第9話両親がそろそろ帰ってくる

「おはよ…」

昨夜は眠ることが出来ずにリビングに顔を出すとさらりも同じ様な表情を浮かべていた。

「おはよう。さらりちゃんも眠れなかったの?」

正直に問いかけると彼女は静かに頷いた。

「初めてキスしたから…ドキドキして眠れなかった…」

「だよね…僕も…」

キスをした次の日だと言うのに僕らは気まずい雰囲気に見舞われることもなく感想のようなものを言い合う始末だった。

「朝食作ったよ。食べられる?」

それに頷くとテーブルの前の椅子に腰掛けて揃って朝食を取る。

「今日は寝て過ごそうか…」

「うん。そうしたい。食べたら眠くなってきたし…雪見くんと話をしてたら落ち着いてきたし…」

「だね。夕方辺りまで寝てよ」

「うん。起きたら買い物ね」

朝食を取り終えると食器を洗ってから各自の部屋に向かう。

「起きたら声かけてね」

「雪見くんもね」

僕らは各自の部屋に入るとそのままベッドに倒れ込むのであった。


深く眠りについて目が覚めると辺りには夕方が訪れていた。

欠伸を一つすると背中を伸ばしてベッドから這い出る。

そのままさらりが眠る客室に向かうとノックをした。

だが返事がなく僕は静かにドアを開けた。

さらりは未だにベッドで眠っており酷く暑かったのか汗をかいていた。

エアコンを付けてあげるとスイッチの音に気づいたのかさらりは目を覚ます。

「おはよ…暑いね…」

「おはよう。エアコンつけたから汗引くまで横になってたら?」

「うん。もう少しだけ横になってる」

少しだけ無言の時間がすぎるとさらりは僕に声をかける。

「雪見くんも横になったら?」

その問いかけに僕はゴクリと唾を飲み込むと一つ頷く。

そのままさらりの隣に横になると天井を眺めていた。

「なんかこういうの良いよね」

さらりは唐突に口を開くと僕の方に顔を向けた。

それに応えるように僕も顔を向けると彼女はモゾモゾと近付いてきて…。

そのまま僕の唇にキスをする。

きれいに微笑んださらりは汗が引いたのかベッドから起き上がった。

「じゃあ今日も買い物行こうよ」

「そうだね…行こう」

若干気まずいような雰囲気だったがそれを吹き飛ばすように頭を振って僕らは支度を整えてから家を出る。

普段通りのスーパーで買物を済ませるといつものように帰路に就く。

帰宅途中にスマホが震えてそれを手にした。

「やっぱり心配だし明日には帰るから」

両親からのメッセージに僕は軽く肩を落とすとさらりにそれを見せた。

「そっか…お泊りももう終わりだね…」

僕らはそこから無言の状態で帰宅すると夕食の準備に取り掛かった。

「お泊り…楽しかったよね?」

「うん。僕は凄く楽しかったよ」

「それで…提案なんだけど…」

さらりは料理の手を止めると僕の顔を見つめる。

「ん?なに?」

「あの…良かったら明日からうちで過ごさない?」

「さらりちゃんの家で?両親には言ったの?」

「どうせ帰ってこないし…雪見くんと離れたくないし…」

「わかった。友達の家に泊まりに行くとか両親には言っておくよ」

「よかった…明日からもこの生活は続くんだね」

僕はそれに頷くとさらりも嬉しそうに微笑む。

「そう言えば…宿題もそろそろ終わらせておかないとね」

「まだ夏休みはあるよ?」

「そうだけど…最後の方は今みたいな生活を送れないでしょ?ずっと家を空けてたら雪見くんのご両親だって心配するだろうし…だから今のうちに終わらせておいて夏休みの最後の方は色んなところにデートに行こう」

「そうだね。お泊りできるのももうすぐ終わるのか…」

「学校始まったら金曜日にうちに泊まりに来たら?私の親は大体居ないし」

「良いの?」

「もちろんだよ」

夏休み以降の予定も決まると我が家で過ごす二人きりの最後の夜は過ぎていこうとしているのであった。

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