第29話両親の帰省先で出会った美少女

年始は両親と家で過ごし三が日は両親の地元に帰省していた。

祖父母にお年玉をもらい地方の寒さを感じながら外を散歩していた。

海辺を歩いて大海原を眺めていた。

そこに一人で釣りをしている女性が目について、その姿に引かれるように歩を進めた。

「寒くないですか?」

どうして声を掛けたのか僕自身にも理解は出来なかった。

「ん?見ない顔だね。カイロ貼ってるし七輪に炭も入っているし。暖は十分に取れてるよ」

近付いて初めて気付いたのだが彼女は信じられない美貌の持ち主で見る者を圧倒するほどの美人だった。

けれど、何故か僕は気圧されない。

もしかしたら日頃からさらりの美貌に充てられているからかもしれない。

「釣った魚をその場で焼くのが私の趣味なんだ」

彼女は七輪を指差すときれいに微笑んだ。

「その場で捌くのが普通では…?新鮮だし刺し身で食べたほうが美味しいんじゃないんですか?」

「かもね。でも私は焼き魚が好きなの。って普通に会話してくれるんだね」

彼女は少しだけ困ったような表情を浮かべると頬をかいていた。

「どういう意味ですか?初対面の人とだって会話ぐらい普通にしますよ」

何食わぬ顔で答えを口にすると彼女は首を左右に振る。

「そういう意味じゃないんだ。私はカグヤ。君は?」

「真田雪見です。両親の地元がこちらなので帰省してきました」

「見ない顔だったのも納得だね。高校生?」

「はい。二年生です」

「ホント?じゃあタメだ」

「そうなんですか?大人っぽく見えたので…同級生だとは思いませんでした」

カグヤの座っている防波堤の隣に腰掛けると澄んだ海を眺めていた。

「そうなの?私って大人っぽいの?」

「はい。よく言われませんか?」

僕の言葉を耳にしたカグヤは気まずそうに首を左右に振る。

「地元の人は私に話しかけないから…目を合わせようともしない」

「それは…どうしてですか?」

「さぁ…宇宙人ってあだ名を付けられているぐらいだよ…もしかしていじめられてるのかな?」

カグヤは最後の言葉を戯けたような表情で本心を誤魔化すように口を開いた。

「それは違うと思いますよ」

何の根拠もなく否定の言葉を口にしたわけではない。

カグヤは何かを期待するような視線で僕にその真意を求めていた。

「普通に考えてカグヤさんが信じられないぐらい美人だから近寄りがたいだけですよ。それに名前がカグヤですからね。月の住人のようだって意味で宇宙人なんてあだ名を付けられたんじゃないですか?」

「そうなの?私にはわからないけれど…母親も同じ様な顔をしているけれど普通に友達もいるし…」

「きっとこれから広い世界に出たら、友達ぐらい何人だって出来るはずですよ」

励ましの言葉を耳にしたカグヤは釣り竿を防波堤に置くと右手を差し出してくる。

「じゃあまずは友達一号になってよ」

その魅力的にも思える誘い文句に僕は笑顔で応えると右手を握った。

「こちらこそよろしくです」

握手を交わした所で釣り竿がヒットしてカグヤはすぐに握っていた手を離した。

そのまま釣り竿を握るとその場で立ち上がる。

「結構大物っぽい!」

カグヤはそのまま魚を釣り上げると魚を絞めて下処理をする。

下処理を終えると塩をまぶして七輪の上に丁寧に置いた。

「一緒に食べない?」

「是非。喜んで」

そこから魚が焼けるまでの間、お互いの身の上話をして過ごし進学予定先についての話になる。

「え!?進学予定先一緒だよ!すごい偶然!」

「僕はまだ学力が足りないから…三年生になったら勉強に集中しないといけなくて」

「そうなの?いつまでこっちに居る予定なの?」

「5日まで。6日の早朝に帰るんだ」

「じゃあまだ時間はあるね。明日から日中は勉強見てあげようか?」

「良いんですか?それは助かりますけど…でも何処で?」

「近くに静かな図書館があるんだ。そこで勉強しない?」

「じゃあお願いします」

深く頭を下げると冬休みの日中の予定は決まっていくのであった。


「じゃあ連絡先交換しておこ?明日の待ち合わせもここで良いかな?」

カグヤの言葉に頷くと連絡先を交換してその場で別れる。

相手が美人だからといって決して僕に下心は無いということだけははっきりと記しておく…。

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