第53話再会のカグヤ

急激に話が進んで申し訳ない次第なのだが…。

現在は夏休みに突入して真田家は揃って両親の実家に帰省していた。

さらりとかがりは夏休みの間は予備校に通うようだった。

彼女らよりも成績の低い僕こそ予備校に通うべきなのだが…。

僕はどうしても両親の帰省に付いていきたかったのだ。

何故ならば友達であるカグヤが僕を待っているような気がしていたからだ。

父親の運転する車の中でカグヤに連絡を入れると彼女は非常にテンションを上げて喜んでいた。

「どれぐらい居るの?今回は夏休みだから長めに居られる?」

そのメッセージに応えるように返事を送る。

「お盆明けまで居るはずだから夏休みの大体はそっちに居るよ」

「そうなの?恋人は怒らなかった?」

「うん。それどころじゃないみたいだからね」

「ん?どういうこと?」

「それが…前回のテストで学年1位から2位に戻ってしまったんだ。夏休みは猛勉強するってさ」

「そっか。私達も遅れを取らないように勉強頑張ろうね」

「うん。前よりは学力も上がったからカグヤさんの手を煩わせないと思うよ」

「そうなんだ。楽しみだな」

「今、高速道路降りたから。後30分ぐらいでそっちに着くよ。祖父母に挨拶したら会いに行くね」

「わかった。じゃあ防波堤で釣りしてるから。また後でね」

それに了承のスタンプを押すと車窓の向こうを眺めていた。

父が運転する車が順調に進んでいくとナビの時間通りに祖父母の家に到着する。

僕は挨拶もそこそこに荷物を置くとカグヤが待っている防波堤に向かう。

冬休みの時とは違いそこに七輪の用意は無かった。

彼女は折りたたみ式の椅子に腰掛けながら釣りを楽しんでいるようだった。

「暑くないの?」

近寄っていくと唐突に声をかける。

「久しぶり。この暑さも慣れると心地良いよ」

「汗だくに見えるけど?」

「汗かいたら服のまま海に飛び込めば良いんだよ」

「深そうだけど…溺れない?」

「泳ぐ必要はなくて。力を抜いて浮いていれば良いんだよ」

「そんな事出来るの?」

「出来ないと簡単に溺れるからね。子供の時に強制的に教えられるから。生き抜く知恵だよ」

「僕にも出来るかな?」

「出来るよ。やってみる?」

「夏休み中に暇ができたら教えてほしいな」

「わかった。今日は何する?やっぱり勉強?」

「その前に。ご飯食べに行こ」

カグヤはそれに頷くと釣り道具を持って立ち上がった。

「家に寄って良い?荷物置かないと」

了承するように頷くと近所にあるカグヤの家を目指した。

彼女は釣り道具を倉庫にしまうとそのままの格好で戻ってくる。

「何食べたい?」

「カグヤさんが行きたい所でいいよ」

「うーん。じゃあファミレスが良い。家族とは滅多に外食に行かないし地元には友達もいないから行ったこと無くて…」

「OK。じゃあ行こうか」

そうして僕らは大通りにあるファミレスに向かう。

彼女はメニューを開くと感嘆なため息をつく。

「本当に色々とあるんだね。どれを注文してもいいの?」

「もちろん。好きなもの頼みなよ」

「わかった。じゃあこのチーズの入ったハンバーグにしようかな」

「良いんじゃない?王道だね」

「真田くんは何にするの?」

「えっと…カニグラタンにしようかな」

「それも美味しそうだね…」

「一口あげるよ」

「ホント!?ありがとう」

タッチパネルで注文を完了させた僕らは料理が配膳されるまで雑談をして過ごす。

「真田くんはテストの順位上がった?」

「うん。5位になったよ」

「凄いじゃん!このままいけば余裕で進学先に通えそうだね」

「後はテスト本番でミスしないことを祈るばかりだよ」

「じゃあ夏休みは本番を予想して勉強に取り掛かろうか」

「本番を予想?」

「うん。入試と同じ形式で本番さながらにテストを繰り返すの。そうすれば慣れることが出来そうでしょ?」

「なるほど。じゃあそれでお願いできる?」

「うん。色々と調べておいたから一緒に頑張ろうね」

「ありがとう」

他愛のない会話は尽きることもなくお互いの近況などを話し合って過ごすと注文した料理が運ばれてくる。

それを食しながら会話は途切れることはなかった。

「ファミレスの料理って美味しいんだね。安価だし学生のたまり場になるのも頷けるかも」

「ドリンクバーもあるからね。時間を潰すには最適だよ。あと勉強会を開くにも最適かもね。夏は涼しいし冬は暖かいし」

「そうだよね。真田くんが地元の人間だったら良かったな…」

「どうして?」

「そうしたら放課後は毎日一緒に過ごせると思うから」

「そっか。大学生になったらそんな日々になるかもよ?僕の仲間も加わってにぎやかな生活になると思うな」

「それは…楽しみだね…」

そんな会話をしつつ食事を終えると僕らは会計に向かった。

「今日は僕が払うよ。再会の記念的な?」

戯けたような表情で口を開くとカグヤは美しく微笑む。

「ありがとう。じゃあこの後の場所はうちを提供するね」

「え…それは…」

少しだけ困ったような表情を浮かべるがカグヤは何でも無いように口を開いた。

「大丈夫。私は真田くんを信じてるから。恋人がいるのに私に手を出すような人じゃないって分かってるから」

「そっか。それならお邪魔します」

というわけで僕らはファミレスを出るとカグヤの家で早速勉強会に突入するのであった。

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