陰キャな無職最強の俺の困ったこと

 レベルカンストで俺だけいつの間にか最強になっていたがどうも俺は気弱だと言われる。戦いはなんとかなるのに、人間関係で考えすぎて、しゃべれなくなる陰キャで、32歳の無職のおっさんだから。


 妹以外は俺を誰も好きになってくれない。自分がゴミだってわかっているがなんとか戦いだけで生きてる。それじゃあまずいのに。俺はそれでも、今日も戦いしかできない。


 この奈落のダンジョンはラストダンジョンと言われて、日本で俺以外が絶対に入って来ない。今最下層の141階の半径25キロの群竜のフロアに俺は転移した。


 そこは全面マグマ。人の生きられない地獄で、巨大なドラゴンがゴロゴロいる。火とか、雷とか、闇とかドラゴン同士で蟲毒となって戦っている。強いドラゴンだけがこの奈落の最終の群竜のフロアで生き残れる。


 この間、日本で唯一のSランクの後藤サトシがこのダンジョンに挑戦するって言ってた。


 たくさんのきれいな女の子をはべらして記者会見でテレビで言っていたが、翌日にダンジョンの1F入り口で焼き殺された。


 俺は止めたかったけど。いざというときにSランクがいないと怖いから。ただ、陰キャで一般人の俺がSランクさまに対してなにか言えないし。テレビに出るとか絶対イヤだし。


 そこで俺は200メートルのドラゴン一匹と対峙。


 ごおおおぉと飛んで、対龍刀朱雀アカネで切り裂いた。


 体を振りながら俺に向かって闇のブレスを吐いた瞬間に飛んで、頭上から斜め80度で思い切り愛刀を振るう。


「ぎゃぁああああああ」


 一閃ッ!


 うぅ。強くなりすぎてしまった。なんてあっけなくて倒せちゃうんだ。ドラゴン。


 こんなに簡単で、売ると素材だけで2憶円稼げちゃうから、俺は社会不適合者になっちゃったんだ。レベルカンストだけで勝手に強くなっちゃったが、自分が強いって勘違いしたくないよ。感覚が麻痺しそう。


 俺はため息つきながらドラゴンの死体をアイテムボックスに入れて、家に転移で帰った。アイテムボックスは俺だけが使える。奈落のダンジョンの無限蜘蛛沸きフロアで、1万匹以上地獄蜘蛛を狩っていたらドロップした。


 アイテムボックスを持っていると言えば、世界に俺だけだからそれだけで億万長者になれて有名人になれるが、俺は陰キャだから絶対にそれを知られたくない。


 俺みたいに性格の暗いレベルカンストだけで強いヤツが有名になってしまったら、すごい嫌われそうだし。


 そして、転移も世界で俺しか使えない魔法だ。


 俺がまだ学生だった頃、当時の仲間の勇者にこの奈落のダンジョンに突き落とされ、ラスボスを倒したら、なぜか手に入った。


 勇者はその後奈落のダンジョンの2Fに行こうとして焼き殺された。


 日本には悪いことしたと思った。勇者が死んだらいざというときに日本守ってくれる義務のヤツいなくなるし。


 ラスボス討伐はびっくりするほど簡単だった。ただ、勘違いしそうになって自分が怖くなった。


 俺はためいきをはあとつく。また、今日もむなしい。


 俺は無職のおっさんで陰キャだ。ダンジョンと配信が隆盛のこの世界において、実家暮らしで、外に出るときはいつも夜中でコソコソ出歩いてる。


 実家暮らしで引きこもっている陰キャで無職な俺が、夜中にお腹が減ってコンビニ弁当を買って帰ると、妹が夜中なのに声を掛けて来た。


 妹はきれいな黒髪のストレートヘアで、目は潤んでいるように見えてやたらとかわいい。体形は普通だけど小さくて、俺だけを信じていて、俺以外の人の意見は耳に傾けないくらい俺を好きなんだ。


 もっと視野を広く持って欲しいのに。大人になって欲しいと思う。


 俺みたいな陰キャでレベルカンストしただけの中身のないクズに夢中になったら、妹の人生が滅茶苦茶に壊れちゃうよ。絶対に俺なんか好きになっちゃダメなんだ。


 ああ。今日も夜中なのに起き出して来て、俺なんかをかまってくれるよ。


「お兄ちゃん。またコンビニでお弁当買って来て。私が料理作るからコンビニでお弁当なんて買わないでいいんだよ?」


「いや、夜中にちょっと腹減っただけだから」


「夜中でもいいの。私はお兄ちゃんのお嫁さんなりたいから」


 うわ。なんで目の前に来るんだ。兄妹なんだから。そんなに近づかないで欲しい。潤んだ目で見つめられても結婚はできないぞ。


 冷静にならないと。俺は陰キャだからすぐに気持ちが揺らぐ。


「ユウコ。お前、いい歳なんだから俺なんかに夢中にならずに早く彼氏作れよ」


「だめなの。私のはじめての人はお兄ちゃんなの」


 距離が近いよユウコ。俺が離れようとしているのにぐいぐい来るな。ユウコ。なんとかカッコイイ感じで大人の返事をしないと。好かれ過ぎたくないけど、嫌われたくない。


「は、はいはい。お、俺はもう弁当食って、ね、寝るぞ」


「お兄ちゃん。私は真剣にそう思ってる。本気なの」


 やばい。はあ。俺は慌てて部屋に戻って、コンビニ弁当をもそもそ食べた。ああ。コンビニ弁当冷えてて美味しい。夏場は冷えたコンビニ弁当だよな。


 そして、また、はあ。


 なんで俺なんかがそんなに好きなんだか。


 巷では若い冒険者がスライム狩りをしてダンジョンとギルドを往復して頑張っている。そういうヤツを好きになればいいのに。


 なんか頑張ってるヤツに引け目感じちゃうんだよな。俺32歳で努力してこなかったし。


 日本にはDIダンジョン成立32年から市役所に冒険者ギルドが併設されるようになった。そこで、若い冒険者がすごく頑張ってる。


 だが、無職の俺はギルドに通わない。なにか申し訳ない。


 なぜなら外に出ると引きこもりだと近所の人間には思われているから、妙な噂をされて、陰口を叩かれたくないから、夜中にコンビニに行って食べ物とか買ってる。


 今日はお金が尽きたから、ATMでお金を補給しようと思って、夜中の2時にコンビニへと向かった。背中を丸めて、なるべく人に見つからないように歩きでコソコソ。


 母さんや父さんにはなんでもいいから早く就職しなさいと言われるが、俺は就職できない。俺は社会府適合者で人と一緒に働いたりするほど器用じゃないからだ。


「いらっしゃいませ~♪」


 夜中にコンビニに行くと歌うように接客する20歳くらいのカワイイ女の店員がコンビニにいた。この店員は32歳の俺に惚れてるといいなと思う。


 なぜなら、いつも弁当を買って行く俺に笑顔でニコリと歌いながら接客するからだ。この間はレシートを渡すときに、俺の手をぎゅっと握った。やわらかくて、きれいな手だった。ほんとに俺に惚れてるといいな。妄想だけど。


 そこから俺はコンビニのATMに向かった。


 カードを差し込む。


 残金。86億9252円。


 俺はため息をついた。


 俺は無職なのに金持ち過ぎる。金があり過ぎて有名になると、悪いヤツにだまし取られそうだし、俺は陰キャだから自分が金持ちって妹以外に怖くて言えない。


 だから、女の人にモテないんだ。妹しか俺を愛してくれない。21歳の妹は大学生だが、まだ、俺と一緒にたまに寝る。怖がりの妹はときどき、幽霊が出そうで夜が一人で眠れないときがあるんだ。


 俺はひそかにそんなこわがりの妹を妹が結婚するまで守りたいと思ってる。妹は女子短大に通っている。合コンとかは怖いから嫌という。


 そして、ことある事に「私、お兄ちゃん以外と結婚するつもりないの」と言う。


 かわいい妹の将来が心配でならない。早く結婚して欲しい。もしも、日本で兄妹が結婚できる法律だったら、俺は妹と結婚してあげただろう。


 人に好きになってもらうのってすごくうれしいから。その気持ちだけはうれしい。ただ、兄妹だから。


 こんな32歳童貞のおっさんの俺に夢中な妹がかわいそう過ぎる。


 俺はためいきをまたついた。


 俺は無職で冒険者にもなっていないが、たまに奈落のダンジョンに行って、ドラゴンを狩っているのでお金はなんとかなってるけど、実家で無職で肩身が狭い。


 ただ、一人暮らしじゃ生きて行けないし、妹が心配だから実家で暮らしている。


 俺は金持ち過ぎて、社会に出て働く勇気がない。強くて、努力もしないのに、俺は最強過ぎて困ってる。強すぎてやばいんだ。


 絶対に目立ちたくないし、なんとか社会の端で生きて行きたい。


 それから家でパソでイギリスのオークションサイトにインして、ドラゴンの競売を依頼。ダンジョン素材の売買はイギリスが一番高い。ただし、ナイトの称号を持っていないとオークションに参加できない。


 俺はイギリスの女王にナイトの称号をもらった。昔、イギリスを救ったことがあるからだ。俺がイギリスを救ったことがあるという事実は、女王と俺だけの秘密だ。俺は陰キャだから目立ちたくない。


 だからナイトの称号だけもらった。


 さて、明日には宅配業者がやって来て、明後日には2億円が手に入る。


 なんて俺はがんばれないヤツなんだ。


 それだから、俺は32歳になるまで無職で童貞で、陰キャで生きて来てしまったよ。陰キャで最強すぎる俺は妹しか愛されない。孤独すぎる。妹は俺と結婚するための計画を練っているが、そんなことは不可能だ。


 妹の人生のためにも。ただ、妹が結婚したら俺ひとりになっちゃう。


 俺の人生は真っ暗だ。コンビニの女の子、俺と結婚してくれないかなぁ? ダメだよな。陰キャな俺なんて。


 俺は人生に絶望した。


 明日からも人から愛される余地もないこのなんの未来もない人生が続いて行くんだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る