第43話小悪魔を匿う算段
「小悪魔だなんて言っていたけど…普通にいい娘だったよ。免疫のない男子生徒が簡単に恋に落ちているだけだと思うけど」
本日も早朝から図書室にて勉強会は行われていた。
「え?何処かで会って話したの?」
かがりは僕に視線を向けると少しだけ驚いた表情を浮かべていた。
「うん。昨日の五限目の体育で鼻血出しちゃって…保健室で偶然会って話したよ」
「鼻に違和感は残ってない?」
さらりは僕の身を案じる様な言葉を口にする。
「大丈夫だよ。折れてなかったし一晩寝たらしっかりと痛みも引いたよ」
「それなら良かった。それで話したってどういう事?」
「あぁ。うん。彼女も腹痛で保健室で休んでいたんだけど…急に話しかけられて」
「何で?知り合いだったの?」
「いや、僕には覚えがないんだけど…同じ中学校の後輩らしい。相手は僕のこと知ってたよ」
僕の言葉を耳にしたさらりとかがりはやれやれとでも言うようなジェスチャーを取る。
「最近まで他人に興味が無かったもんね。中学校の後輩を覚えていなくても不思議じゃないか」
さらりは軽く宙を見つめると首を左右に振った。
「それで。その後輩とどんな話をしたの?」
かがりが話に割って入り僕は一つ頷く。
「本当にただの世間話だけだったよ。わざと相手を誘惑するような態度を取ったり、ぶりっ子したりとかは全く無かったよ。確かに容姿は可愛い系に全振りしている見た目だったけど。あれは勝手に好きになって告白している男子が悪いんじゃないかな」
僕の言葉を聞いていたさらりとかがりは少しだけ悩んでいるようだった。
「でもこれ以上、一年生がギスギスするのは避けたいな。このままいくと一年生はバラバラになっちゃう。入学して間もないってだけで居心地悪いはずなのに一人の女子生徒を巡って争いなんかが起きたら大変な事態になるよ」
かがりは生徒会長らしく生徒のことを考えているようで一年生全体のことに頭を悩ませていた。
「生徒会でどうにか出来ないの?その女子生徒を匿ってあげるとか」
「いや、生徒会にも男子生徒はいるし。生徒会で匿ったとしても男子メンバーが恋したら…やっと纏まってきた生徒会がバラバラになる」
「うーん。他に手はないかな…」
二人は頭を悩ませていたが僕は昨日の授業の遅れを取り戻すように勉強に集中していた。
二人の話し声が正確に聞き取れないほど集中していると突然、隣に座っているさらりに肩を叩かれる。
「ん?なに?」
隣に目を向けるとさらりは仕方無さそうに口を開いた。
「もしかしたら女子にも嫌われているんじゃない?このままいくとその娘だけが悪者に仕立て上げられちゃいそうじゃない?ただ他人よりも容姿が整っているってだけで」
「それはそうだね。出る杭は打たれるじゃないけど…でもどう対策するの?」
「そこで私の出番だよ」
さらりは自信満々に胸を張りあげると笑顔になる。
「ん?どういうこと?」
「だから。モブ女子に変身させてあげるんだよ。そうすればこの騒ぎも少しは沈静化するでしょ?」
「でも彼女は最初からモブ女子の見た目だったわけじゃないでしょ?正体は皆知っているんだから沈静化しないんじゃない?」
「大丈夫大丈夫。モブ女子にしてしばらく私達と行動させれば良いんだから」
「ん?どういうこと?僕らと行動したら何で騒ぎが治まるの?」
意味が分からずに問いかけると二人は言い難いことがあるようで言葉に詰まっていた。
「何か隠し事?」
「いや…何ていうか…」
さらりはそれ以上の言葉を口に出そうとはしなかった。
「真田ハーレムって耳にしたこと無いの?」
しかしながら、かがりが仕方無さそうに口を開くと嘆息した。
「全く聞いたこと無い」
「私とさらりはそのメンバー扱いされてるんだよ」
「そうなの?なんか不名誉な呼び名だね…僕はハーレムなんて築いていないんだけど…」
「真田くんはそうかもしれないけど…周りはそう思わないよ。恋人持ちなのに他の女子も普段から引き連れているんだし」
「そんなつもりは無いんだけどな…」
「まぁ今は弁明するような時間じゃなくて。話はここからなの」
「うん。続きを聞かせて」
かがりは一度頷くと生徒間で噂になっている話を聞かせてくれる。
「真田ハーレムのメンバーには手を出すな。って掟の様なものが生徒間で流れていて」
「誰がそんな決まりを作ったの?」
「誰がって…そんなの一人しかいないでしょ?」
かがりの言葉に首を傾げる。
僕には思い当たる人物が想像できないでいるとかがりはその人物の名を口にした。
「完美さんだよ。ちなみに完美さんもメンバーの一人としてカウントされているよ」
「僕の知らない所で勝手に話が進んでいるんだね…」
「そう。仕方ないよ。だから事実じゃないにしても、その噂を利用して彼女を匿ってあげよう」
「さらりちゃんもそれで納得してるの?」
話を彼女に振るとさらりは何でも無いように一つ頷く。
「仲の良い後輩も作っておきたかったし。ちょうどいい機会だよ」
「わかった。じゃあ接触して話を持ちかける人を決めよ」
僕の言葉を耳にしたかがりは真っ直ぐに手を挙げる。
「それは私に任せて。これでも生徒会長だから」
「わかった。じゃあ頼むね」
話が決定した所でHRが始まる予鈴が鳴り、僕らは慌てて教室に戻っていくのであった。
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