第2話夏休み目前

月曜日に登校すると彼女はいつもの地味なモブメガネに戻っていた。

「今日はコンタクトじゃないの?」

こんな質問をすれば、あっちのほうが可愛かったと言っているようなものなのだが言わずにはいられなかった。

「うん。学校であんまり目立ちたくないから」

「そうなんだね。確かにさらりちゃんの可愛さがバレたら凄いアタックされそうだし」

「そう言ってくれてありがとうね。あの姿は雪見くんにしか見せたくないの」

「そっか…」

僕は思わず言葉に詰まるが彼女からの嬉しい言葉に胸を高鳴らせていた。

「今日の放課後は空いてる?」

さらりからの質問に僕はひとつ頷く。

見た目が変わっただけでこんなにも気安い態度で接することが出来る自分を少しだけ恥じた。

「じゃあデートしよ?」

「わかった」

放課後の約束をすると僕らは揃ってクラスに入室する。

チャイムが鳴ると生徒は各々の席に着席した。

すぐにクラスを訪れた担任教師は適当に出席確認をすると今週末からやってくる夏休みの注意事項を軽く話す。

「では我が校の健全な学生として夏休みを過ごすように」

話が終わると僕らは一限目の授業の準備に取り掛かるのであった。


放課後。

僕とさらりは揃ってクラスを出るとそのまま街に向かう。

「何しようか?」

彼女に問いかけるとさらりは少しの逡巡の末にカラオケ屋を指さした。

「カラオケ行ってみたい」

「行ってみたい?行ったことないの?」

「ない。普段行くのは書店ばかりだから」

「じゃあ今日も書店のほうが良いんじゃない?」

「うんん。雪見くんとなら初めてのことも楽しいと思うから」

彼女からの嬉しい言葉を受けると僕は微笑んで頷く。

「じゃあ行こ」

そのまま僕らはカラオケ屋に入店すると受付に向かう。

部屋に案内されると少しの恥ずかしさを感じながら各々が好みの曲を歌うのであった。


「楽しかった。夏休み中も行きたいな」

カラオケ屋を後にしたさらりは僕に笑顔を向けてくる。

「また行こうね。でも次は違うところも行こうよ」

「もちろん。次は外が良いな」

「じゃあ…海とか川は?」

「それも良いな。当て所もなく遠くまで行くのも良い」

「無計画に?」

「そう。擬似的な旅みたいな」

「良いね。夏休みが楽しみだよ」

「そうだね」

僕らは駅で別れると各々の帰路に就く。

帰宅してすぐに母親は僕に衝撃的なことを言う。

「夏休みの間、実家に帰るよ」

その言葉を耳にして僕は必死で首を左右に振った。

「無理。僕は帰らない」

「なんで?」

「こっちでやることあるから」

「あんたバイトとかしてないじゃない」

「彼女と過ごすんだよ」

「彼女出来たの?」

それに頷くと母親は困った様な表情を浮かべる。

「でもお父さん楽しみにしてたからなぁ〜…」

「二人で帰ればいいじゃん」

「一人で生活できないでしょ?」

「お金だけ置いて行ってくれたらどうにか出来る」

「心配ねぇ…」

母親は困り果てた表情を浮かべると少しだけ思考しているようだった。

「本当に一人で大丈夫?」

「もちろん」

「じゃあ…もう高校二年生だもんね。親と過ごす方が珍しいか」

それに適当に頷くと母親はリビングに戻っていく。

「後でお父さんにも言っておくから」

「わかった」

僕は自室に戻ると着替えを済ませてベッドで横になるのであった。


ちなみに夏休みの間、僕は自宅で一人になることが決定したのであった。

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