第59話仲間たちのお陰で折れずにいられる

本格的に二学期が始まると僕とさらりが別れたという噂は急激に広がっていた。

「本当に良いの?このままで…」

かがりは休み時間の間も勉強に取り組んでいるさらりに問いかけていた。

「良いも悪いも…今付き合っている状態を続けても意味ないし。相手にすることも出来ない。私は自分のことで精一杯なの」

「でも精神的な支えになってくれるでしょ?今までの感謝とかはないの?」

「あるよ。でも結局私は一人でも暮らすことが出来るから。誰かに支えて貰う必要は何処にもない」

「何勝手なこと言ってるのよ…恋人や友達を大事にするのは人として当たり前なことじゃないの?」

「そうなの?私は自分さえよければ…」

さらりは明らかに強がりのような言葉を口にするとかがりは呆れたように嘆息した。

「自分のことも大事にできているとは思えないけど?そんなさらりだから雪見くんのことも手放したのね。完全に自分を見失っているわよ。そんな貴女は私のライバルでも何でも無い。ただ独りよがりで独善的にしか物事を考えることが出来ない獣よ。自分を取り戻すまで私にも話しかけないで」

「そんなの…こっちこそ望むところよ」

二人は完全に仲違いするとかがりは僕のもとにやってくる。

「バカのことは気にせずにこれからも唐津さんと清瀬さんと仲良くしましょ?友達や恋人の大切さもわからない人間を諭すような暇は私達にだって無いんだから」

それにどうにか頷いて応えるとそこからさらりを抜いた仲間で過ごす日々は続いていく。


心に穴が空いたような生活が続いていくが僕の味方をしてくれた仲間たちのお陰で折れずにいることが出来ていた。

「雪見くん。これからは私が勉強教えるわよ」

放課後の教室でかがりは自信たっぷりな表情を浮かべると僕に微笑みかける。

「良いの?面倒じゃない?」

「大丈夫よ。私は気持ちさえ負けていなければいつだって満点を取れるんだから」

「凄い自信だね。それだけ勉強してきたって証かな?」

「もちろんよ。もう誰にも負けるわけ無いんだから」

「じゃあ…お願いできるかな」

「喜んで」

僕とかがりのやり取りを視界の端で捉えていたさらりは、ふんっとわざとらしく鼻息を立てるとカバンを持って席を立つ。

そのまま帰路に就くさらりの後ろ姿を眺めながら僕とかがりのやり取りは続く。

「清瀬さんと唐津さんの勉強の世話をする約束をしてて…良かったら皆で勉強会しない?」

「うん。是非混ぜてほしいな」

「よし。じゃあ駅前のファミレスに行こう。二人は先に行ってるはずだから」

それに頷くと僕とかがりは揃って駅前のファミレスへと歩き出すのであった。


「先輩!別れちゃったんですか?忠告したのに…良かったんですか?」

席に着くと早々に唐津が口を開く。

「いや…相手のいることだからね。僕一人の決断ではどうしようも出来ないんだよ。さらりちゃんは今いっぱいいっぱいだから…説得するのも無理そうだった」

「そうですか。まぁ無事に別れてくれたのなら今度こそ私達のチャンスですかね?」

可愛らしく微笑む唐津に苦笑の表情を浮かべると対面の席に腰掛けていた清瀬が口を開いた。

「受験って大変なんですね…あれだけ仲の良かった二人が別れるだなんて…元気なかったらいつでも言ってください。あの時、助けてもらったお礼は出来ていないので…これからしっかりとさせてください」

「お礼だなんて…全然気にしないでよ。これからも変わらずに仲良くしてくれたらそれで十分だよ」

「はい。是非仲良くさせてください」

清瀬の言葉に返事をするとかがりが主導で勉強会は始まる。

「じゃあ二人はわからないところ開いて」

唐津と清瀬に対して言葉を口にするかがり。

「私達は本番を想定した特訓をしましょ」

かがりは僕に対して口を開くと過去問をプリントしたものを差し出してくる。

「じゃあ早速頑張っていきましょう」

かがりは皆を鼓舞すると後輩の面倒を見つつ本番を想定した勉強を日が暮れるまでしていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る