第30話図書館で勉強会

翌日の正午過ぎに昨日の防波堤に向かうとカグヤは既に僕を待っていた。

「こんにちは。10分前に来るなんて律儀だね。聞いてなかったけど恋人居るでしょ?」

カグヤは僕を誂うように口を開くとニマニマとした表情を浮かべた。

「居るよ。でもなんでそう思ったの?」

「連絡したらすぐに返事くれるし、待ち合わせに遅刻することもなく10分前に到着した。恋愛小説とか少女漫画で見たようなモテる男性のそれだと思ってね…実際に経験したこと無いからにわか知識だったけど…モテる男性って真田くんみたいな人なんだなって理解した」

カグヤは何食わぬ顔でその様な言葉を恥ずかしげもなく口にすると何度も頷く。

「別にモテたりはしてないよ。たまたま恋人が居るだけで…本当に偶然にも僕を好きになってくれた彼女が居ただけだよ」

「そういう謙虚さも必要よね。でも私にまでそれを発揮しなくてもいいよ」

「謙虚というか…事実だから」

僕の言葉を耳にしたカグヤはやれやれとでも言いたげなジェスチャーを取ると歩を進めた。

「早速図書館行こう。お昼はちゃんと食べてきたよね?」

「もちろん。ばあちゃんがはりきってご馳走を用意してくれたから。たらふく食べてきたよ」

「そっか。じゃあ勉強も頑張ろうね」

それに頷くとその足で近くの図書館を目指した。

図書館の直ぐ側にチェーン店のカフェがあり僕らはカフェラテをテイクアウトして目的地に向かう。

「図書館って飲食禁止じゃないの?」

「普通はそうだろうね。でもイートインスペース付きの席があるから大丈夫だよ。普段から人気な場所だけど…日中の限られた時間だけ空くんだ。私も普段から使っているからよく知ってる」

得意気な表情で僕の目を見つめてくるカグヤに軽く微笑むと一つ頷いた。

カグヤの言う通りイートインスペースは現在空いており僕らは隣り合って席に腰掛けた。

「何の教科が一番足を引っ張っている感じ?」

参考書を机に広げるとその教科を指さした。

「やっぱり数学かな。遅れていた分、取り戻すので精一杯で…応用とかになると時間がかかりすぎてテストの時に最後まで問題を解けないことが多いんだ」

「なるほどね。じゃあ反射的に公式を展開できるように訓練しようか」

「わかった。お願いします」

「ちなみに期末テストは何点ぐらいで学年で何位ぐらいなの?」

「全教科80点ぐらいで30位ぐらいかな」

「結構勉強に力入れている高校っぽいね。じゃあここからブースト掛けて頑張ろう」

カグヤの言葉に頷くとそこから日が暮れて閉館時間が来るまで勉強をして過ごすのであった。


「明日も同じ時間で良い?」

「お世話になります。ありがとうね」

「一人で帰れる?」

「子供じゃないんだから」

「でもこの辺、街灯が少ないから。迷うかもよ?」

「そう言われると心配になってくるな…」

「じゃあ送るよ」

図書館の外に出るとカグヤは祖父母の家の辺りまで送り届けてくれる。

「ここからならもう分かる。送ってくれてありがとう」

「いえいえ。じゃあまた明日ね」

カグヤとその場で別れると無事に帰宅する。

食事を取って風呂に入るとさらりと通話をしながら再び勉強に力を入れる。

「なんか解くスピード上がってない?コソ練の成果出てるじゃん」

さらりは嬉しそうに弾んだ声を出すので僕は少しだけ気が引けていた。

「それなんだけど…」

そうしてカグヤの存在を話してみるとさらりは深くため息を吐いた。

「まぁ雪見くんだから浮気するような事は無いって分かってるけど…ちょっと心配だな」

さらりの本心を耳にして申し訳ない気持ちになるのだが僕にはカグヤに対する下心はなく好意は友愛的なものである。

「大丈夫。信じてるから明日からも勉強を教わってきなよ」

「信じてくれてありがとう。三学期の期末では10位以内を目指すから。期待してて」

「分かった。期待してる」

そこから他愛のない会話を繰り広げながら深夜辺りまで勉強に励むのであった。

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