放課後にね」
僕とかがりのやり取りを耳にしていたであろうさらりは鬱陶しそうな表情を浮かべると僕らに聞こえるように一つ舌打ちをした。
その後バンと机を両手で叩くとおもむろに立ち上がり教室を抜けていく。
「気にしなくていいわよ。勝手にプレッシャー感じて一人で追い込まれているだけだから。あの問題は自分でしか解決できないわ」
「そうだね…僕らも二学期が終わる頃にはあんな感じになるのかな?」
「どうかな。少なくとも私はならないよ」
「かがりちゃんは余裕そうだね…」
「まぁね。私はずっとやってきたって自信があるし今までに散々結果も出してきたから」
「さらりちゃんも学年2位って結果を出し続けてきたはずなのにね…」
「それほど1位と2位には差があるってことでしょ。私も私のために手を抜くことは出来ないわ。心苦しいけれど自分でどうにか這い上がって本来の自分を取り戻してもらわないと…」
「そうだね。今は静観しておこう。同じ大学に通うようになったときにでも本格的に仲直りできたら良いけど…」
「別に喧嘩しているわけじゃないでしょ?さらりが勝手に自爆しているだけよ。私達は悪くなんて無いわ」
「そうかな…一方的にどちらかが悪いなんてことは無いと思うけど…」
「いやいや。今回は例外よ。さらりが周りに当たり散らかしているんだもの」
「………」
かがりとの会話に詰まると現在のさらりの心境を考えた。
きっと彼女は一人で孤独な戦いに身を投じているのだろう。
誰からの救いの手も拒み続けて一人で戦いに勝利することを望んでいる。
僕らには見守ることしか許されていない。
心苦しい限りだが僕は僕自身のことに集中するのであった。
放課後がやってきて僕とかがりは揃って校舎を抜ける。
駅前のゲームセンターまで歩いて向かうと早速かがりがゲームをプレイしていた。
「弟たちにはお菓子の大袋を取ってあげないと」
かがりは真剣な表情を浮かべると早速クレーンを操作していた。
200円でかがりは商品をゲットすると袋にしまう。
「凄いね。絶対に動かないと思ってたんだけど…」
「慣れだよ。それに設置の設定が甘かったから取りやすかったよ」
「凄いね。素直に感心する」
「弟たちは食べざかりでお菓子の消費も激しいの。ここでなら大袋を数百円で取れるから。普通に買うよりも相当安上がりで助かるんだ」
「流石長女だね。家庭のことも考えてるんだ」
「っていうのは体の良い言い訳のようなもので…本当は私が楽しんでいるだけ」
「そっか。それでも兄弟は喜ぶんじゃない?」
「まぁね。妹にはぬいぐるみね。最近ハマっているアニメのキャラは…」
かがりは店内を歩いて周るとぬいぐるみのクレーンゲームの前で足を止めた。
「んん〜。ムズそうだな…」
独り言のように言葉を漏らすとかがりはぬいぐるみの正確な位置をしっかりと確認する。
「一旦引き上げて…移動したら落とす感じだね。2回で取れるはず」
僕にはわからないことを口にしたかがりは宣言通りに2回のプレイでぬいぐるみを獲得する。
「凄い!宣言通りだ。一回目のプレイを見た時は絶対に取れると思わなかったのに…どうやったの?」
「まぁこれも慣れだね。私が発明した技術でも何でも無いよ。動画配信サイトとかで検索してみたら?色んな技があって…設置されている位置とか種類によって使い分けているだけなんだ。最適解を導き出せば自ずと取れるようになっているんだよ」
「いやいや。それでもこんなに簡単に取れるものじゃないでしょ…」
「だから慣れだって。コツを掴んだら簡単だよ。雪見くんもやってみる?」
「僕は良いよ。見てるだけで十分楽しかったから」
「それなら何か取ってあげようか?」
かがりの提案を耳にして店内のクレーンゲームを見て周る。
「じゃあ僕もお菓子の大袋が良いな。お金は出すから」
「良いよ良いよ。初の放課後デートの記念に取ってあげる♡」
かがりは美しく微笑むとワンプレイで景品を取ってみせる。
「はい。どうぞ」
「ありがとう。何かお礼をしないと…」
僕の言葉を途中で遮るように首を左右に振ったかがりは微笑みながら口を開いた。
「これに懲りずにまたデートしてくれたらそれでいいよ」
「そう。そんなんでいいならいつでも」
「ありがとうね」
「こちらこそだよ」
そこから18時を迎える前にゲームセンターを出ると僕らはそれぞれの帰路に就くのであった。
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