第38話お互いに有言実行

テストが全て返却された放課後のこと。

さらりは抜け殻のような表情を浮かべていた。

「どうしたの?」

心配になって問いかけるとさらりはテストのプリントを全て僕の机に広げた。

その一つ一つを確認して僕も唖然とする。

「初めて…全教科満点だった…」

「凄いじゃん!これならマジで学年一位だよ!早速掲示板見に行こう」

さらりの手を引くと各学年の掲示板に張り出されている順位表を見に行った。

1位から20位までの選ばれた生徒だけが張り出される光栄な順位表である。

当然、全教科満点を取ったさらりの名前は一番上に書かれていた。

その下に5点差で姫野の名前が書いてある。

「凄いよ!さらりちゃん!有言実行じゃん!」

「いや…そんな簡単に喜べないよ。全教科満点は素直に嬉しいけれど…数学の最終問題を難なく解いていたら姫野さんと同率1位だったから」

「それでも凄いことには変わりないよ!自分の努力を素直に褒めてあげて」

「ありがとう」

さらりは少しだけ俯いて照れくさそうな表情を浮かべていた。

「1位おめでとう。次は負けないから」

姫野はそれだけ言うと悔しそうな表情を浮かべていた。

さらりは未だに1位と言う順位に慣れないのかもじもじとしている。

「それにしても真田くんも凄いじゃん」

姫野は僕に話題を振ると順位表を指さした。

「え?何が?」

わけが分からずに順位表を下から順に追っていくと…。

「マジか…やった…」

思わず声が漏れ出るとその順位に満足をした僕はガッツポーズを取る。

遅れて異変に気付いたさらりも僕の首に手を回すとそのまま熱い抱擁をしてくる。

「9位じゃん!凄い!有言実行は雪見くんもじゃない!凄い凄い!努力の成果がちゃんと出てよかったね!しかも私とだって30点も差がないんだよ!?もう殆ど同じ学力って言っても過言じゃないよ!」

さらりは自分の順位よりも僕の結果を目にした時のほうが喜んでいるように思えた。

「ありがとう。それは言い過ぎかもしれないけれど…今日からもまた勉強を頑張るよ。こんなに確かに結果がついてくると学べば学ぶだけ楽しくなってくる。いつも勉強に付き合ってくれて本当にありがとうございます」

深く礼をするとさらりは首を左右に振った。

「私のおかげなんかじゃないよ。雪見くんは日々の辛い勉強も文句一つ言わずに毎日やったでしょ?それこそ自分のおかげだよ。おめでとう」

「本当にありがとう。これからもよろしくね」

遂に結果が伴ってきた学力に安堵をしていると二人の約束を思い出す。

「そう言えば…ご褒美の約束だったね」

僕の言葉を受けたさらりは一つ頷く。

「私もその約束だったね」

僕らのやり取りを見ていた姫野は羨ましそうな視線を送ってくる。

「そうだ。さらりちゃんにはご褒美とバレンタインのお返し。姫野さんにはバレンタインのお返しと日頃の感謝も兼ねて…春休みに花見に行かない?実は穴場を知っていて…三人で行きたいんだ。二年時最後の思い出にもなると思うんだけど…どうかな?」

二人に問いかけると姫野は大げさに喜びを表現していた。

対象的にさらりは少しだけ不貞腐れているようだった。

「本当は二人きりが良かったんだけど…まぁ良い機会だし…仕方ないね」

最終的にさらりも納得してくれて予定は決まっていった。

「じゃあ終業式のある週末にしない?各自がお弁当なんかを持参するっていうのはどう?」

「良いね。レジャーシートと重たい飲み物類なんかは僕が持っていくね」

姫野の言葉に同意すると少しづつ予定を詰めていった。

「その前に卒業式があるね。完美さんの最後の答辞もちゃんと聞かないとね」

「そういう姫野さんも生徒会長だから送辞を読むんじゃないの?」

「うん。今から考えるんだ。先生と打ち合わせしたりして…また花見の予定を詰めるために連絡先交換しておこ」

姫野の言葉を合図に僕らはスマホを取り出すと連絡先を交換する。

「じゃあまたね。今日から卒業式の打ち合わせは始まるんだ」

姫野はそれだけ言い残すと職員室に向けて歩き出すのであった。


「そろそろ姫野さんを名前で呼んでみたら?」

下校時にさらりに問いかけると彼女は少しだけ苦い表情を浮かべる。

「そんなにイヤなの?」

「う〜ん。私から名前呼びにしたら負けた気がするから…」

「え?どういう意味?」

「貴女と仲良くしたいんです〜。って言っているようなものじゃない?」

「それでいいじゃん。本心では仲良くしたいんでしょ?」

「なんか急に大人な対応されて困る。前は私にしか興味なかったのに…どうしたの?」

「いや、それじゃあダメだと思ったんだよ。もちろんさらりちゃんに興味が失せたわけではないよ。今でも本当に大好きだし。でもそれ以外にも関わり合える人とは積極的に関わりたいんだ。きっと僕の成長のヒントにもなってくれるだろうし。僕ら二人きりでは人間的な成長にも限度があると思うんだ。もしかしたら二人でも沢山成長できるかもしれない。でもスピード的には色んな人と関わったほうが早い気がするんだよね。早く大人になりたくて焦っているわけではないけれど…社会に出てから苦労したくないじゃん?」

僕の言葉を最後まで聞いていたさらりは納得してくれたようで一つ頷く。

「わかった。ちゃんと考えがあってのことだったんだね。それなら安心かな。雪見くんが浮気のようなことをするとは微塵も思っていないから」

「信じてくれてありがとう。絶対に傷つけたりしないよ」

「うん。ありがとう」

僕らの仲に大きな進展が見えると新たな人間関係は始まろうとしていた。

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