第51話僕を利用して
見知らぬ女子生徒との放課後は始まり僕は少しだけ居心地が悪かった。
何よりも彼女は長袖シャツを腕まくりしている。
それだけで人気のある生徒と見受けられる。
上履きの色からして二年生であることは理解できた。
ただし僕は後輩の事情など詳しくないので彼女が誰なのかも知りはしない。
勉強に集中していると彼女は世間話でもするように口を開いた。
「今日は一人なんですか…?」
「うん。たまには一人も良いね」
「いつものメンバーはどうしたんですか…?」
「ん?あぁ…皆予定があるみたいで…」
メンバーと言われて彼女の言いたいことを理解すると何でも無いように事実を告げる。
そこで会話が一旦途切れると僕は彼女に問いかける。
「君は?」
その短い質問に彼女は意図を汲んでくれたらしく名前を口にした。
「清瀬白です。二年生です」
「そっか。一人で勉強?」
「はい…進学予定先はもう決まっているので…勉強頑張らないといけなくて…」
「何処に進もうと思っているの?」
「えっと…」
清瀬は進学予定先を口にすると僕は少しだけ驚いてしまう。
「奇遇だね。僕と同じ進学予定先だよ」
「そうなんですね…真田先輩って成績いいんですか?」
「今は学年9位だよ。これからもう少しだけ上げていくつもりだけど」
「え…頭いいんですね…」
意外な言葉を耳にしたのか清瀬は大げさに驚いているようだった。
「学年1位と2位に教えてもらってるからね。やっと二年生の三学期に結果が出たんだ。これをキープしつつ上位を目指さないとね」
「へぇ〜…意外に真面目なんですね…」
「意外にって…僕のこと何も知らないでしょ?」
「ごめんなさい!そういう意味じゃないんです!」
清瀬は言い訳をするように掌を前に出すと首をブンブンと振っていた。
「まぁ大方予想はついているから大丈夫だよ」
苦笑気味に口を開くと彼女を宥めるような言葉を口にした。
「なんか…真田先輩って聞いていた感じと違いますね」
「そう?どんな噂を聞いていたかは予想つくけど…僕は決してハーレムなんて築いてないからね」
「でもいつも彼女以外の女子を連れているじゃないですか」
「あれは普通に友達だよ。かがりちゃんも唐津さんも僕と彼女の友達だからね」
「友達…ですか…それでも相手側は真田先輩に好意を持っていますよね?外から見ても分かるぐらいに真田先輩に好意を向けているじゃないですか。そんな女子を連れてて彼女は不安じゃないんですか?」
「うーん。少しは不安だろうけど…僕のこと信じてくれているからね」
「信じる?」
「うん。どんな娘が一緒にいようと僕は浮気なんてしないから。気持ちが彼女以外に向くことは無いよ」
「言い切れるんですか?」
「もちろん」
そこまではっきりと口を開くと参考書の問題に目を向ける。
丁度、冬休みにカグヤに教えてもらっていた箇所が目に飛び込んできて少しだけ頬が緩む。
「そんな誠実な人だとは知りませんでした…」
清瀬は少しだけ困ったような表情を浮かべると申し訳無さそうに頭を下げる。
「噂を鵜呑みにしていた自分が愚かに思えてきます…申し訳ありません」
「いやいや。気にしないで。学校中でそんな噂が流れていたら誰だって鵜呑みにしちゃうよ。清瀬さんが悪いわけじゃないから」
「ですが…」
「本当に大丈夫だよ。僕が大事に思っている人だけが信じてくれていたら、それで十分幸せだから」
「真田先輩は強いんですね…」
清瀬は急に俯くと何かを伝えようとしているようだった。
「何か困ってるの?良かったら話してみてよ。何か力になれるかも」
救いの手ではないが一応清瀬に問いかけると彼女は意を決したように口を開く。
「馬場小実って二年生を知っていますか?」
その聞き覚えのある名前を耳にして僕は一つ頷いた。
「じゃあその娘の彼氏は知っていますか?
「名前は知らなかったけど…一応存在は認知してるよ」
「その彼氏が結構なクズで…」
話が少しずつ見えてきて僕は相槌を打って応えると清瀬は絶賛困っている現状を口にする。
「彼女がいるのに私がターゲットにされてしまったんです。一定期間彼女と仲良く過ごすと満足するのか、すぐに別の女子をターゲットにするんですよ。それに引っ掛かった女子は結構いて…ある程度遊ぶとまた彼女と復縁して。私達二年生は良い迷惑してるんです」
「なるほど。今は清瀬さんが言い寄られてるの?」
「はい。それに加えて馬場さんにも目をつけられるようになって…本当に迷惑してるんです。そこで頼みたいことがあるんですが…」
清瀬の提案が理解できて僕は一つ頷くと先んじてその言葉を口にする。
「良いよ。僕を利用したいんでしょ?」
「悪い言い方をすればそうなります。でも良いんですか?」
「構わないよ。これ以上、変な噂が流れても僕は困らないから」
「ありがとうございます。じゃあ私も真田ハーレムに入ったという体を取らせてもらいます」
「どうぞ。それでことが治まるかはわからないけれど…」
「大丈夫ですよ。先輩の後ろには南雲さんがいるって在校生は知っていますから」
「南雲さんってそんなに怖がられているの?」
「怖いと言うか…まぁそんな感じですね…」
清瀬は言葉に詰まると苦笑気味に微笑んだ。
「困ったらまた声を掛けてよ。明日でも僕とすれ違ったら積極的に声を掛けて。わざとらしくても良いから。僕からも声をかけると思うけど怖がらないでね?」
「もう大丈夫です。真田先輩が悪い人じゃないっていうのは理解できたので」
「そう。それなら良かったよ」
僕らの放課後は徐々に過ぎていくと一般生徒の下校時間はやってきてしまう。
「そろそろ帰ろうか」
「はい。このまま部活で残っている生徒に見せつけて噂を流してもらいましょう」
清瀬は自らに降り注ぐ火の粉を払うように早速僕を利用する算段を企てていた。
参考書とノートをカバンにしまうとそのまま揃って空き教室を出る。
そこから僕と清瀬は部活で残っている生徒たちに二人の怪しい関係性を仄めかすように帰路に就くのであった。
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