第50話謎の女子生徒との放課後

5月も中盤を迎えると日増しに気温は上がってきていた。

過ごしているだけで汗をかくようなそんな暑い日々が続いている。

涼しい場所を求めて僕らは図書室で過ごすことが多くなっていた。

図書室にはエアコンが設置されており、それを知っている生徒は本を読むわけでも無いのにそこに訪れる。

僕とさらりとかがりは受験勉強に向けて休み時間は図書室で勉強をして過ごしていた。

「唐津さんは?」

さらりが何気なしに口を開くとかがりが答えを口にする。

「最近は一年生女子とも仲良くなってきたみたいだよ。特に長袖シャツグループと」

「そっか。一年生で一番目立つの唐津さんだもんね」

「そうそう。最近はあの娘も長袖シャツに切り替えたみたいだよ」

「まぁそうなるよね。あの娘が半袖シャツじゃあ他の子の立場がないからね」

二人の小声でのやり取りを耳にしていた僕は余計なお世話だと思うが口を挟む。

「そんなことして前みたいに男子に言い寄られてないかな?」

「まったくそんな事無いらしいよ。雪見くんのおかげだね」

かがりが答えを口にすると僕の顔を一瞬だけ見つめた。

「僕?何もしてないと思うけど?」

「雪見くんの女って認識が学校中の生徒に広がっているからだよ」

「僕の女って…そんなつもりは無いんだけどな…」

困ったような表情を浮かべると少しだけ項垂れる。

「別に良いじゃない。他の生徒がどんな風に雪見くんを見ていたとしても」

さらりも何でも無いように口を開くと参考書のページを一枚めくった。

「僕の知らない所で変な風評被害が無ければ良いんだけどね…」

「大丈夫でしょ」

「何かあったら私とかがりがどうにかするよ」

「嬉しいけど…女子に守ってもらっているのは少しだけ情けないな…」

「そんな事言わないでよ。私だってさらりだって雪見くんが大事なんだから」

それに頷いて応えると休み時間を終える予鈴が鳴り響く。

参考書とノートを持つとそのまま教室に戻っていくのであった。


「今日は家の片付けに集中したいんだ。GWに両親が帰ってきてたから家事を疎かにしちゃってね。徹底的に掃除しておきたいの」

放課後の教室でカバンを持ったさらりは僕の席までやってくると申し訳無さそうに口を開く。

「良いよ良いよ。暇が出来たら連絡して。夜にはまた電話で勉強会が出来たら良いけど」

「夜に電話する。じゃあまたね」

それだけ告げるとさらりは僕をおいて先に帰路に就く。

僕らのやり取りを見ていたかがりはさらりの居なくなった教室で僕の元を訪れる。

「私も今日は生徒会の仕事なの。一人で暇じゃない?」

「確かに。今日は暇になるね」

「唐津さんを訪ねたら?」

「いや…一年生に変な噂を流されそうだから今日は一人で過ごそうと思うよ」

「そう。じゃあまた明日ね」

かがりに手を振ると僕はカバンを持って廊下に出る。

「さて。何処で時間を潰そうかな」

独り言のような言葉が口から漏れるといつものように図書室に足を向けた。

本日は珍しいことに図書室は満員で座れる席は一つも無かった。

「最近は暑いからな…僕らの穴場だったんだけど…」

そんな言葉が漏れると諦めて再び廊下を歩く。

「空き教室は…」

三年生の最奥の教室はあまり陽が当たらず吹奏楽部の個人練習場所によく使われていた。

教室の鍵が壊れているのか施錠することは出来ず普段から開いている。

自由に使うことが出来る空き教室で何よりもそれを知る人は少ない。

思い出したかのように空き教室を目指すことを決める。

廊下を歩いて向かうと吹奏楽部の楽器の音は聞こえてこずに本日は僕一人で自由に過ごせることを予感していた。

空き教室の扉を開くとそこには…。

「ひぇ…!真田先輩…!」

色白の美しい見た目をした女子が一人で勉強をして過ごしていた。

僕を恐れるような態度を取る彼女に表情が引き攣ってしまうと申し訳ないので教室を後にしようとする。

「ここは先輩が使ってください…私が出ていくので…」

相手は席を立ち上がろうとするので僕は彼女を手で制して首を左右に振った。

「いやいや。先に使っていたのは君だから。僕は別の場所を探すよ」

謙虚な姿勢で口を開くと相手は困ったような表情を浮かべていた。

「じゃあ一緒に使いますか…?」

どうにかその提案をしてきた彼女に問いかける。

「良いの?僕と一緒で…変な噂を流されるかもよ?」

「大丈夫です…」

少しだけ嫌々な表情で口を開いた彼女の言葉を受け止めると感謝を口にして離れた席に腰掛けた。

「じゃあお言葉に甘えて…」

そこから僕と謎の女子生徒との放課後は始まろうとしていた。

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