第15話姫野の絡んでくる理由

二学期が始まってから数週間が経過した頃のことだった。

学校に向かうため家を出ようとしていると母親は僕を呼び止めた。

「白砂さんがさらりちゃんのこと良い彼女だって言ってたわよ」

「そうなんだ。夏休みの間のことを言ってるのかな?」

「そうじゃない?毎日のように二人で買い物に行ってたんでしょ?仲の良い二人で羨ましいって」

「白砂さんってご両親の方?」

「違う違う。零ちゃんが言ってたの」

「ふぅ〜ん。何はともあれ嬉しいかな」

「大事にしなさいね」

「わかってるよ。じゃあ行ってきます」

家を出ると駅まで向かいさらりと合流するのであった。


昼休みに二人で過ごしていると学校内では珍しく姫野に絡まれることになる。

「二人は…その…もうそういう関係なの…?」

「そういうって?」

さらりが問い返すと姫野は恥ずかしそうにもじもじとしながら口を開く。

「だから…キスとか…そういうのした?」

「あぁ。とっくだね」

「ぐはっ…!」

自分から質問をしておいて姫野は精神的ダメージを食らっているようだった。

「その…どこまでいってるの…?」

「え?最後まで」

「………うわぁ〜ん!」

姫野は泣き崩れるとクラスを抜けていく。

「何だったの?」

さらりは僕の方を向くと困ったような表情を浮かべていた。

「ん?ライバルに先を越されたのが悔しいんじゃない?」

「そういうこと…別に張り合うことじゃないのにね」

「そうだけど。さらりちゃんに負けたくなかったんでしょ」

「面倒だな〜」

「そう言ってあげないでよ」

不機嫌ではないが面倒くさそうな表情を浮かべている彼女をなだめると午後の授業に向かうのであった。


「今日は先に帰ってて」

放課後を迎えるとさらりは僕に申し訳無さそうに口を開く。

「ん?わかったけど。何か用事?」

「そうなの。親の気まぐれで外食に行くことになって。断ることが出来なくて…ごめんね」

「いいよいいよ。楽しんできて」

「雪見くんと居るほうが楽しんだけどね…」

「まぁそう言わずに」

「じゃあまた明日ね」

さらりに手を振ると彼女は足早に教室を後にする。

久しぶりに一人で帰路に就いていると目の前を歩いていた姫野が後ろを振り返った。

「彼女は一緒じゃないの?」

「うん。今日は予定があるらしくて」

「そう。でもどうしてあの娘と付き合ったの?」

「どうしてって?」

「だって真田くんってそういうの興味なさそうだったじゃない」

「ん?僕のことなんて良く知ってるね」

「それは…」

姫野はそこで言葉に詰まると顔を背けた。

「なんでもない!じゃあまたね!」

彼女はそれだけ言うと逃げるように走っていった。

「なんだったんだろ…」

姫野と良くわからないやり取りをすると本日は大人しく帰宅するのであった。


夜遅くにさらりから連絡が入り僕らは通話をして過ごしていた。

「そう言えば…」

と姫野との会話をさらりに伝えると彼女は意味深なため息を吐く。

「それで異常に絡んでくるようになったんだ…気をつけよ」

「どういうこと?」

「雪見くんは知らなくていいよ」

さらりは少しだけ不機嫌そうな声を出すが、その後も楽しげに通話をして過ごすのであった。

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