第32話三学期の始まり
「おはよう。姫野さん」
三学期が始まってすぐの登校時に姫野に声をかけると隣りにいたさらりは表情を歪めた。
「え…おはよう…真田くんから声を掛けてくるなんて初めてじゃない?何かあった?」
「まぁ。ちょっと心境に変化があってね」
「そうなんだ。でも声を掛けてくれてありがとうね。朝からやる気出てきた」
姫野は急に表情を明るくさせると隣のさらりは口を挟む。
「なに朝から発情してるのよ」
ジト目で彼女を見るさらりに気付いた姫野は咳払いを一つして前を向いた。
「発情なんてしてないし」
素知らぬ顔をして元通りの表情に戻った姫野と共に学校へと向かった。
「冬休みは何してたの?何処かに出掛けたりした?」
世間話のように引き続き姫野に問いかけると彼女は嬉しそうに微笑む。
「うん。両親の実家に帰省して年末年始を楽しく過ごしたよ。後は勉強がメインかな」
「じゃあ僕と一緒だね。同じ様な生活をしていたみたいだ」
「殆どの学生が来年には受験を控えているし、こんな感じの冬休みじゃないかな?」
「そうなの?」
僕と姫野の世間話を耳にしていたさらりは不機嫌そうに唇を尖らせる。
「私は帰省なんてしてないけど…」
拗ねたような表情のさらりを宥めるような言葉を探した。
「でも家族と過ごしたのは一緒でしょ?たまには恋人や友達とは過ごさない日があってもいいじゃない。さらりちゃんは両親と過ごしてどうだった?」
「ん。おせちとか豪勢なお寿司とか一杯食べて…数キロ太った…」
最後の言葉を小声で言っていたのだが、バッチリとその言葉は僕の耳に届いてくる。
「太ったの?わからないけどね」
「いや…脱いだらお腹にポチャッとお肉が付いてるの!」
さらりの言葉を耳にした姫野は嘆息するとツッコミのように口を挟んだ。
「脱いだらって…朝から話す内容じゃないでしょ。発情してるのはどっちよ」
「………何言ってるの?発情なんてしてないし」
「今、なんか不思議な間が無かった?二人がそういう間柄なのは知ってるけれど…これみよがしに見せつけないでね?」
「………善処します」
本日はさらりが折れる結果となり姫野は少しだけ勝ち誇った表情を浮かべていた。
「でも姫野さんが大学生になったら少し心配だな〜」
さらりは何かをやり返そうと企んでいるらしくニマニマとした表情で口を開く。
「何が心配なの…?」
身構えるような表情で続きの言葉を待つ姫野にさらりは何でも無いように口を開いた。
「そういうことに耐性のない娘ほど大学生になって手慣れた先輩に良いように遊ばれたりするんだよね〜。あぁ心配だなぁ〜」
「………そんなことないもん」
今度は姫野の表情が少しだけ歪むとさらりが勝ち誇ったような表情を浮かべる。
「同じ大学に通う予定らしいけど…いつでも私達が助けてあげられるかわからないしなぁ〜」
「………助けてよ」
「えぇ〜聞こえないなぁ〜」
わざとらしく意地悪な言葉を口にするさらりに姫野は最終的に謝罪の様な言葉を口にした。
「謝るから…大学でも一緒に行動してください…手慣れた先輩に遊ばれたくないです…」
「はいはい。わかったから泣きそうな顔しないでよ。私がいじめているみたいじゃない」
「殆どいじめみたいなものだったじゃない…」
姫野は呆れたように嘆息すると目の前に校門が見えてくる。
校門の前であいさつ運動をしている生徒会が目に飛び込んでくるのだが、そこにはもう南雲の姿はない。
彼女は二学期を最後に生徒会長を引退したのだ。
後任の会長選は三学期からすぐに始まる。
その間、前期の二年生生徒会役員を中心に活動をするらしいのだが、活動と言っても朝のあいさつ運動ぐらいなものらしい。
現在の生徒会はふわふわとした状態で明確なトップが存在しない状況だった。
「姫野さんは会長選に出るでしょ?元会長に推薦されたんじゃない?」
「うん。何で知ってるの?」
「いや…僕も会長に声を掛けられたんだけど断ったから」
「そうなの?私に譲ってくれたってこと?」
「違う違う。僕は勉強に集中しないと進学予定先に落ちるかもしれないから」
「そうなの?暇な時勉強教えようか?」
姫野の提案に頷こうとした所でさらりが口を挟む。
「結構です。私が教えているので」
断りの言葉を口にしたさらりに対して僕は首を左右に振ると姫野の方に顔を向ける。
「暇があったら是非。学年一位と二位に教えてもらえるなんて幸運でしか無いから。良かったらお願いね」
「ちょっと!雪見くん!」
さらりは食って掛かるように口を挟むのだがそれを手で制した。
「色んな人に色んな勉強法を教わったほうが僕も身になるから。カグヤさんに教えてもらった時もさらりちゃんに教えてもらう時とは違うわかりやすさがあったから。人それぞれの教え方があると思うんだ。僕の理解力も段違いに上がると思うし」
仕方無さそうにさらりは納得すると教室に入室する。
席に着くとそこからHRが始まるまで三人で一学期の復習をして過ごすのであった。
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