第33話姫野の選挙活動
三学期が始まって一週間も経過した頃。
会長選に立候補または推薦された生徒たちが選挙活動を行っていた。
「来年は必ず体育祭を復活させます!運動部の皆さんが目立つイベントを多く作ってみせます!是非私に清き一票を!」
「文化祭の日程を五日間にしてみせます!我が校の名物イベントとして未来の学生にも羨ましく思われるような文化祭を作り上げます!是非私に清き一票を!」
「反省文を撤廃しようと思います!文字を埋めるだけの作業!本心から反省などしていない生徒!本当に隅々まで読んでいるのかわからない生徒指導係!ペナルティ制度を改革します!堅苦しく思う生徒もいるかも知れません!ですが全ての生徒が安心して過ごせる学生生活にしたいと思っています!是非私に清き一票を!」
学校の至るところで選挙活動を行う生徒を目にして僕とさらりの世間話は始まる。
「姫野さんはどんなマニフェストを掲げるのかな?」
「さぁ。応援演説は元会長なんでしょ?なんか突飛な発想で攻めてくるんじゃない?」
「有り得るね。本命は姫野さんっぽいね」
掲示板に張り出されている中間発表の結果を見ながら僕らはため息をつく。
「ってか姫野さんは何処で選挙活動してるんだろ?見ないよね?」
「そう言えば…そうね。それなのにこの人気は何?」
「なんだろうね。生徒が集まりそうな場所を元会長に教えてもらったのかな?穴場的な?」
「有り得る。ちょっと連絡してみる」
スマホを取り出したさらりは姫野に連絡を入れる。
彼女はすぐに返事をくれて屋上に来るように催促してきた。
「屋上に居るって」
「屋上って開放されてたっけ?」
「普段はしてないでしょ。開放されるのは天文部が活動する時ぐらいじゃない?」
「だよね…。何で入れたんだろ?」
「元会長権限じゃない?」
「そんなことってある…?」
「さぁ」
会話を繰り広げながら階段を登り屋上まで向かう。
屋上まで続く扉を開けて外に出ると…。
そこでは元会長がスマホを片手に姫野を撮影しているようだった。
そこに見慣れぬ女子生徒が一人。
彼女は日陰のベンチに腰掛けて撮影されている姫野を眺めているだけだった。
「今、撮影中だから。ここで待ってて」
その女子生徒に声を掛けられて僕らはベンチの方に足を向ける。
「えっと…ごめん。誰さん?僕らは姫野さんの友達の真田雪見と副嶺さらりです」
自己紹介をすると相手は丁寧に頭を下げる。
「二人のことは知ってるよ。学校でも有名なカップルだしさ。私は
「同級生だったんだ。よろしくね」
「うん。よろしく。かがりに頼まれて屋上を開放してたんだ。屋上の鍵を持ってるのは私と顧問だけだからね」
「そうなんだ。二人は何の撮影しているか知ってる?」
僕の質問に九条は少しだけ驚いたような表情を浮かべるとスマホの画面をこちらに向けてくる。
「うちの生徒なのにこれ知らないの?」
画面を覗き込むと我が校の生徒限定で観ることが出来る動画配信サイトらしきものを見せられる。
「知らない」
「珍しいね。パスワード教えてもらって学生ID入れたら自由に見られるよ」
「それはわかったけど…二人は何の撮影をしてるの?」
「ん?人気取りの様なものだよ。かがりの美貌を使って踊ってみたり歌ってみたりして人気を獲得しているみたいだよ。中間発表見たでしょ?かがりはこのサイトを使って選挙活動をしてるんだね」
「皆みたいにマニフェストを掲げたりはしていないの?」
「初回にしてたよ。でもこれと言って目立ったことは言ってなかったかな。どの学校の生徒よりも自由で伸び伸びとした学生生活を送れることを約束します。ぐらいしか言ってなかったよ。かがり自らが自由を謳歌しているって分かるようにここで動画撮影してるんじゃない?」
「へぇ〜考えたね。元会長の案かなぁ…」
僕の独り言の様な言葉に九条は首を左右に振る。
「三学期が始まってすぐに二人で緻密に打ち合わせしたみたいだよ。どっちが出した案かはわからないけれど…結果は目に見えるぐらい歴然だからね。次期会長はかがりで決まりみたいなものだよ」
それに頷いて応えると撮影を一時中断した姫野と南雲がこちらにやってくる。
「こんにちは。撮影の合間で申し訳ないけど…どうかしたの?」
姫野は僕とさらりに交互に視線を向けると問いかけてくる。
「いや…どんな選挙活動してるのかなって純粋に気になっただけ」
さらりはぶっきらぼうに口を開き姫野は柔らかい表情で微笑んだ。
「
「そう。会長になれそうで何よりだわ」
「ありがとう。副嶺さんも応援してね」
「………はいはい」
さらりはそれだけ言い残すと僕の手を引いて屋上を後にしようとする。
「来年の生徒会に要望があったらいつでもかがりに伝えてくれ」
南雲が去ろうとしている僕らに声をかけるときれいに微笑んだ。
僕らはそれに頷くと屋上を後にする。
「三学期の期末は必ず勝つ!選挙活動に時間を割いている姫野さんには負けられない!」
さらりの目の奥にはゆらりと青い炎が焚べられた様な気がした。
やる気に満ち溢れたさらりは僕を連れて図書室に向かう。
そこから完全下校時間までお互いに勉強をして過ごすのであった。
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