第12話登校日のライバル
夏休み最終週にある登校日がやってきていた。
僕らは駅で待ち合わせをすると揃って登校する。
「夏休みどうだった?」
「海でめっちゃ日焼けしてきた」
「バイト三昧でやっとバイク買えた」
クラス中ではその様な会話が繰り広げられている。
僕とさらりは教室の端の方で二人で過ごしていた。
「みんな日焼けしてるね。私達は白いままだ」
「なるべく外は避けてたからね。買い物行くときも日が傾いてからが多かったし」
「それでも焼けてなさすぎだよね」
「たしかにね。同じ夏休みを過ごしたとは思えないね」
「ホントそれ。でも楽しかったね」
「うん。来年の夏休みは勉強三昧かな」
「そうなるね。受験するでしょ?」
「するよ」
「何処に行くか決めてる?」
「まだだけど」
「じゃあ同じ大学に行かない?」
「え…本当に言ってる?」
さらりはそれに頷くので僕は彼女の志望校を尋ねた。
「そこだと…かなり勉強頑張らないと…」
「良いじゃん。毎日私が教えるよ?」
「良いの?」
「もちろん」
「じゃあそうしようかな」
ということでいきなりだが僕の進路が決定するとこれからの目標が定まるのであった。
「学校の成績だけじゃ測れないけど…出来れば10位以内を目標に頑張ろうね」
「マジ…さらりちゃんは期末何位だった?」
「2位だったよ。1位じゃなくて悔しかった」
「あぁ…1位はあの娘でしょ?」
「そう。天才、姫野かがりだよ」
「何点差だったの?」
「5点」
「凄いじゃん」
「でも相手は全教科満点」
「それは…凄いね…」
僕らはそこで言葉に詰まると件の天才、姫野かがりの姿を目で追った。
彼女は容姿も整っていて運動もできる。
空気も読めて誰にも嫌われないタイプの生徒だった。
「かがり〜宿題見せて〜」
クラスの女子に囲まれている彼女は笑顔を絶やさないとクラスメートに向き合った。
「まだ土日あるんだから頑張ろ?私も手伝うから」
「えぇ〜だるいなぁ〜」
「頑張れば終わるよ。私だって宿題は夏休み初日に終わったから」
「かがりと一緒にしないでよ〜」
「教えるから。ね?」
「わかったぁ〜」
彼女らの話を盗み聞きすると僕らは思わずため息を吐いた。
丁度鳴った予鈴を耳にして着席すると担任がやってくる。
「今日は登校日ってだけだから出席確認をして帰宅です。夏休みはどうでしたか?」
担任の一言にお調子者のクラスメートが揃って口を開く。
「あと1ヶ月足りない!」
その言葉を受けた担任は軽く微笑むと口を開く。
「大学生になれば後1ヶ月は夏休みですよ。なのでみなさんも来年の受験を頑張って大学生になりましょうね」
「えぇ〜もう勉強したくない」
「それもいいでしょう。就職するのも専門学校に通うのも何でもありです。高校を卒業したら思った以上に自由が待っていますよ。儚い自由期間ですが…」
「大人の闇って感じですか?」
「そんなこともないですが…大人も思った以上に楽しいですよ。夏休みを明けた皆さんの成長を楽しみにしています。では本日はこれにて」
挨拶を交わすと僕らは教室を抜ける。
各々が友人や恋人と揃って帰路に就く。
僕もさらりと教室を抜けるとそのまま下校路を歩いた。
「夏休みも終わるね。そう言えばこの間、家に来たときのこと母さんが喜んでたよ」
夏休みの最終週にさらりは僕の両親と顔を合わせたのだが、今はその時の話である。
「ホント?それなら良かった」
「あんなに美人な彼女をどうやって捕まえたんだって父さんにも言われた」
「そうなの?嬉しいな」
「僕にはもったいないとか言われて絶句したよ」
「私は雪見くん以外に興味ないから」
「僕もさらりちゃん以外には興味ないよ」
そんな会話をしながら帰路に就いていると目の前で友人と別れた姫野が後ろを振り返る。
「二人は付き合ってるの?」
「うん」
さらりが応えると姫野は少しだけ険しい表情になった。
「いつから?」
「夏休み前」
「私に勉強で負けてるのに良いの?」
何故かさらりにだけ好戦的な姫野を訝しく思うがその理由は明確になる。
「私は雪見くんと付き合えて幸せだからテストで1位になれなくてもいいかな」
「ぐはっ…!」
姫野はダメージを食らったかのような声を漏らすと一度膝に手を置いた。
「私だって…彼氏…ぐらい…」
「いるの?」
「いま…せん…」
「じゃあ私の勝ちかな」
「くっ…今に素敵な彼氏が…できるはず…」
「夢見てるだけじゃ何も起きないよ」
「………うわぁ〜ん!」
姫野は急に泣き出しそうな声を上げるとそのまま走って逃げ出す。
「二人はライバルなんだ?」
「そういうことになるね」
「友達はいないんじゃなかったの?」
「友達ではないよ。ライバルなだけ」
「そっか。でもいい関係だね」
「そうかなぁ…なんか毎回絡まれて面倒なんだよね」
「まぁそう言ってあげないで」
そこから僕らは街に向かう。
土日は夏休み最後のデートを家で過ごすことになる。
当然のように予習をして過ごすと二学期が始まろうとしていた。
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