第52話清瀬の正式加入と夏休み

不名誉かもしれないが真田ハーレムのメンバーに二年生の清瀬白が加入したことを告げると彼女たちは軽くため息を吐いた。

「二年生のアイドルまで手籠めにしちゃうなんてね…」

かがりが呆れたように口を開くと続いて唐津も口を開いた。

「先輩なら何が起きても不思議じゃないですけどね…中学の時からずっとモテていますから」

「雪見くんの話を聞く限り…その娘とわざとらしく仲良くすればいいの?」

「そうなるね。二年生の問題のある男子生徒に諦めてもらうように仕向けないといけないんだ」

僕の言葉を耳にしていた彼女らは何でも無いように頷く。

現在は昼休みでいつものように図書室で過ごしていた。

「早速で悪いんだけど…清瀬さん困ってそうだけど?」

かがりが指をさす方に目を向けると人気の少ない場所で清瀬は男子生徒に言い寄られているようだった。

明らかに困り果てている清瀬を目にして相手の男性が件の問題児だと理解する。

席を立ち上がると清瀬のもとまで歩いて向かう。

「清瀬さん。そんな所で何してるの?」

「真田先輩…」

清瀬は僕に助けを求めるような視線を送ってくるが男子生徒がそれを妨げる。

「なんですか?俺たちただ話をしているだけなんですけど」

「あぁ。うん。でも清瀬が困ってるみたいだから」

「先輩に関係ありますか?」

「まぁあるかな。清瀬さんは真田ハーレムのメンバーだから」

「なっ…嘘だろ?」

加藤と思しき生徒は清瀬に顔を向けると問いかけていた。

「本当だよ。昨日の放課後、一緒に過ごして…その人柄に惚れたの…」

清瀬の言葉を口にした加藤は項垂れるような仕草を取ると僕を睨めつけた。

「おい。二年にまで手を出して恥ずかしくないのか?」

「うーん。君よりかは恥ずかしくないかな」

「どういう意味だよ!喧嘩売ってる?」

「売っても良いし買ってもあげるよ?自分の恋人一人を幸せにできないクズには負ける気がしないから」

「は?どういう意味だよ?」

「言葉通りの意味だよ。自分の胸に手を当ててみなよ」

「舐めんなよ!」

加藤は逆上したらしく僕の胸ぐらを掴みかかる。

断言するが僕は暴力が好きじゃない。

喧嘩などしたこともなく自らを喧嘩自慢だとも思ったこともない。

ただ困っている女子に手を差し出すことに躊躇はない。

「火遊びは自分が火傷しない程度にしないとね」

胸ぐらを掴まれた状態でも相手に対して恐怖を覚えないのは後輩だからか女子の前で格好つけたいからかはわからない。

それでも目の前の相手の威圧にまるで恐怖は覚えなかった。

「減らず口を…!」

加藤は怒りが頂点に達したのか僕の顔面に右ストレートを繰り出した。

騒動を見ていた生徒の中で悲鳴のような声が聞こえてくる。

「一発殴って気が済んだかな?」

余裕そうに相手に尋ねると火に油を注いでしまったのか、もう二、三発殴られる。

「いい加減にしろよ?何が真田ハーレムだ。お前も南雲も何も怖くねぇぞ?」

「そうなの?それは嬉しいな。僕は怖がられたいわけじゃないからね」

「クソが…!」

余裕そうに減らず口をやめない僕に加藤は本気の目をすると再び殴りかかろうとしていた。

「もうやめておいた方がいい。僕もこれ以上痛いのは御免なんだ」

相手を宥めるように口を開くが加藤は止まらずに僕に向けて渾身の右ストレートを繰り出していた。

「はぁ…」

と自然とため息が漏れると加藤の右ストレートを交わして半身になる。

その流れで加藤の襟首を右手で掴み取る。

左手は加藤の右腕をガッチリと掴み、その流れできれいな背負投を繰り出した。

受け身をまともに取れなかった加藤は背中から地面に叩きつけられる。

鈍い音が図書室に木霊するとその様子を目撃していた生徒たちのひそひそ話は広がっていく。

「喧嘩自慢の加藤がぶっ飛ばされたぞ…」

「真田先輩って喧嘩も強いのかよ…」

「あの人に何で敵うんだ?」

「ってか白ちゃんも真田ハーレムに入ったってマジなのかよ…」

「もうこの学校で人気の女子は全部取られたぞ…」

「今まで通り真田先輩に逆らうのやめようぜ…バックには南雲さんもいるんだぞ」

「今回の騒動が南雲さんの耳に入ったら…加藤は終わりだな…」

「誰か馬場を呼んでこいよ。加藤を慰めてやらないとあいつ壊れるぞ」

「いやいや。いい気味でしょ。情けなくぶっ飛ばされて二年女子の鬱憤も少しは晴れたってものよ」

口々に話を続ける生徒たちを尻目に僕は加藤に手を差し出す。

「一応僕も殴られたからおあいこね。これに懲りたら火遊びは控えて欲しい。また困っている女子を見つけたら僕は駆け付けると思うから」

「ヒーロー気取りかよ…」

加藤は僕の手を取ると悔しそうな表情を浮かべて負け惜しみのような言葉を口にした。

「そういうわけじゃないけど。君にはちゃんとした彼女がいるだろ?その娘を幸せにしてあげて」

「ハーレムなんて築いてるお前に言われたくねぇよ」

「僕が積極的に築いたわけじゃないよ。勝手にそんな噂が流れているだけだから」

「………そうかよ」

加藤はそれだけ言い残すと図書室を後にする。

「真田先輩…ありがとうございました。私のために殴られて…ごめんなさい」

「良いよ。あれぐらいたいして痛くないから」

「強いんですね…」

「強くなんて無いよ。僕よりも圧倒的に強い人を知ってるだけ」

「それでも…助けてくれてありがとうございました」

それに頷いて応えると僕らの様子を眺めていた仲間のもとに戻っていく。

「大丈夫?」

さらりは心配そうに問いかけてくるので一つ頷く。

「なんか慣れた手付きだったわね…」

かがりは苦笑気味に微笑むと僕の様子をうかがっていた。

「中学の時に散々鍛えられていましたもんね」

唐津が口を開くと彼女らはそちらに顔を向けた。

「近所の道場で鍛えてもらっていたんですよ。同じ中学出身なら先輩に喧嘩売る人なんていませんよ」

「知らなかった。何で教えてくれなかったの?」

さらりは僕の顔を覗き込むように問いかけてくる。

「いや…別に伝えるようなことではないと思って…」

「喧嘩になった時…心配したんだから…」

「ごめん。これからはトラブルを回避するようにするから」

「そうして…本当に心配になるから」

それに頷くと後ろに控えていた清瀬と向かい合う。

「これからはここに居る仲間と仲良くするといいよ。またトラブルがあったらいつでも言って?また加藤が言い寄って来るかもしれないけれど…」

「いえ。それはもう無いですよ。私はターゲットから外れたはずです」

「何でそう思うの?」

「あんなに情けなくやられた姿を晒したんです。もうこれ以上真田先輩に関わってくるわけ無いですよ」

「そっか。それなら殴られた甲斐もあったね」

「私のために本当にありがとうございました。これからお世話になってもいいですか?」

「もちろん。皆と仲良くしてね」

清瀬はそれに頷くと早速輪の中に混じるのであった。


清瀬を中心にした騒動が沈静化すると僕らには平穏な学生生活が訪れていた。

梅雨が過ぎていき次第に夏休みの気配を感じながら期末テストは目前までやってきている。

毎日欠かさず勉強に取り組んでいた僕は今回のテストも自信があった。

そして訪れたテスト期間。

取り立てるような問題もなくテストが終わっていくと返却されたテストの点数を目にして僕は満足をしていた。

掲示板に張り出された順位表を見てガッツポーズを取る。

今回はなんと5位まで順位を上げていたのだ。

だが…

1位は姫野かがり、2位は副嶺さらり。

順位がまた元に戻っていた。

さらりは悔しいのか奥歯を噛み締めている。

「これからは猛勉強する…何にも構ってられない…」

その決意の表情を目にして高校生活最後の夏休みは一緒に過ごすことも減ることが予想された。

無事に夏休みに突入すると両親は今年も帰省するとのことで僕もそれに付いていくことを決める。

そして、両親の地元でまたカグヤと再会する夏がやってこようとしていた。

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