第48話気が早いが来年度を夢想する
姫野姉妹は待ち合わせ場所に時間ギリギリで到着すると僕とさらりを見て驚いたような表情を浮かべていた。
「あれ?なんで雪見くんとさらりがいるの?」
「デートしてたんだけど…この通り唐津さんに捕まったのよ」
さらりが応えるとかがりは申し訳無さそうに謝罪の言葉を口にする。
「ごめんね。GWだから二人で過ごしたかったよね?だから誘わなかったんだけど…」
「良いわよ。別に。目的があってデートをしていたわけじゃないから。予想外な展開もいい具合なスパイスみたいなものだから」
さらりは何も気にしてない体を装うと軽く微笑んで見せる。
「じゃあ悪いけど妹の買い物に付き合って。ほら。あかりも挨拶する」
かがりの後ろでもじもじと隠れていた妹は少しだけ顔を出すと口を開く。
「姫野あかりです。中学一年生です。よろしくお願いします」
あかりの挨拶に各々が自己紹介を済ませると早速ショッピングモールへと向かうこととなる。
「雪見くんもごめんね?女子の買い物に付き合わせて…つまらないと思うけど…お昼ぐらいは奢らせてよ」
かがりは僕の隣にやってくると申し訳無さそうな表情を浮かべて謝罪を口にした。
「いやいや。奢らなくていいよ。苦痛じゃないし、さらりちゃんも面倒くさそうな態度を取っていたけど本心では楽しんでいるはずだから」
「そうかな…」
「そうだよ。さらりちゃんは今まで友達と遊ぶようなこともなかったみたいだし。僕も友達と思える人と遊ぶ機会は殆どなかったから楽しみだよ」
「そっか。そう言ってくれてありがとうね?でも花見とか星見で遊んだじゃない。あれはカウントに入ってないの?」
「う〜ん。あれはイベントにかこつけて集まったに過ぎないでしょ?今日はイベントでも何でも無くただ友達と遊ぶって感じだから。実質初めて友達と遊ぶみたいな感覚かな」
「なるほどね。二人が一緒で私も今日を楽しめそう」
かがりは破顔すると前を歩く女子グループの輪に戻っていく。
僕は少し後ろで女子グループに付いていき買い物に付き合うことになるのであった。
数々の洋服を試着していく彼女らに一つ一つ丁寧に感想を口にしていく時間が過ぎていくとあっという間にお昼の時間が過ぎていく。
「お姉ちゃん。お腹空いた」
あかりの一言で僕らは時間を確認する。
「じゃあフードコートに行こう」
僕の言葉で皆揃って一階のフードコートに向かうと各々が食べたいものを購入した。
六人がけの席に腰掛けると少し遅めの昼食を取っていく。
「あかりちゃんは気に入った洋服あった?」
さらりが話題を振るとあかりは少しだけ頭を悩ませていた。
「う〜ん。五月雨お姉ちゃんが選んでくれたやつが気に入ってる」
「私ですか?それは光栄です。じゃあ買いに行きますか?」
「でも…さらりお姉ちゃんが選んでくれたやつも良いと思う。学年が上がっても着続けることが出来そうな服だったし」
「少しだけ背伸びした洋服を選んだからね。同級生があかりちゃんのファッションを見たら簡単に落ちそう」
「ちょっと。妹にはまだ恋愛なんて早いわよ。余計なこと吹き込まないで」
「お姉ちゃん…今どきの中学生は恋人の一人や二人、普通にいるよ?」
「え?じゃあ、あかりにも恋人がいるの!?お姉ちゃんもまだなのに!?」
「いや…私は居ないけど…同級生の半数以上は恋人持ちだよ」
「へぇ〜…ませてるのね…」
かがりは少しだけ落ち込むように項垂れてみせる。
「雪見お兄ちゃんはこの中の誰と付き合ってるの?」
不意に話題を振られた僕はさらりを指差すと答えを口にする。
「さらりちゃんとだよ」
「そうなんだ。でも皆と仲良いんだね。モテモテ?」
「仲は良いけどモテているわけじゃないよ。高校生にもなると異性の友達っていうのが少なからず出来るものだよ」
「そうなの?女はみんな俺のもの。みたいな感じじゃないの?」
「そんなわけないよ。僕みたいな普通の男子高生がそんな悪い王様みたいな思考になるわけ無いよ。身の程をわきまえているし、さらりちゃん一人で十分幸せだから」
「惚気けられても困るよ…でもお姉ちゃんは残念だね」
あかりはかがりの顔を見ると哀れんだような表情を浮かべる。
「何が?何も残念じゃないよ?私達は友達だし」
かがりは少しだけ強がりのような言葉を口にするとそっぽを向いた。
「あかりちゃんも高校生になれば色々と分かることもあると思いますよ。押せ押せで攻めるばかりが恋愛じゃないんです。時には何歩も引いてじっくりとその時期を待つのも恋愛なんですよ」
唐津は急に大人っぽい意見を口にしてあかりに助言を口にしていた。
「そうなの?じゃあ二人も今はその時期を待ってるの?」
「私はそうですね。それまではただの後輩の立場で先輩の傍にいるつもりです」
「ちょっと。恋人の前で何言ってるの?宣戦布告のつもり?」
「いやいや。二人が別れるような事はないとは思いますが…恋にはトラブルもつきものじゃないですか。もしも二人がそれを乗り越えられ無さそうだと思った時は一気に掻っ攫うつもりです」
「虎視眈々とその時を待っているじゃない…」
唐津の発言にさらりは呆れたように嘆息していた。
「お昼も終わったし、そろそろ買う服決めちゃおう?」
かがりの提案にその場の全員が頷くとトレーを返却して再び買い物に向かうのであった。
結局、あかりはさらりがセレクトした洋服を一式買っていた。
夕方辺りまでショッピングモールで過ごすと解散の時間はやってくる。
「今日はありがとう。妹の買い物に付き合ってくれて。何もお礼が出来なくて心苦しいんだけど…」
かがりは申し訳無さそうな表情を浮かべるので僕らは首を左右に振った。
「友達と遊べて楽しかったから満足してるよ」
さらりは何でも無いように応えるとかがりは嬉しそうに微笑んだ。
「僕も楽しかったよ。またいつでも誘ってね?」
僕の言葉を受けたかがりは一つ頷く。
「私も皆さんと休日を過ごせて楽しかったです。GW明けの学校でもお世話になると思いますが…よろしくお願いします」
唐津の言葉に僕らは応えると駅で解散をする。
「じゃあまた学校でね」
各々が手を振ると帰路に就く。
僕はさらりを家まで送り届けるため一緒の帰り道を歩いていた。
「明日からのGWも一緒に過ごしたかったんだけど…両親が帰ってきてて…」
「良いよ良いよ。久しぶりに家族で過ごしなよ。僕も三年生になってトラブルがあったから勉強に集中しないといけないし」
「一人で大丈夫?」
「問題ないよ。二年生の間にさらりちゃん達が勉強法を教えてくれたからね。一人でもできるようになったよ。ありがとう」
「それなら良かった。夜には電話するから。その時は一緒に勉強しよ?」
「了解。家族との休日を目一杯楽しんでね」
さらりは僕の言葉に頷くとマンションの入口で別れを告げる。
「じゃあ、また学校でね」
それに頷くと大人しく帰路に就くのであった。
帰宅途中に久しぶりにカグヤに連絡を取っていた。
「元気?僕はやっと二年生最後の期末で9位になれたよ。カグヤさんが鍛えてくれたおかげもあって問題を解くスピードも早くなったんだ。早く同じ大学に通いたいね」
スマホでメッセージを送るとカグヤはすぐに既読を付けた。
「久しぶり。私は相変わらずだよ。学校でも一人だし早く大学生になって真田くんと過ごしたいな。恋人とは続いてる?いつか恋人を紹介してね」
「そっか。大学生になったら僕の友達を紹介するね。きっと皆で仲良くなれるよ」
「うん。また長期休暇にこっちに来る?」
「多分。その時は連絡するね」
「うん。待ってるね」
そこまでやり取りをすると僕はスタンプを送る。
カグヤは既読を付けるとそれ以上の返事を送ってくることはなかった。
気が早いが来年度からの新生活を夢見て、残りのGWを勉強漬けで過ごすのであった。
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