第3話夏休み開始

「それじゃあ、お母さんたち本当に行くけど大丈夫?」

夏休み初日、母親は早朝からリビングにて僕に問いかける。

「問題ないよ。困ったら食事だって出前があるし」

「そうだけど…何かあったらすぐに連絡すること」

「分かった」

「何かあったら白砂しらすさんに言うんだよ?」

白砂とはお隣さんである。

白砂家の娘には社会人のお姉さんである白砂零しらすれいが住んでいる。

歳が近いという理由だけで小学生の頃に少しだけ遊んだ程度の仲で取り立てて親しい訳では無い。

後は僕の両親と歳の近い夫婦が一緒に住んでいる。

「分かった。迷惑かけないようにする」

「子供なんだから迷惑はかけてもいいけど。何かあったらお母さんたちがフォローするし」

「ありがとう。でもなるべく何も問題を起こさないようにするよ」

母親はその言葉に頷くと僕に何かの箱を渡してくる。

小さな箱で何事かとまじまじと覗き込み…。

「いや、いらないよ」

その箱の表紙を見て僕は思わず声を上げた。

「いるでしょ。夏休みなんだし両親がダメって言っても家に連れ込むでしょ?」

「………」

言葉に詰まっていると母親は嘆息して呆れたように口を開く。

「お父さんとお母さんだって学生だった頃があるのよ?気持ちぐらいは理解できる。だから念のため持っておきなさい。彼女を傷つけたくないでしょ?」

母親の言葉に頷くと僕はその箱を受け取る。

それはもちろん避妊具なのだが…。

まさか母親に渡されるとは思ってもいなかった。

僕の夏休みに向けての気持ちは一気に萎えていく。

両親は家を出ると車に乗り込んだ。

「じゃあ行ってくるね」

母親の言葉に頷くと父親は車の窓を開けてグータッチを求めてくる。

僕はそれに応じると車は家の駐車場から発進していくのであった。


両親が家を出てから数時間が経過するともうすぐ正午だった。

「もうすぐ実家に着くから。雪見は大丈夫?」

母親からのメッセージに応じるともう一通、別の人から通知が届く。

「今日は暇?」

その相手はもちろんさらりで僕はそれに返事をする。

「じゃあ遊ぼ?今、駅前のカフェで宿題やっているんだけど…」

その通知に返事をすると着替えを済ませて足早にカフェに向かうのであった。


さらりは静かなカファで優雅に宿題に取り掛かっていた。

「おまたせ」

対面の席に腰掛けると教科書とノートを広げた。

「カフェラテ頼んでおいたよ。もうすぐ来ると思う」

「ありがとう。後でお金払うよ」

「大丈夫。今日誘ったのは私だから」

「関係ある?ちゃんと払っておきたいんだけど…」

「私に借りは作りたくない?」

「そういうわけじゃないけど」

「じゃあ次回なにか奢ってよ」

それに頷いた所で丁度カフェラテが運ばれてきて僕らは涼みながら夏休みの宿題を進めていくのであった。


「スーパー寄って帰るね」

帰り際にさらりにそう言うと彼女は首を傾げる。

「スーパー?なんで?両親に買い物を頼まれているとか?」

「あぁ…言ってなかったけど夏休みの間、両親が家にいないんだ」

「どうして?」

「実家に帰省してて…僕も行くはずだったんだけど…さらりちゃんと過ごしたかったから強引に断ったんだ」

「じゃあ今は家で一人なの?」

それに頷くとさらりは僕に問いかける。

「料理作りに行っても良い?」

「え…?いいの?」

「いいよ。うちも両親は仕事が忙しいからあまり家にいないし」

「そうなんだ…じゃあどうせ一人同士なら一緒にいようか」

「うん。お願い」

さらりの言葉に頷くと僕らは二人揃ってスーパーに向かう。

買い物を済ませると初めて恋人との夜を過ごすことになるのであった。

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