第21話新たなヒロイン?

「修学旅行の班決めですが…それぞれ周りたいところも異なると思うので三人以上の班を作ってください。人数の上限は無いですが地元住民に迷惑をかけない行動を取ってもらいたいので十人以上の班は余程有名な場所以外はご遠慮ください。それでは班を作ってください」

担任教師の言葉を合図に生徒は散り散りになり好きな人と班を組んでいた。

もちろん僕とさらりはすぐに班を組み、あと一人をどうにかして入れないといけないという状況だった。

「やっぱり二人は組むのね」

そんな僕らのもとにやってきたのはいつもの通り姫野だった。

「はいはい。そういう展開ね」

さらりは軽く嘆息すると姫野に椅子を差し出した。

「え…?」

明らかに動揺している姫野に対してさらりはかなり落ち着いているようだった。

「組んでくれる人がいないんでしょ?」

「いくらでもいるし!」

「ホントは?」

「………組んでください」

「仕方ないな。今回だけね」

「いいの!?」

「本当は二人きりが良いけれど…そうもいかないし」

妥協に妥協を重ねた結果とでも言いたげなさらりの発言を耳にしても姫野は嬉しそうな表情を崩さない。

「ありがとう!これで修学旅行も楽しみ!」

「そんなに喜ばれてもね…」

困り果てているさらりといつもとは違い嬉しそうな姫野。

二人を見て僕は実は相性が良いのではないかと憶測してしまう。

「じゃあ行くところだけど…」

そうして僕らは自由行動の行き先を決めていく。

ちなみにだが部屋のメンバーは男女別の出席番号順だった。

「じゃあ行くところはそれで決まりね。勝手に二人きりになったりしないでよ?」

「ならないよ。問題を起こすと面倒だからね」

「そう。それなら良いけれど」

二人の会話を聞きながら僕はスマホで行き先について調べていた。

道中の飲食店や土産屋などの情報を調べるとメモに残しておく。

「ちょっとお手洗い」

さらりは席を外すと姫野と二人きりになる。

「修学旅行…楽しみだね」

「そうだね。うちの学校は色々と自由が効いて嬉しいね」

「確かに。また生徒会の提案なのかな?」

「かもね。今代の生徒会長はカリスマだから」

「あぁ…完美なるみさんね」

「ん?知り合いなの?」

「中学の時の先輩なんだ。当時も生徒会長だったよ」

「そうなんだ。南雲完美なぐもなるみって名前からしてカリスマっぽいよね」

「確かに。昔から上に噛みつく人だったんだよ。逆に下の立場の人間にはすこぶる優しい」

「へぇ〜。良い人そうだね」

他愛のない会話を繰り返しているとお手洗いから帰ってきたさらりは着席する。

「何の話ししてたの?」

「生徒会長の話」

それに答えるとさらりは数回頷いて口を開く。

「今回も生徒会の仕業っぽいね」

「まさにその話をしてたんだよ」

「そうなの?みんなそう思ってるんじゃない?」

「かもね。あの生徒会なら何でもやりそうだし。規則とか簡単に崩しそうだもんね」

僕らはそれに頷くと担任教師が口を開く。

「そろそろ決まったかな?決まったら報告に来てください」

「じゃあ私が言ってくる」

姫野は手を挙げると担任教師のもとに急いで向かう。

自由行動の班決めが終わり、残りのLHRの時間は自習になるのであった。


「そこの二人。ちょっといいか。もし良かったら手伝ってほしい」

放課後の廊下で僕とさらりは帰路に就こうとしていると後ろから声を掛けられる。

「生徒会長…何を手伝うんでしょうか?」

背後に立っていたのは件の生徒会長、南雲完美だった。

「いやなに。ダンボールを運んでほしいだけなんだ」

「わかりました。どこまでですか?」

「校舎裏のゴミ捨て場までだな」

「わかりました。ダンボールはどこでしょう?」

「生徒会室だ。付いてきてくれ」

それに頷くと僕らは南雲の後に付いていき生徒会室に入っていく。

「生徒会で色々と買ったんだ。予想以上にダンボールが出てしまってね。手伝ってもらって申し訳ない」

「いいですよ。ゴミ出ししてそのまま帰りますから」

「そうか。二人は仲が良いのだな」

「そうですね」

「学校でも有名なカップルだ。話せて光栄だよ」

「そんな…僕らこそ会長と話せて光栄です」

南雲はそれに笑うとダンボールを持って廊下に出た。

「今年の修学旅行は満足いきそうか?」

「はい。やっぱり生徒会が色々と動いてくれたんですか?」

「まぁ提案したに過ぎないがな」

「色んな規則を変更してきた実績は凄いですね」

「ありがとう。上に噛みつくのが私の性分でね」

「ははっ。苦労しそうですね」

「かもな。でもやりがいは感じている」

初めて話す南雲と簡単に打ち解けた僕と、未だに口を開かないさらりが少しだけ奇妙だった。

ダンボールをゴミ捨て場に捨てると南雲は握手を求めてくる。

「ありがとう。助かった。またすれ違ったら挨拶させてくれ」

「はい。もちろんです」

「真田雪見と副嶺さらりだったな。ちゃんと記憶した」

「名前知ってたんですね」

「あぁ。君らカップルは学校でも有名だからな」

「そうなんですか?知りませんでした」

「そうか。それではまたな。気をつけて帰りなさい」

その場で南雲と別れると僕らは帰路に就く。

「さらりちゃん。不機嫌?」

「そんなことないけど…なんか会長の態度が怪しいなって思って」

「どこが?」

「だって私達のことなんて誰が知ってると思うの?しかも先輩がだよ?何か企みがありそうだなって…」

「考えすぎだよ。何もないって」

「そうだと良いんだけどね…」

さらりは首を傾げると不満そうな表情を浮かべ続けているのであった。


放課後の生徒会室で南雲は独りごちる。

「やっとあの子と話せた…可愛かったな…」

その発言を耳にした生徒会メンバーは南雲に問いかける。

「でも彼女持ちですよ?別れる気配もなさそうですし」

「いやいや。恋なんて何が起こるかわからないものだろ?」

「そうかもですけど…寝取ったり強引な手段はやめたほうがいいですよ」

「そんなことはしない。徐々に距離を詰めていくんだよ」

「会長はやっぱり危険ですね」

「褒め言葉ありがとう」

南雲はそこから本日の仕事を完了させると帰路に就く。

「早く私のものになって欲しいな。真田雪見…」

カリスマの南雲にとって自分よりも出来る存在はいないと確信している。

それなので彼女は自分よりも年下で守ってあげたく外見も可愛らしい人物を求めていた。

偶然にも雪見がそれに該当してしまう。

ここから生徒会長である南雲完美も加えた物語が始まろうとしていた。

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