第23話迫る危機
「今年の修学旅行は例年よりも一日少なかったことを謝罪する。旅行に行く全生徒が興味を持てない場所に行っても意味がないと思ってな。それでは修学旅行にはならないと言われたのだが、もう高校生だ。自ら判断して行きたい場所に行けばいい。義務教育ではないのだから無理に縛る必要もないだろう?縛った結果、問題を起こす生徒もいたかもしれない。出来る限りの自由を与えるのが一番の解決策に思えたんだ」
廊下ですれ違った南雲は僕らに言い訳のような言葉を口にする。
それに数回頷いて応えると南雲は満足そうに微笑んだ。
「それでも楽しめたかな?」
「はい。良い旅行でした」
「そうか。君と同じ学年じゃなかったことを幸運に思うよ。では」
南雲は先を急ぐとさらりは訝しんだ表情を浮かべていた。
「同じ学年じゃなかったことを幸運に思う?どういう意味?」
「やっぱり旅行は二泊三日の方が楽しかったんじゃないの?」
「そうかなぁ…それならなんで私達の代から一泊二日にしたの?辻褄合ってないでしょ」
「それは…確かに」
「やっぱりあの人は怪しいな…」
「考えすぎだよ」
そんな会話をしながらクラスに入るといつものように姫野が近付いてくる。
「真田くん…あなた何したの?」
慌てたような表情で僕らの元へやってきた姫野に首を傾げて応える。
「何が?」
「いや…放課後に生徒会室に呼び出されてるよ」
「え…?なんで?」
「知らないわよ。何かしたの?」
「なにも…」
僕と姫野の会話を耳にしたさらりは不機嫌そうな表情を浮かべると一つ嘆息する。
「やっぱりなにかあるんだわ」
さらりのその一言が印象的だったが丁度鳴った予鈴により僕らは席に着く。
HRが終わると一限目に向かうのであった。
何事もなく放課後がやってくると僕は一人で生徒会室を目指した。
その扉の前でノックをすると中から声が聞こえてくる。
「どうぞ」
それに従って入室すると中には南雲しかいなかった。
「何か用でしょうか?」
「まずは座ったらどうだ?」
その言葉に従って席に腰掛けると南雲は早速話を切り出した。
「私は出来る人間でね。私以上に出来る高校生を知らない」
「そうでしょうね」
「だから自然と誰かを守る立場になりやすいんだ」
「はぁ…それで?」
「だけど…子供がすこぶる苦手なんだ」
「ん?急に話が見えなくなりましたが…」
「うん。会長として生徒会主導で近くの小学生を集めてクリスマス会をすることになっているんだ。これが生徒会長として最後の仕事になるんだが…成功するか少しだけ自信がない」
「そうなんですね…。それでも頑張ってください」
他人事のように南雲にエールを送ると離席しようとしかけるのだが…。
「そこで頼みがある」
嫌な予感がして表情が引き攣ると南雲はその言葉を口にする。
「頼む。手伝って欲しい。男手が多いのは助かる」
「さらりちゃんに聞いてみないと…」
「いやいや。自分のことは自分で決めないとな」
「………」
黙りこくっていると南雲は何食わぬ顔で他の提案を口にした。
「副嶺も誘ってみるか?」
「さらりちゃんは手伝わないと思いますが…」
「そうかもな。だが君は手伝ってくれるだろ?誰よりも優しい君なら」
何もかもを見透かすような瞳で僕を射抜く南雲の言葉に僕は仕方なく頷いてしまう。
「いつから手伝えば良いのでしょうか?」
「そうだね。すぐにでも取り掛かりたいんだ。明日からでも良いかい?」
「分かりました。では今日はこれで失礼します」
南雲に別れを告げると生徒会室を後にする。
二学期を最後に生徒会長を後任に引き継ぐ彼女の最後の仕事を手伝うことになり、僕は少なからず不思議な危機を感じてしまうのであった。
帰宅するとさらりに事情を話してみるのだが…。
予想通り彼女は不機嫌になるのであった。
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