第31話変わりゆく心境

カグヤとの勉強会、最終日のこと。

つまりは5日のことである。

日中から閉館時間まで勉強をして過ごすと外に出る。

いつものようにその場で別れるつもりだったのだが、カグヤは何かを言いたげな表情でもじもじしていた。

「どうしたの?」

その問いかけに彼女は意を決したような表情で口を開く。

「夕飯食べに行きませんか!?」

急に大きな声を上げるカグヤに少しだけたじろぐのだが彼女なりに勇気を振り絞った結果なことは、その表情を見れば誰にでも理解できることだった。

「わかった。両親に夕飯は外で食べてくるって連絡するね」

ポケットからスマホを取り出すと素早く連絡を入れてカグヤと向かいあった。

「何食べに行く?明日でここを離れるから…少し豪勢なものとか?」

僕の提案にカグヤは再度もじもじすると近くの飲食店を指さした。

「ラーメン?僕は良いけど。カグヤさんが本当に行きたいのであれば」

「うん。行ったこと無いの。一人で入る勇気もないし友達は居なかったし。少しだけ憧れがあったんだ。友達と一緒にラーメン食べるの」

「OK。じゃあ行こう」

そのままラーメン屋に入店すると食券を買って席に着く。

「店内はこういう感じなんだ。食券買うのも学校の食堂ぐらいだし独特な注文方法で驚いた」

カグヤは店内をまじまじと観察しているようで時折感嘆のため息を吐いていた。

しばらくして注文したラーメンが運ばれてくると割り箸を割って手を合わせる。

「いただきます」

そのままラーメンを啜っていくとカグヤは目を輝かせていた。

「美味しい!同級生が放課後にこぞって来る理由が分かるかも!」

カグヤは明らかにテンションを上げてそのままラーメンを啜り続ける。

あっという間の夕食が終わると店の外に出て今日までの感謝を告げた。

「今日まで勉強を教えてくれてありがとうね。こんなものだけど…良かったら受け取って欲しいな」

カバンから感謝の印として買っておいた洋菓子を取り出すとカグヤに差し出す。

「何かが欲しくて教えたわけじゃないんだけどね…でもありがとう。素直に受け取るね」

「また来る時は連絡入れるね。普段も連絡するし、してくれてもいいからね」

「うん。今日まで本当に楽しかったよ。早く同じ大学に通いたいね。真田くんの彼女も見てみたいし」

「そうだね。僕の彼女とも仲良くしてくれたら嬉しいよ」

カグヤはそこで微笑んで頷くと遂には別れの時がやってくる。

「明日からまた少しだけ寂しくなるけど…未来に思いを馳せて頑張るね」

「うん。いつでも連絡して。ひとりじゃないよ」

「ありがとう。その言葉で頑張れるから。じゃあまたね」

お互いに手を振って別れると各々の帰路に就く。

祖父母の家に帰宅すると翌日の早朝に別れを告げて地元に戻っていくのであった。


自分とさらり以外に興味を持てなかった僕に初めてという程の友達ができた。

もしかしたら僕もただ本心を晒すことが簡単には出来ないだけの不器用な高校生なだけかもしれない。

三学期が始まったらもう少し姫野とも積極的に関わりを持とうかななどと思う。

もう少し交友関係を広げても損はないと思った有意義な冬休みなのであった。


こうして冬休みは終りを迎えて三学期がやって来ようとしていた。

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