テスト

伊藤隆起はダンジョンと配信のある日本に住む、ハーレム願望の妄想も抱いたりする、どこにでもいるちょっとエッチな個人配信を趣味にする普通の陰キャだ。


エモっていつか自分が女の子にきゃーきゃー言われてモテモテになる妄想をよくする。妄想の中では女の子は、なぜか自分のダサい容姿にキラキラ夢中になり、自分が歩いていると近寄って来て、エッチな誘いとか平気でしてくるんだ。


「きゃーーー。伊藤くんよ♥」「素敵っ。エッチしましょうよ」「LIME交換しない? 私の胸触る?」「伊藤くんは私のものよ」


ただ、隆起は片親でマザコンで料理とか家事を仕事の忙しい母親に代わりにやる、家庭を助けるために図書館でアルバイトをしたり、ちょっとだけ家庭的でもある陰キャだったりもする。


「母さんをなんとか助けたいな。母さんだけは絶対になにがあっても幸せにしなくちゃ。今日は僕がキムチソバ作っとこう。キムチソバって簡単で美味しいんだよね。刻み海苔入れるとサイコー♪ あっ、母さんのために麦茶も作っとかなきゃ」


隆起は簡単料理をパパパっと作って、コツコツ部屋掃除を軽くやるちょっとだけできる陰キャだ。


家とかルルナと二人のときだけは明るくできても、学校では立場がないために暗くしていることしかできないどこにでもいるヒエラルキー型強制式陰キャ。それが隆起だ。


ヒエラルキー強制型陰キャの闇は深い。クラスの最低なヤツの方が実は性格の腐った陰キャなのに、ただ、ヒエラルキーが上というだけで陰キャにされコミュ障にされてしまう。性格の悪いサイテーなヤツがクラスの中心にいるから、必然、普通の性格の人間が弾かれて陰キャコミュ障になってしまう。


本当はイジメとか悪口とかをジョークに紛らせて平気でやる性格の悪いクラスの中心にいるヤツが陰キャなのに。性格の悪いヤツが上にいると、なぜか、普通のキャラの隆起が普段陰キャコミュ障になってしまう。


だからこそ、隆起は配信とダンジョン戦闘で活躍してバズりたいと思っていた。だから筋トレとまったく振り替えられない配信をコツコツ続けていた。


地味な筋トレと顧みられないゴミ配信が、いつか自分をどこまでも天元突破とモテエモで、女の子が好きになり過ぎて、どこまでも自分を求めて壊れてしまうほど求められる自分になるように。


クラスメイトの三石琴名さんだけはそんな隆起をじっと観ていてファンレターをくれる。


「・・・がんばってね。壊れてるあなたが好き。私も壊れてるから・・・いつかあなたを支配してあげる・・・・」


三石さんはジョークで変なことを言う。本気かどうかわからない異常なファンレターをたまにくれる。だが、普段は隆起を突き放し、クラスで隆起がボッチでいても無視して本を読んでいる。


そんな人しか隆起を注目くれる人はいなかった。


だから、どんな逆境でも利用したり逆に跳ね返すスーパーヒーローモテデレになりたかった。人の注目を集めれば冗談に紛らせて嫌われている自分を変えることができる。戦闘で活躍してヤンデレされるほどのファンができれば自分は変われる。


今日それが叶った!!!! 戦闘強敵打倒バズ!!!!






「うおおおおおおおおおおおおっ。僕はやったぉぞおおおおおおおっ」


ついに念願叶って強敵を打倒し、バズることが出来た隆起はコブシを握りしめて叫んでいた。


ただ、そんな隆起がバズることになった戦闘はシリアスで熾烈だった。Sランクの体長8メートルの凶悪モンスターが相手だ。ソイツは巨大マンモスくらいの巨大なカマキリ型で、ダンジョンに開いた大穴のせいで最下層から跳びはねて上がって来た。


隆起は当初、ルルナの配信に協力してダンジョンに来ていたが、ルルナと一緒に大穴が開いて危険があるダンジョンから逃げるために入場ゲートから逃げようとしていた。だが、初級ダンジョンは予算不足のために入口がひとつしなく、ダンジョンからすぐに脱出できない。


この戦闘で日本全土を驚かせ熱狂させて、切り抜き動画を数限りなく作られ、日本に知らない人間がいないほど有名になる隆起だったが、最初は凶悪な敵から逃げていた。それはそうだ。彼は戦闘スキルを持たない非戦闘職の一般人で、冒険者ですらなかったのだから。


非戦闘職は攻撃に関するスキルを一切持たない。攻撃スキルはその多くがそれを持つ人間の力を10倍以上にしてくれるのがほとんどだ。だから、攻撃スキルを持たない人間と持つ人間とでは赤子と成人男性ぐらいの力の差が出来てしまう。


だからこそ、攻撃スキルを持たない人間が巨大かつ強力かつ凶悪なSランクのモンスターに勝つのは不可能とされていた。だから世界で最初にスキルを持たずにSランクのモンスターを倒したのが伊藤隆起ということになる。だからこそ、世間では強烈なインパクトを持ってその情報はSNSやツイッターで切り抜きが作られ駆け巡った。


ただ、その凶悪なSランクのモンスターと戦いを、当初やっていたのは50人以上の冒険者たちだった。ダンジョンの保守に当たっていた陰陽師が、ダンジョンの底から上がって来た巨大カマキリを発見しこのダンジョン中強い冒険者をスマホで招集。50人以上の冒険者が慌ててその巨大カマキリ、ガルキマサラの討伐に当たっていた。


隆起は遠目でその戦場をカメラで映しながら、冒険者たちを気持ちの中で応援していることしかできなかった。彼は戦闘力のある冒険者ではないので。普通の一般人の動画配信者のカメラとして配信を手伝って、心の中で今、熾烈な戦いを遠くで繰り広げている冒険者たちを応援していることしかできなかった。


幼馴染でVtuberで悪役令嬢のルルナはそれを配信していて、戦場とときどきルルナを映しながら、カメラを隆起が撮っていた。


冒険者たちとカマキリとの対決はダンジョン1Fの平野部で行われた。50人強の冒険者が対決。ジリジリと戦いながら徐々に戦いは入口付近の隆起たちのいる付近でも遠くから見えるくらいに近づいていた。


黒魔導士が4人集団デバフ重力魔法「グラビティ」でヤツの巨大な重量を増加。羽根を持ち跳びまわるカマキリを重量を与えることによって羽根を使えなくしている。ただ、それでもヤツは強力で強靭な足でそれを無視してはね跳びまわる。


重力魔法もヤツの跳躍までは止められない状態だ。


100メートルほど離れて遠くで見ると、跳びはねる悪趣味な青黒いカマキリの人形に群がる多量のノミの集団のよう見えるが、大変な戦いだ。


それをカメラで捕えながら、今、ルルナをカメラで隆起が撮らえた。女子高生らしいクリーム色の髪がかわいい身長165センチの大きな垂れたオレンジ色の目の女の子が、カメラの中ではアニメの釣り目の悪役令嬢として映る。


そのちょっとだけ小さい女の子を隆起は絶対に今、弱い最弱な自分でも必ず守ろうと思っている。ルルナは隆起の幼馴染でVtuberをやっている。昔から思い遣りがあり非戦闘職で妙な職業で弱くイジメられていた隆起をかばってくれた大切な幼馴染だからだ。


今、ルルナは少し気丈に無理してふるまいながら、画面上ではアニメのキャラである悪役令嬢を演じていて、ファンに対して訴えかけている。密かにちょっとだけ震えているのがなおさらルルナを守ると隆起に思わせる。


「危険なモンスと今、冒険者さんたちが戦ってるわ。でも、ヒーラーは数いるから大丈夫だと思う。私たちは弱いし、遠くからしか見守ってるしかできないけど。イジメッ子のモンスを倒して冒険者さんたちにがんばってる。たぶん画面だと怖さは伝わらないと思うけど、みんな、見守っててね。がんばってる冒険者さんたちに文句言ったらファンでもお仕置きよ~♪♪♪」


隆起は戦いをカメラで捉えながら、攻撃スキルもなく強くない自分に少しだけ苛立っていた。


(ちょっとヤバいなぁ。うーーん・・・くっそぉ。僕もアイツと戦えるくらい強くなりたいぞっ。今は叶わないけど、絶対筋トレ続けて強くなってやるッ。ただ、手ごわそうだな。今、襲われても僕死んじゃいそうだな。ただ、ルルナだけは絶対守るぞ。くそっ)


隆起は強くなるために毎日筋トレを続けていた。無駄な筋トレだ。スキル全盛の世界にあっては、筋トレは一切攻撃に役立たない。本当に筋肉は何の意味もない。攻撃スキルに目覚めた小学生に筋トレで鍛えた隆起はぶっとばされたことがある。悪ふざけでイジメをしていた小学生に隆起はぶっとばされた。


ただ、それでも少しでも戦っていざというときのために隆起は筋トレを毎日続けていた。そして、今、凶悪な敵が出て来ても、やはり観ているしか隆起はない。


隆起は遠目で多くの他の人たちと同じで、カメラであわただしく配信しながら見てたけど、巨大なカマキリのガルキマサラは顔はちいさいが、腕が大木くらいあって、生えてる刃物のような鎌から切り裂く突風を出して恐ろしい。


今遠距離を切り裂く槍のようなかまいたちがほの白い色の光を放ちながら、冒険者たちを狙って複数飛んだ。冒険者たちはかわしたが、ぐぞりとえぐれて地面がいくつも破裂する破裂音がした。


パン!パン!パン!パン!


「かまいたちは絶対に当たるな。死ぬぞっ」

「口から吐き出す瞬間に癖がある。みのがすなっ」「おうっ」「おらっ。やってやんぞっ」


冒険者たちは奮い立って戦っていたが、画面から見ても、あまりの攻撃性と凶悪さと速さにルルナのファンたちが次々にコメントを残した。隆起やルルナが見る暇もないスマホのコメント欄はものすごい勢いで流れていた。


同時視聴人数は1万3201人。ルルナの配信の最高視聴率を叩き出していた。


> ひいい。やば。

> こりゃ死ぬって。なんだよあの攻撃。凶悪っ。

> うわっ。逃げて。逃げて。冒険者さん。

> すげえええでかい敵。鎌やばいって

> やべえええええ。今の盾の人大丈夫?

・・・


冒険者たちは危険な状態だ。本当は隆起は配信をしている場合じゃないと思っていたけど、こういうときに配信をやると取れ高が騰がってルルナのためになると思って、頑張って配信していた。


今、冒険者がカマキリに殴られて、木にふっ飛ばされた。それをヒーラーが走って行って回復をして事なきを得ている。遠くでカメラで見ている隆起でも間近に迫ってくるかも知れない凶悪なモンスターに体が震えた。


カメラのズームでガルキマサラの顔を映すとすごい顔だった。狂暴なカマキリの顔に巨大な乱食い牙が生えている。肌はなにか爬虫類のようにひだひだで、黒緑で、ところどころテラテラと不気味に光っていて、やたらと巨大だ。そして昆虫なのにすこし笑っているように見えるのが不気味だ。


今、顔を突き出して体の脇でジャンプして攻撃しようとしたアタッカーの人をクビをぐりんとして突き出して食おうとした。


「詠唱 マジックシールド!!!」


慌てて魔法使いの人が魔法を使ってアタッカーの人に障壁を作った。


まだまだ同接数は騰がる。1万5000人が視聴している状態となっている。十分なプチバズだ。


> うおおお。ナイスシールド。

> ひいい。怖い顔。カメラズームやばい。

> あれで人丸のみかよ。人食いだよ。こいつ。

> なんであんなモンスターこんなところに

> 誰か助けて

> うはっ。すげえスリル

> こわこわ。ひー


ヤツはその大口を開けて、顔を冒険者に突っ込むように突き出して時に下にいる冒険者たちをムチャクチャに喰おうとする。冒険者はそれをかわしながら飛び跳ねてヤツと戦う。ステップスカイ。付与系瞬間跳躍魔法だ。付与術師の人はいそがしそうだ。


隆起は冷や汗を掻いてそれをカメラのズームで見つめていた。ヤツは今体を振って、体に今張り付ついたアタッカーを振り払って、奇妙な金属のような狂声を上げてムチャクチャに暴れまわった。


「ギョパパッ。ギョョパパッ。ギョパパパパパパッ」


ぴょんぴょんぴょんぴょん、またすごい飛び跳ね方で飛び跳ねて、なにかかまいたちみたいなものを口から周辺にバラまいた。白い閃光が周辺に空気の炸裂弾として高速に飛んで行くっ。


パゥゥウウー!!! パパパパパパッ!!!!!


冒険者たちは円形に流動フォーメーションを組んで、盾士が前に出て攻撃されそうなアタッカーを、スイッチシフトという位置の入れ替えスキルを使ってかまいたちを防御。守られた形のアタッカーが攻撃を止んだ隙を狙って下から跳躍して攻撃。魔法使いがヒーラーと一緒に後方で詠唱を唱えてアタックを掛けていた。


ビカビカッガツンガツンと、魔法と剣が甲殻を削る火花が何度も飛んだ。


「がっ、うおっ。きやがんなっ!」

「うおらああああああ。巨岩撃ツっ」「詠唱短縮 ライトブレイドーーーッ」


「クパギョパパるッーーー!!!」


「おい。やらせんなっ。シールド前っ」「くおっ。やられねえっ。スイッチシフトッ」

「俺が行くっ。俺にやらせろっ」「くたばれえええええ。電光エイミングっっ!!!」


さらにスリリングな配信に同接数が2万人を越えていた。そして、それが瞬間ごとに騰がっている。徐々にこの配信は世間でツイートされ、人が人を呼び、注目度が過熱していた。


> ひい。やばい。

> 今、ぶっとばされたぞ

> 死ぬ。まじ、死ぬって

> ちょーきちぃーー

> こえええええ。まじでけええええ。8メートル。

> うおおおおおおおおおお。盾士がんばれ。


すばやく動き回り、跳びはねたりする巨大なカマキリの前に冒険者たちは苦戦。フォーメーションを崩されがちになりながら、なんとかカマキリの表皮を削って流血を狙おうとしていた。


「うおおお」「おうらぁああ」「クソッ」「ヒールっ」「伝令ッッ。ポーション198」「しゃああああ」


だが、冒険者50人が必死になって戦ってそのせいで弱って足を半分切られて跳べなくなったところをガルキマサラにチャンスが来た。そのとき、後方で重力魔法を使い続けていた魔法使いに3人の近くにヤツががむしゃらに放ったかまいたちが向けられ、盾士がカバーに入ったが、重力魔法が途切れたせいで、ヤツが一瞬飛べるようになった。


「ギョパパッ。ギョョパパッ。ギョョパパッ」


気づくと隆起たちの前に8メートルの巨大なカマキリはべたりと下りていた。ヤツは隆起たち1000人以上の戦闘ができない弱い集団を獲物だと思って襲って来た。遠くに避難していた隆起たちをムチャクチャに食べようと襲ったんだ。


同時接続数はついに5万人を突破。まだまだ爆発的に数は増えていた。同時接続数とは配信を行っているときに、同時にそれを観ている人の数だ。5万人というのは、満員のサッカー場の収容人数ほどもある。今、隆起が撮っている配信がプロのサッカーチームを越えるほど注目を集めている形になる。


> ウソっ。

> やばいよ。こっち来るっ。

> ひえええええええええ

> うおおおおおお。逃げろおおおおおお。

> おい。俺も応援に来たぞ。がんばって生きろ

> がんばれ! 逃げろ! がんばれ! 逃げろ!

・・・


慌てて隆起は冷や汗を掻きながらカメラを近くの草むらに置いて逃げようとした。ルルナの配信はここでストップしてしまった。ただ、10万人を越えてなお増え続ける視聴者が今、同じダンジョンにいて撮影をなんとかしている人の配信に流れた。注目度は10万人を超え、20万人以上が、今隆起たちに注目をはじめていた。


ここで他の配信者の映像で隆起がはじめてリアルに画像に映った。そのとき、ルルナの手を取って隆起は逃げていた単なるモブキャラとして20万人の視聴者には思われていた。


ガルキマサラに襲われた1000人以上の人間はみんな初級のほとんど戦う能力のない人間たちでしかなかった。隆起たちも同じで哀れな逃げ惑う被害者でしかなかった。そんな哀れで弱過ぎる、なんの戦う力も持たない初級冒険者以下の伊藤隆起がこれから活躍することなんて、20万人の誰ひとり予想すらしていなかった。


ガルキマサラは顔を大きく伸ばしながら、奇声で絶叫を上げてから、隆起たちに迫る。ドドドと土煙があがる。まっすぐに突っ込んで来たために時に大木が折れて木の根が空に飛び跳ねる。1000人以上の集団は蜘蛛の子を散らすように草原中にバラバラに逃げた。


ただ、そこでルルナが隆起の手を離してどこかに走った。一人逃げ遅れて倒れている女の子を助けて立ち上がらせて助け起こそうとしたんだ。ただ、その子はパニックを起こしていて、ルルナを突き飛ばして一人で逃げて行った。ルルナは倒れてヤツの前に取り残されたんだ。しかも、そのときルルナは足をくじいて動けなくなった。


「きゃああああああ」「ルルナッーーーーっ!」


カマキリの興味がまっすぐにルルナに向いた。隆起は必死でなんとかするために戦おうとした。武器が欲しかったが、近くに武器がなくて、ルルナのVtuber配信用に持って来ていた物干し竿が転がってるのを見てまろぶようにしゃがんで手に取って走った。倒すためじゃなく、ただ、ルルナを守って注意を引き付けるためだけに武器を手に取った。


1メートル30センチの物干し竿。薄い銀色のステンレス製で両側にピンクのキャップのついた普通の物干し竿だ。直径は6センチほどしかなく、武器として手に持つには頼りなく、ほっそりと片手で掴める軽いお手頃な感触が逆に武器としての頼りなさを感じさせる。


だが、隆起にはそれしか武器がなかった。手がぶるぶる震えて仕方なかったが、恐怖に逆らうように声に出して隆起はガルキマサラを攻撃をくわえて大声で牽制する。


「ほぅ、ほらぅ。相手は僕だろぅッ~! こっちに掛かって来いっ。ルルナに寄るなっ~!」


足先に攻撃すると、ぐりんと顔を向けてヤツの興味が隆起を向く。カマキリは隆起をオモチャだと思ったようだ。少し遊びながらいたぶるように弛緩した動きで攻撃する。


「ギィーギギギョパパるぅ~~~っ」


物干し竿で牽制してカマキリのモンスから注意を引き付け隆起は必死でそこら中を飛び回った。ヤツは面白がるように隆起を狙って巨大な鎌を遊ぶように散発的に振り降ろして来る。鍛えた筋肉を駆使して隆起は素早く跳びまわりなりながら、ギリギリでヤツの攻撃をかわし続ける。


ただ、そこに逃げ遅れた男の人がいた。筋肉を駆使して隆起はそれを救うが、ピンチ!!! ルルナが倒れたまま石をヤツの顔面に向かって投げて注意を引き付けようとした。


コツン


「ぅぅ、あう、こっちよっ。私を食べなさいっ。餌が私なんだからぁあああッ」


ヤツがグリンとクビを傾けて、鎌を収めて倒れているルルナの元に向かおうとする。カマキリは小石の攻撃に怒ったわけじゃない。ただ、餌が音を立てて自分に語り掛けてきたので素直に喜んだだけだ。


「キョパパパパるーッ」


慌てて隆起は体勢を立て直して、石を拾い上げてカマキリの顔面に投げる。そして、走ってカマキリの足元を物干し竿で攻撃。何度も巨大カマキリにダメージを与えるように攻撃して、ズシンズシンとガルキマサラにダメージを与えて、ヤツを苛立たせる。


「大丈夫だからぅっ~! ルルナぅっ。なんとか逃げてっ。ほらっ。こっち来いッ。化け物ぅっ。僕が相手だッ~!」


「ぅぅう、隆起っ。隆起っ。ごめんなさいっ。私何もできなくてッ。ぅ、いた」


「キョパパパるぅう~! キィーギパるーッ。ギぅギるるうッ」


ガルキマサラはダメージを食らって妙な声を上げながら小さな少し嗜虐心をそそられたのか、オモチャで遊ぶように隆起に向かって遊ぶように鎌を落として来る!!! 何度も!何度も!何度も!何度も!!! 遊んでいたぶるように。


ただ、素早く筋肉を駆使して逃げ続ける隆起に飽きたのかヤツが一瞬クビをくるりと傾げて短く飛んだ。そして、また倒れながらなんとか引きずるように逃げてようとしているルルナの目の前にズシンと降りて、鎌を振りかざそうとした。


「きゃあぁああああ。隆起ぃ」


隆起は走って行ってカマキリの足に必死に物干し竿を振う。完全にヤツはルルナを餌だと思っている。


また隆起は上腕筋が鍛えられた筋肉で石を拾い上げて、カマキリの顔面に投げる。上腕二頭筋を鍛えた隆起の投石でゴウンとカマキリはのけぞり、怒りで隆起にまたターゲットが移った。ただ、いくら隆起が攻撃して注意を引き付けても、ルルナをすぐに標的にしようとする。


冒険者たちは遠くに離れていてそして、避難している人たちは弱くて戦えるのは隆起しかいない。10分以上そうやってものすごい速さで逃げ回りながら物干し竿を振り回していたり石を投げたりしていた。


隆起はルルナを守るためだけに物干し竿を振るって戦っていた。ものすごい勢いで投げた石が鼻の当たりに、ガルキマサラが激怒しながら顔をグリンと動かした。


「キョパパパ! キィーギパるーッ。ギぅギるるうッ」


怒りに似た粘質的な嗜虐心で弄ぶようにクビをカタカタさせながら今かまいたちを連続で口から発生させムチャクチャに小さく隆起を狙って標的を絞って何度もぶんまいて来た。冒険者たちが執拗に攻撃されて傷つけられてた攻撃だ。殺到する白い閃光ッ。


パゥゥウウー!!!! パパパパパパッ!!!!!!


隆起は高速で足を動かしながらそれをかわしたが、体を端を軽くかすめてヒヤリ。死の恐怖でビリビリ。隆起はルルナを標的にさせないために、また石を投げてガルキマサラに襲い掛かったが、甲殻は固く、物干し竿がついに半分ほど半ばでへしゃげて折れた。


ささくれだった60センチほどの頼りない半ばで折れた銀色のステンレスの棒。それだけしか隆起の武器をなかった。


ただそこでやっと冒険者たちが追い付いて来た。


ただそれでも折れた武器で無我夢中で、必死にルルナを守るために牽制しながら隆起は鍛えられた筋肉で石を投げ、攻撃を繰り返す。自分が攻撃を止めればルルナが死ぬと隆起は思っていた。やっと追いついて来たボロボロになった冒険者たちが牽制のために手伝ってくれたが、冒険者たちは走って疲れ切っていて動きが鈍い。


絶対コイツを自分が倒すっ。隆起はそのときそう思ったんだ。


「キィーギぅギョパパるッ。ギョパパっ」


そのとき、チャンスが来た!!! 今まで遊んでいたカマキリが目に石がぶち当たったとき、怒ってグリンと顔を本格的に隆起に向けて思い切り鎌を振りかざして来た。そこで前に隆起は出た。ルルナを守るために必死に。ビリビリ恐怖。鎌がヤツが振りかざして戻ったタイミングで、ジャンプっ! ヤツの鎌が戻る勢いで肩に飛び乗った。


(絶対倒す。 絶対倒す。 死んでもルルナを守るッ!!!)


隆起はガルキマサラの肩に取り付いたまま、顔面狙いで思い切り何度も折れた物干し竿で攻撃した。傷だらけの冒険者の人たちが、何度も何度も顔を向けて隆起を喰おうとするカマキリから攻撃牽制してくれたのもサポートになった。


「無茶すんなッッ」「えええい。仕方ねえっ」「こっちだっ、おらああっ。小僧っ。獏良天っ!!!!」


何度目かの攻撃で、隆起の攻撃がおもいきり顔面にぶち当たった。しかも、目にだ。


「あああああああああああぅっ。ぶっ倒れろぉおぉお」


あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ



隆起は思い切り突き込んだ折れた物干し竿をえぐった。目から脳みそをひっかいた。


「ビぎゃるボぐがあああッッぶッッ」


ズシンとガルキマサラが地に沈んだとき、それと同時に隆起は地面に落ちた。全身の筋肉を一時に使い過ぎて気が抜けたら体が動かなくなった。マッスルオーバーヒート。ずるずると足を引きずりながらボロボロのルルナがやって来て、隆起に倒れ込むように抱き着いて来た。


「ありがとぉ。りゅうきぃ・・・。あなたのお蔭だわ・・・。大好きぃい・・・。あなたのこと・・・大好きなのぉ・・・」

「大丈夫ぅ・・・。ルルナぅ。大丈夫だから」

「うわああーーーあん。大好き・・・大好き・・・ りゅうきぃ・・・」



誰かが隆起が戦った配信していて、隆起はバズって一躍有名人になった。隆起が単なる陰キャからいい意味でも悪い意味でも人の注目を集めるようになった瞬間だ。


大勢の人間が配信していて、その瞬間を100万人以上の人間が観ていた。同時接続100万人。さらにそれだけではなく、人が人を呼び、ツイートの動画が徹底的に日本中に配られ、完全なる強敵戦闘討伐バズ!!!!


> ああああああ。倒した!!!

> 倒した!!! 倒した!!!!

> すげえええええええええええええ

> あああああああああああああああああああああああああああああああ

> かっけーーーーーー!!!!

> すげえ! すげえ! すげえ!

> 私、この人のこと好きです・・・好きです

> 感動した!感動した!感動した!

> 女の子死ぬ気で守った

> うおおおおおおおおおおおおおお。燃えたああああああああ。

> 俺はコイツのファンになる。絶対。


そこまではよかったんだ。



ただ、病院に搬送された隆起の元になぜか、2000万の借金の明細書が手元にあった。


傷はすでに治っていたが、戦いの中で頭を打っていないか検査された、翌日の病院のベットの上で呆然と隆起はその明細を見ていた。なにが起こったか分からなかった。病室にはテレビがあったが有料で貧乏な隆起は使えなかった。


そこで、スマホでなにがあったか、調べてみると伊藤隆起。ダンジョンに大穴を開けた男となにか検索キーワードで引っかかって来た。


(・・・なんだ? これ。僕がひどいこと扱いになってるっ。冗談じゃないよっ)


隆起の全力の戦いには多大なる隆起を支えるファンが出来たが、同時にそれを越えるほどのアンチが出来ていた。そして、それはありもしない流言によって致命的に酷いことになっていた。


そこで1番ランキングの上にある動画を開いて見る。すると、ブジテレビのワイドショウで叫ぶ気持ちの悪いV字の髪をした太った黒縁眼鏡の男の動画が流れた。


その男を隆起は知っていた。47歳の冬元安清という今人気絶頂で国民的人気アイドルである道玄坂48を育てて昔のアイドルと結婚してアイドルハーレムを芸能界で作って好き放題にしている男だった。


冬元安清はニヤニヤしながら下品に笑ってからテレビの画面の向こうに断言するように言っていた。


「ははは。みなさん! 実は私はある筋から動画をいただきまして。それを公開したいのです。内容はダンジョンで凶悪な敵を倒し、今切り抜きが出回り、話題になっている高校生がダンジョンに大穴を開けたときの映像です。なんと彼は自分でダンジョンに大穴を開け凶悪な敵を呼び寄せてから、たくさんの冒険者ががんばって倒しかけていた敵を、最後にボロボロになったところだけで倒して勇者の振りをしているんです。だから私は言いたい。彼に大穴を開けた責任を取らせましょう。それは多いなる社会正義です」


(なんで僕がダンジョンの穴なんて。冗談じゃないよっ)


隆起は混乱したが、手元にある2000万円の府中市から送られてきた請求書の意味を知った。ダンジョンの経営は通常は市が行い、そのメンテはダンジョンばふゅーむ♪として、市が税金で賄っている。だが、個人的な過失があった場合、ばふゅーむ♪は適応されず、個人賠償になってしまうのだ。


その個人賠償がなぜか隆起に降りて来ていた。


そして、スマホを弄ると、なぜか飛びながら上空から巨大な攻撃スキル「覇王流源斬」を放ちながら、笑いながらダンジョンを破壊している隆起の姿があった。


(なんで僕が、僕はスキルが使えない図書館栄養士なのにっ。む、むかつく。こんな映像誰が作ったんだよ。完全な冤罪だよ。せっかくバズしてファンも出来てこれからだっていうのに。くそっ。僕は必死でルルナを守って戦っただけだぞっ)


ネットでは隆起がすごい勢いで攻撃されていた。


> すげえ最悪。コイツ。全然苦労もしないで凶悪Sクラスモンス倒して一人でイキがって

> こいつさ。過去配信で不況をみんなでバカ騒ぎしながら力をあわせて覆そうとか言ってたぜ?

> うわっ。うさんくさ

> 偽善者だよ。偽善者。

> さいあくー。

> だらだら雑談しながらでも世界ジョークで治せるんじゃないかとか言ってたぜ?

> 嘘ばっか

> なにもやらないヤツがそういうこというんだよ

> しまいには人の手柄奪って、一人だけ勇者気取りだよ

> 最悪偽勇者

> こいつ、絶対いじめられっこだぜ?

> 死んじゃえばいいのに

> 死んじゃえ

> 死んじゃえ


確かに隆起はネットで発言していた。


自分が思った素朴な誰でも考えつく配信に対するちょっとした意見だ。それを隆起は言い続けていたが、それまではコメントは一切つかなかった。


それが炎上した途端、最悪に悪く捉えられ爆発していた。


隆起は個人としてカルト的に配信崇拝していて、配信の可能性を絶対神と崇めるたった一人の信仰、配信ゼウス信者だった。


配信にはすごい可能性がある。冗談でみんなで配信でわいわい雑談でいろいろなアイディアを出して、それをほんとにみんなの力をあわせて作れればいいのにと隆起は思っていたから。人間はマジメに色々考えると、面白い発想も素晴らしい発想も出て来ない。ほんとはみんな素晴らしい発想を持ってるのに。


ブレインストーミングというのを高校で習ったとき、隆起は感動していた。集団で自由に発想をやり取りすることで、色々なアイディアが次々に出て来て、ひとりではできない色々な素晴らしい発想ができること。だからこそ、配信がある世界だからただ、一人人気配信者になってちやほやされるんじゃなく、みんなと冗談みたいにジョークを飛ばしながら、世界を変えたかった。


ただ、そんな自分の考えが今貶されている。冗談にまぎらせながら、笑いながら人に貶されている。


隆起は絶対神配信ゼウスを否定されてポロポロ泣いた。


(・・・僕は・・・配信者って、こんな・・・ちっぽけな・・・ものじゃない可能性があると思ってたんだ・・・。だから、僕は・・・働きながらでも・・・いつか、・・・ジョークで・・・心の通う・・・世界を良くすることを・・・考えられる・・・少数の人たちを集めて・・・それで・・・ちっちゃく・・・ちっちゃく・・・世界を変えたかったのに・・・)


ネットの世界には隆起と同じ考えを持つ人はいなかった。それが隆起には悔しくて、悲しかった。隆起の信じる配信ゼウス神を否定されて、心が張り裂けそうだった。


泣いたら体から本が出た。


ポンッ


https://kakuyomu.jp/works/16817330655729828902


隆起は慌てて小さな本を涙をぬぐってポケットの中に仕舞った。


もう隆起は立ち直っていた。隆起の神ゼウスは一瞬での立ち直りの第一教義にしているケロット信仰なのだ。


(くそっ。僕は大穴を開けた犯人じゃないのに。僕は非戦闘職で、攻撃スキルなんて持ってないのに)


そう。隆起は非戦闘職の図書館栄養士だった。なぜか1日に一回勝手に本が体から出て来て、そして、世界のいや、異次元でもあらゆる書籍が閲覧できるだけの非戦闘職の図書館栄養士。だから、攻撃スキルは一切使えないのは調べればわかるはずなのに。



隆起はそこで改めて自分のことを考えて、自分がどこで間違ってしまったんだろうと、今までの自分を振り返った。


隆起は反省と腹筋をこよなく愛する配信ゼウス信者なのだ。配信ゼウス教は個人宗教。誰にも広げるつもりはない、隆起個人だけを導き救う隆起の考えた理想の宗教だった。


隆起はどこまでも素朴な陰キャだ。それは巨大な敵を倒して有名になりバズってもそれから炎上非難されても変わらない。


図書館栄養士である隆起はカイワレ宇宙ホウレンソウが好きだった。


宇宙ホンレンソウはダンジョン技術でカイワレと錬金融合されたさわやかでさっぱりとしたホウレンソウで、家で増やせる未来食品でそれを焼いて、オーク肉と炒めてバターで母さんと食べるのが隆起は好きだった。


(ホウレンソウはお浸しより焼くほうが美味しいんだよね。肉と炒めるとサイコーなんだ。母さんは和食好きだけど、僕は中華日本風の方が好きなんだよね。炒めものとかが好き♪)


隆起はたった一人の信仰配信ゼウス教をこよなく愛する。


隆起はたった一人の個人宗教を作り込んで陰キャで人に嫌われる自分を支えるために使っていた。


隆起は自分がない人間だと自分で思っている。ただ、個人的に言えば、自分とは広いどこまでも広いキャンバスであり、大勢の人の意見を取り入れた上で、徹底的にそれを生かし切って、巨大な世界最高スケールの絵を描きたい。


だから、大勢の人と知り合いになりたい。大勢の人と知り合った上で、自分の考えた配信ゼウス教のよる最高の世界を作るために大勢の知恵を使って未来を作りたい。


隆起は配信に神ザウスを観ていた。掲示板にも、チャットにもゼウス神のような可能性を観ていた。テレビでは一方的に情報が流されてそれを人が受け取って動くだけ。だけど、配信では、それこそ、1万人を越えた人から意見を集めてそれをひとつのものにできる。


例えば、1万人が配信で集まって巨万の財宝が眠るダンジョンを知恵をあわせながら攻略したらどうなるだろう? 今の冒険者はせいぜい100人のクランで動くだけだけど、5000人の冒険者が5000人の知恵のある攻略情報を集める人たちと組んだら100憶を越える財産を一度に作れるんじゃないだろうか?


例えば、ゲームを1万人が配信で集まって意見を取り交わして最高のゲームを作ったらどうなるだろう? 普通のゲームはせいぜい300人で作るくらいだけど、1万人が集まってひとつのゲームをジョークで笑いながら作ったらどんなにすごいゲームができるだろう。


あまり裕福な産まれじゃない隆起は無想していた。いや、それ以上の配信の可能性を隆起は見ていた。1万人のゲームを作ると同時に、1万人が集まって意見をより合わせて、巨万の富が眠るSランクダンジョンをドンドン攻略し、世界をドンドン幸福に動かして行けるんじゃないだろうかと。


隆起はお母さんが好きだ。だけど、障がいを持ってシングルマザーのお母さんはずっと隆起を守りながらも。逆境にいる。自分には力がない。ただ、そんな母のピンチも、ちっぽけな自分にはできないけれど、みんなの知恵をほんのちょっとずつ集めてくれれば救ってくれるんじゃないかと、小さい頃考えて、そして、だからこそ、配信者として、未来の冒険者としてどこまでもモテたかった。


それは女の人にどこまでもモテる自分を男だから隆起は想像する。地味でカッコワルイ自分がどこまでもモテる想像だ。エッチを色々して自分だけのハーレムを作る想像もする。幼馴染のルルナがいて、カッコワルイ自分でも彼女にできればと思うけど、それ以上にメチャメチャモテていっぱいの女の子とエッチしたい。


あり得ない不可能なことだけど。ただ、それ以上に隆起は人を動かせるモテる力が欲しかった。母さんを救うために。母さんを救うためには日本の景気をよくし、生活保護に対する社会保障費を増やす必要がある。だから、隆起は日本を好景気にしたかった。自分だけの信仰配信ゼウス教を支えに隆起はがんばりたい。


ただ、そんな可能性に夢を見る隆起は単なる底辺配信者だった。そんな個人的な意見を持つ隆起は、だからこそ、イケイケでブームに合わせることが出来ず、今日まで一人のファンもいない個人配信者だった。なにを言っても誰も耳を傾けない。いいことを言っても罵詈雑言で返される。そんな普通の地味な個人配信者。


例えば、自分の意見をまっすぐに言って、視聴者に誠心誠意意見を求める配信すればこんな感じだった。


> はははは。おまえ頭わるい。将来引きこもりニートになるわぜったい。

> ばーーーーか。ばーーーーーか。ばーーーーーーーーーーかwwww

> (笑)頭わるい陰キャ・ヲタクがまじめぶってんじゃねえよおお。


「いえ。僕は友達みたいにみんなで仲良く・・・」


> まじキャラはいらんし。疲れるし。俺はリーマン。遊びの時間。ジャマ。

> あほ

> あほ

> あほ。考えなし

> ばーーーか

> あほwwwwww


昨今はダンジョンが隆盛で、日本はエネルギー自律生産の観点で、初級冒険者奨励制度を敷いて、とくに初級ダンジョンでの黄わかめスライムから採れる燃焼魔石によるサイクル黄わかめスライム機関を作って、基礎的なダンジョン経済を作ってる。


ただ、エネルギー機関以外では、中国が国策として魔物素材利用大規模大規模プラント友愛CHINAを作ったせいで、貿易で、日本ビートルくらぶ規格332♪(昆虫骨格冷蔵庫)が国際シェアを奪われて車産業も韓国に奪われ、長い経済低迷、不況に陥ってる。


ダンジョン攻略は、不況のせいで魔物素材の資源開発が進まずに、大手の企業クランが三つだけ突き抜けてあるだけで、他のクランに元気がなく、底辺冒険者はかろうじて黄ワカメスライム討伐で生計を立てている状態で、冒険者は一部企業クラン以外は元気がない。


そんな中、誰もが何もしない状況が隆起には不満だった。なんとか自分がモテるようになって注目を集めたかった。隆起は片親で、隆起の母さんはダンジョン機械魔人車いすに乗っていて、生活補助ゆうゆう生涯110を受けている障がい者だったから、母さんに対する保護が打ち切られないように、隆起は動きたかった。


実際に不況の波はすぐ身近にあって、隆起の暮らす府中の家の近くにもシャッター街が目立つ。1992年から続く不況は巨大ダンジョン企業とITだけを太らせる形で、日本の6割が貧困にあえいでいる。


非戦闘職でもあり、アルバイトをしていて他の同級生と同じようにダンジョンに行く暇ができない隆起は、ダンジョンでバリバリ活躍して、府中の景気を上げるために頑張ることができずに、そんなシャッター街の様子をいつも学校帰りに配信しながら、全国の視聴者に呼びかけていた。




「みなさん。伊藤隆起です。今、僕は府中の家の近くのシャッター街を配信しています。こんな光景って、みなさんの市にも多くありませんか? なにかみんなで力をあわせて色々な独自の製品を産み出す努力が必要なんです。だから僕と一緒に色々新しいものをみんなで考えませんか?」


だが、視聴者からの反応はかんばしくなかった。


> あほ

> どこでもドバァああああああああ。おまえ、とけつぅーーーーー(笑)


> あんたモテないオタクでしょ。高校生なのに私みたいにユールーにも相手されない陰キャキモオタドウテークソガスキー。考える脳みそが欠片もないアホブサイク。あんたなんか配信するだけムダ。そのまま死んじゃえ。あんたパソでしかおっぱい見たことないでしょ? 私イケメンと昨日エッチしたわ。羨ましいでしょ。むっつりキモ高生。


隆起は、常々、配信の可能性をもっと広げて、色々な人が助け合えて楽しめる活動をしたかった。

ただ、そんな隆起の考えは、昨今のジョーク紛れに悪ふざけで楽しむ傾向にはあわず、ファンは0.


片親で少ないお年玉と使ってなんとか手に入れたイタリアで開発されたパールスライムの皮膜と、電子精霊集積機器によって作られた配信用スマホ「ティアモC2」は今は宝の持ち腐れとなっている。


だが、そんな隆起に転機が来た。隆起の活動に共感して協力してくれる幼馴染のルルナは隆起をダンジョン配信に誘ってくれたんだ。そこで奇跡的に隆起はバズることになった。ただ、それは儚い一瞬のことだった。ネットではさらにものすごい勢いで隆起が攻撃されていた。


> 死ねばいいのに。

> 自作自演やろー

> かっこつけ

> ぶさいく

> あいつさ。真面目な面して日本をよくするアイディアを配信で募集しようとかしてたぜ?

> くだらね。

> 誰も日本をよくしようなんて思ってねえよ。ばーーーーーーか

> けーーーはく

> 死んじゃえばいいのに


隆起は混乱して、そのまま呆然としていた。隆起の家は片親でしかも生活補助ゆうゆう110を受けている家庭だ。片親で障がい者でなんとか生活補助で生活している状態だ。だから、いずれ隆起は冒険者でかならず勝ち上がって母さんを一生守りたかった。


だが、2000万の借金が出来てしまった。今の隆起は図書館のアルバイトで時給820円で1日3時間と、週末に働いているだけだ。このままでは絶対に借金を返せない。


くそおおおおおおおおおおおおおお


怒りながら精密検査を終えてアパートに帰ると、イギリスの高級車の黒い8人乗りのベントレーがアパートの前に道路にデカデカと止まっていた。何事か隆起がそちらの方を見ると、後ろの座席で、足を延ばして汚くドアに足を掛けて女の人の胸を揉みながら酒を飲んでる太った男が見えた。


(おいおい。こんなところでエッチしないでよ。その女の人を僕にください)


隆起が思っていると、いきなりバヅンとドアが重く開いて、その男が後部座席から出て来た。そして、ニヤニヤと隆起を見ると、薄い黄色の高級ポロシャツ「ぼっとんキュウイ」姿で冬元は隆起の方に歩いて来る。


(あっ、冬元安清!!! こ、この人が僕に無実の罪着せた犯人だっ)


気持悪い笑みを浮かべる男だった。なにか存在的ないやらしさを感じさせるような笑いを浮かべる。それでいて、どこか軽くて、癪に障るような高い声をしている。


冬元はでぶでぶとポロシャツの腹を掻きながら、ガニマタで隆起の前に来る。そして、にちゃりと気持ち悪く笑った。


「やあ。・・・伊藤くん元気? ちょづいてる?」


「なっ?」


「ははは。単なるジョークだよ。笑いなよ。ははは。君さ。借金あるよね? 2000万。僕がお金を貸してあげるから、うちのアイドルと公開ライブでキスしなさい。わかったね?」


(む、むかつく。このおっさん。何僕に命令してるんだ? アイドルと公開ライブでキスなんかしたらメチャメチャ炎上しちゃいそうじゃないかっ)


自分を嵌めて2000万の借金を負わせて好きに使おうとする芸能人ならではの傲慢さが隆起はムカついた。冬元安清は自分の子飼いのアイドルの話題作りのために隆起を利用しようとしていた。


冬元の言うとおりにアイドルとテレビ報道がある公開ライブでキスすれば、色々な人間の嫉妬を買って炎上して、今責められているのにさらなるアンチが出来て大変なことになるのは分かり切っていた。


ただ、このとき、隆起はムカつくと同時にこれはチャンスだと思った。自分がモテデレになって、女の子とモテモテになり、はるか遠き、配信ゼウス教への楽園への道と、冒険者として勝ち上がるために。


「・・・いいですよ。アイドルとキスしましょう。なんならエッチしてもいいですよ」


隆起は笑って答えた。

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