第46話問題解決

天文学部部長である九条星くじょうきらりと生徒会長である姫野かがりの打ち合わせは恙無く完了したらしい。

本日は休日の土曜日である。

イベントは本日の18時から屋上で行われることになっていた。

僕とさらりはこれから唐津のことを迎えに行く途中である。

かがりは生徒会長として先に学校に向かっており九条や天文学部員の手伝いをするようだった。

駅から少し歩いた所で一般家庭向けのマンションが見えてくる。

さらりは唐津に連絡を入れると僕らはマンションの入口で彼女を待った。

数分経つと学生服ではなくおしゃれだがモブ女子の格好をした唐津が姿を現した。

付け焼き刃ではあるのだが唐津に対する男子生徒の好感度をこれ以上上げないことには成功していた。

ただし、それでも唐津の隠しきれない可愛さが陰キャやオタクグループの人間にまで伝播してしまう。

モブ女子の見た目に変身した途端に普段は女子とまともに関わろうとしない生徒たちまで唐津に話しかけに行くようになってしまったのだ。

きっと親しみやすさが増したのが原因だと思われる。

しかしながら今日でそれも沈静化するはずだ。

僕たちの企みのような算段はきっと上手くいくはず。

そんなことを思いながら夕方の街を歩く。

そして学校に到着すると屋上を目指した。

かなりの一年生が参加しているようだったが、中にはいやいや連れて来られた生徒もいるように思えた。

一年生はやはりギスギスしている雰囲気に包まれている。

けれど実のところは普通に仲良くしたいはずなのだ。

そうでなければ休日の学校イベントに参加するわけがない。

「先輩!観測会楽しみです!」

唐津はわざとらしく大きな声を出すと僕の腕にしがみつく。

「そうだね。一緒に星を見ることが出来て僕も嬉しいよ」

唐津の話に合わせて口を開くと僕らの様子を目にした一年生は至るところでざわざわとしだす。

目論見通りに話が運んでいくとさらりも話を合わせてくれるらしく口を開いた。

「ちょっと!唐津さん!?私が恋人なんですけど!?ハーレムの新入りなのに生意気よ!」

「えぇ〜別に良いじゃないですか〜先に出会っていたのは私なんですし〜」

「出会った順番なんて関係ないわよ!私の恋人なのには変わりないんだから!早く離れなさいよ!」

「はいはい。分かりましたよ〜独占欲が強くて嫌になりますよね〜先輩?♡」

わざとらしい唐津の態度にさらりもわざとらしく怒っている態度を取っていた。

「二人共。雪見くんが困ってるよ?喧嘩はやめなよ」

そこに参戦するようにかがりが輪の中に入ってきて口を挟む。

「だって…」

さらりは拗ねるような表情を浮かべると目に見えるように俯いた。

「さらりは恋人なんだから。もっと余裕を持ちなよ。新人の後輩に振り回されているようじゃ本当に正妻の座を奪われかねないよ?」

「そんな…」

かがりはさらりを慰めるような態度を取ると僕らの関係の信憑性を確実なものだと思わせるように振る舞っていた。

「おい。あの噂…マジだったっぽいぞ…」

一人の一年生男子生徒が口を開くとその余波は一気に広がっていく。

「マジで真田ハーレムに入ったんだな…」

「じゃあ俺達じゃ無理じゃね?」

「相手にされるわけねぇ…」

僕の評価が一年生にとってどのようなものなのかは知りはしないが彼らは完全に敗色ムード濃厚な雰囲気に包まれている。

それを目にした唐津はダメ押しとでも言うように再び僕の腕にしがみつく。

「私、先輩以外の男子に興味が持てないんです…♡こんな身体にした責任取ってくださいね?♡」

唐津の演技を目にした一年生男子は完全に項垂れる。

折角の観測会というイベントが失敗に終わるかと思っていると…。

「じゃあもう俺たちが争う必要ないんだよな?」

一人の男子生徒が口を開くとそれに同意するように他の一年生男子は声を上げた。

そのまま一年生男子の大きな輪が出来ると彼らは一気に結束したようだった。

一年生女子も呆れた表情を浮かべていたが、次第にその輪に混じっていく。

一年生がやっと結束した姿を確認すると問題の二年生を視界に捉えていた。

「小実に教えてあげよ。彼氏が寝取られる心配はないって」

「さっき先輩の腕にしがみついていたの動画で撮影してたから小実に送っておくね」

二年生の女子生徒は何やら少しだけ不穏なやり取りをしていたが今回は聞かなかったことにする。

「諦めて馬場をちゃんと幸せにしろってお前が連絡しろよ」

「俺かよ…簡単に諦めるかな?」

「女子にさっきの動画貰ってあいつに送り付けてやれ。真田ハーレムの一員に手を出すなって掟だろ?」

「そうだな。南雲さんが決めたことを破るのは賢い判断じゃないもんな」

二年生男子もスマホを取り出すと二年生女子と輪になって問題のカップルに連絡を取っているようだった。

「これできっと解決だね」

僕らは安堵するとその場に腰掛けて星を眺めた。

一年生も二年生も最終的には星を眺めながら談笑を繰り広げて絆を深めているようだった。

観測会が無事に終了すると唐津五月雨が発端のワチャワチャとした問題は無事に解決したのであった。


休み明けの月曜日にさらりと共に学校へ向かうと我が校には平和が訪れていた。

だがしかし…。

「一年で一番人気の女子生徒が真田ハーレムに加わったらしいぞ」

「じゃあ次は二年女子かな?」

「二年だけには手を出さないって何か訳アリなのかな?」

「馬場が狙われるんじゃないか?」

「でも彼氏と仲直りしたって聞いたぞ?それはありえないんじゃないか?」

「いや…真田先輩なら何でも有り得るぞ…」

学校中では僕の不名誉な噂が流れ始めていた。

だが別に僕に対して敵意を向けてくる生徒は居なかったため、その誤解を解くのに力は割かないのであった。

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