第39話卒業式

テストが終わり授業も午前中で終わるようになった頃。

僕らは卒業式の予行練習に追われていた。

何度もリハーサルを重ねて翌日に卒業式を控えた前日のこと。

本番さながらの完璧な進行のリハーサルが終わると明日の本番を待つだけだった。

そして、先を進む南雲の高校生最後の日はやってくるのであった。


卒業証書授与式が恙無く進行していき、終盤に姫野が送辞を堂々と読み上げる。

所々涙ぐんだ姫野に釣られて在校生の鼻をすする音が聞こえてくる。

姫野の送辞が終わると続いて南雲が壇上に上がった。

南雲も堂々と答辞を読み上げていると多くの生徒が涙ぐんでいる。

南雲に世話になった生徒は卒業生も在校生の中にも多く存在する。

反感を買うことも少なくない南雲であったが最終的には、いつも味方を増やすカリスマだった。

南雲の答辞が終わると音楽が流れてきて卒業生は退場する。

無事に卒業式が終わると在校生は下校の時間になった。

「再来週の土曜日に花見ね」

姫野は寂しさを誤魔化すように僕らに声を掛けてくる。

「うん。それまで午前授業だけど…生徒会は新一年生を迎える準備で大変でしょ?」

さらりは珍しく姫野を心配するような言葉を口にする。

「そうね。新一年生は酷く不安だと思うから。私達生徒会が全力で迎えてあげないと」

「そっか。頑張ってね。かがり…」

さらりの言葉の最後の部分を耳にした姫野はその場でフリーズしていた。

「え…ちょっとまって…今なんて言った?脳が情報を処理するスピードがバグってるのかな…幻聴?」

動揺している姫野は意味不明な言葉を口にしていた。

「だから。頑張ってね?かがり」

さらりも少しだけ照れくさそうに姫野の名前を口にする。

「あ…やばい。また幻聴が聞こえる…副嶺さんが私の名前を呼ぶわけがない…疲れてるのかなぁ〜…」

「幻聴じゃないよ。さらりちゃんはかがりちゃんの名前を呼んでるよ。答えてあげて」

「………」

僕の不意打ちの名前呼びに完全に思考停止に陥ったかがりは一度項垂れた。

「これは…夢ね…」

現実逃避をするかがりの肩に手を置いたさらりは笑顔を向ける。

「夢じゃない。もう良い時期だと思ってね。ちゃんと名前呼びにしようって話になったんだ。私達はもう友達以上の関係でしょ?未だに苗字呼びとか水臭いし。私のことも雪見くんのことも名前で呼んでね?」

さらりは明らかに顔を赤らめて無理をして頑張っているのは誰の目からも明白だった。

けれど、さらりは最後までやりきるとしっかりとかがりに気持ちをぶつけていた。

「うん。嬉しい。これからもよろしくね?さらり。雪見くん」

僕らはそれに笑顔で応えると三人で帰路に就く。

「終業式まで午前授業であまり勉強もできないから…今日は図書館に行かない?」

さらりの提案に僕らは頷くと二年時の授業の復習を日が暮れるまで一生懸命に取り組むのであった。

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