第4話料理回。次回ふたりきりの夜
「カレーでもいいかな?作り置きして冷凍すれば数日は食べられるよ」
僕の家を訪れたさらりはキッチンに立つとエプロンを着る。
「カレー好き。助かるよ」
「良かった。難しくないから雪見くんも覚えたら?将来一人暮らしするんだとしたら料理スキルは力になってくれるよ」
「それもそうだね。ここから興味が出るかもしれないし。一緒にやってみるよ」
「頑張ろ」
そこからさらりの指示に従って僕らはカレーを作るのだが…。
「包丁は危ないから最初は見てて」
「わかった」
さらりは各種の野菜を乱切りにしていくと一度ボウルに入れる。
「洗うのは分かる?」
「洗剤は…」
「そういうボケは良いから」
「………」
割と真面目に尋ねたのだがボケだと思われて一蹴されてしまう。
野菜を水洗いすると網目の荒いボウルにあげておく。
彼女はフライパンにバターを入れると豚肉のブロックを細かく切って炒めていた。
塩コショウをして焼き目が着くまで焼くと野菜を投入した。
野菜にも味をつけると水を入れていく。
鍋の中が沸騰すると中にローリエを入れて30分ほど放置。
「今日は簡単にルーを入れるけど。拘る人はスパイスやらカレー粉とか色々入れて作るみたいだよ」
「なんかたまに聞くね。難しそうだけど上手く出来るの?」
「何回も試行錯誤しないと素人ではまず無理かな。初めはルーで良いよ。結局ルーが一番美味しいっていう人も居るし」
「ふぅ〜ん。人それぞれか。いつか試してみようかな」
「その時は一緒にやろうね」
それに頷くと僕らはリビングに向かいアラームが鳴るのを待った。
「雪見くんは兄弟とかいないの?」
「いないよ。ずっと一人っ子」
「じゃあ一緒だ。兄弟欲しかったでしょ?」
「それはそうだけど…幼い頃は両親の愛を一身に受けられたから一人っ子で満足してるよ」
「羨ましいな。私の家は昔から両親が仕事一筋だから…あまり構ってもらえなかったよ」
「そうなんだ…。一人でどうしてたの?」
「ん?保育園のときは殆ど延長保育だったし、小学校の頃は学童に通っていたよ。中学生なったら一人で留守番できるようになったし。殆ど本が友達で恋人で家族みたいな感覚だったな」
「本が?」
「そう。本は私を救ってくれたよ。孤独を感じなかったし時間を忘れて没頭できた。両親からお金だけは毎月たくさんもらえたから…よく書店に通ってたな」
さらりは過去を思い出すような表情を浮かべていて少しだけ切ないように思えた。
リビングのテレビを何気なく付けると夕方のニュース番組が放送されていた。
それをなんとなしに見ていると…。
「なんか台風来てるみたいだよ」
外は晴れているがこの数時間後には台風がやってくるそうだった。
「そうなんだ…」
さらりは少しだけ怯えたような表情を浮かべて身体を縮こまらせた。
「どうしたの?」
「いや…昔から台風が怖くて…」
「そっか…一人で居るの辛い?」
「うん…」
さらりは静かに頷くとキッチンのアラームが丁度鳴り響く。
その瞬間、さらりは驚いたようで僕にしがみつく。
「ごめん…ただのアラームだった…」
「いいよ。雷とかも怖い感じ?」
「うん。天気が荒れると怖くて…」
それに数回頷くと僕らはキッチンに向かいアラームを消した。
「良かったら泊まっていく?一緒に居るよ」
「ホント…?」
「うん。心配しないで。僕が居るから」
さらりは僕の言葉に安心したように頷くと鍋の中にルーを入れていく。
それをしっかりと溶かすと10分程火にかけた。
その間に冷凍のご飯を温めておいた。
温めが終わると食器に移してカレーをよそっていく。
「じゃあ夕食にしよ」
僕らは揃ってリビングのテーブルにカレーをよそった食器を運ぶと食していく。
ひとくち食べて母親の作るカレーライスと何ら変わりなくて僕は少し驚く。
「普通に美味しい」
「そうでしょ?初心者でもすぐにこれぐらい出来るようになるよ」
「ありがとうね」
「何が?」
「いや、作ってくれて。一緒に御飯を食べてくれて」
「なんだ。そんなこと?私も一人は寂しいから」
「そっか…」
僕らはそこから他愛のない会話で時間を過ごしていくと街には台風が襲来してくるのであった。
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