第20話文化祭。ノルマ達成

長いようで短かった文化祭準備期間が明けると当日がやってきていた。

僕とさらりはダンボールの看板を身体にぶら下げながら校内を練り歩いていた。

「クレープ食べたい」

さらりの提案により僕らは三年生のクラスに入室する。

「味は一種類しかないみたいだね」

「生食品の扱いは文化祭では難しいらしいよ」

「そうなの?知らなかった」

「殆どが冷凍食品を使用するんだって。決して生物はダメだとか」

「食品衛生法的な話?」

「そうかも。良くそんなの知ってるね」

「母さんたちがそんな会話をしていたのをふっと思い出したよ」

「そっか。雪見くんの両親も教師だもんね」

「そうそう。家でたまに仕事の話してるし」

「ふぅ〜ん。仲良い夫婦で羨ましいな」

「さらりちゃんの両親は仲良くないの?」

「そんなことないけど…本当の意味で自分以外に興味ない人たちだから」

その言葉を耳にして僕はどこか切ないような気分に駆られてしまう。

他人の家族の事情を引っ掻き回す趣味はないので話を流すと丁度注文していたクレープがやってくる。

それを食しながら再び校内を練り歩いているとさらりは二年生の教室の前で足を止めた。

「フランクフルトも食べたい」

「今日は食いしん坊だね」

「意外にジャンクな食べ物が好きなんだ」

「そうなんだ。コンビニとか行くと目移りしそうだね」

「うん。だから普段はなるべく見ないようにしてる」

「確かに目に入ったら食べたくなるもんね」

「今日は特別自分を許そうかな」

「普段から甘やかしても良いんじゃない?」

「何言ってるの?そんな事したらあっという間に太るんだから」

「太るさらりちゃんは想像できないけど…」

「雪見くんのためにも努力してるの」

「そう。太っても好きだけどね」

「そうやって甘やかさないで」

結局、二年生のクラスの出しものであるフランクフルトを購入すると買い食いの時間は続いた。

「こら!バカップル!ちゃんと仕事もして!」

いつものように僕らを注意する声が聞こえてきてすぐにその正体に気付く。

「まただ…」

さらりは鬱陶しそうに嘆息すると件の人物である姫野と向き合った。

「何か用?」

「だから!ちゃんと仕事して!出来ないなら代わるわよ?」

「してるけど?私達は看板を持って校内を歩くのが仕事だし」

「そうだけど…さっきから飲食の出し物にしか入ってないじゃない」

「ずっと見てたの?そういうのストーカーっていうんだよ?」

「ストーカーじゃない!私はクラスメートがちゃんと仕事しているか見張っているだけ!」

「じゃあ他の生徒のところにも行ってよ。私達はちゃんと仕事してるから。イチャモンつけないで。それとも一緒に周りたいの?素直に言えば考えるけど?」

さらりは思ってもいないことを口にして、いつものように姫野を撃退しようとしていた。

「いや…午後は友達と周るから…遠慮するわ」

「良かった。邪魔者は早く去って欲しいと思ってたんだよね」

「毎回毎回そんな言い方…流石に酷いわ…」

本日の姫野は少しだけ手強い感じに思えた。

さらりは苦戦しているようではなかったが少しだけ表情を歪めた。

もしかしたら若干の罪悪感を覚えているのかもしれない。

「それは謝るけど…。とにかくもう良いでしょ?ちゃんと宣伝はするから」

「そうして頂戴。じゃあ私は先に行くわね」

本日は泣き言をいう姫野を見ることもないと思っているとさらりは最後に余計な一言を口にする。

「そうだ。姫野さんって友達居るんだね。勉強できるから利用されているだけかと思ってた。ほら。この間の休日も一人だったし」

「………そんなことないもん!ちゃんと友達は居るんだから!うわぁ〜ん!」

結局、姫野の泣き声が廊下中に木霊するとさらりは満足そうに微笑む。

「本日もノルマ達成」

誇らしげな表情を浮かべているさらりに苦笑すると文化祭は続くのであった。


結局、三日間に渡る文化祭で学校中の男女の関係は加速度的に進んでいた。

もう誰も体育祭が無かったことなど忘れているようで至る所にカップルの仲良さげな姿を見ることになる。

「文化祭も成功してよかったよ。期末が終わったら修学旅行だね」

振替休日のデートの時間にさらりは唐突に口を開く。

本日は僕の部屋で勉強会だった。

現在は小休憩の時間だった。

「そうだね。自由行動の班も一緒になれるといいね」

「ホントそれ。早いこと二人固まっておこ」

「そうしよ。後は適当に入ってきた人と組めばいいよね」

「姫野さんが入ってきたら…想像するのやめておこ。言霊ってあるし…」

さらりは疲れたように嘆息すると再び口を開く。

「さぁ。休憩終わり。また頑張ろ」

そうして僕らは振替休日の間も勉強をして過ごすのであった。

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