第26話

私の彼はオタク。私もオタク。


私たちはずっと二人で、本とか読んで生きてきた。


ずっと閉じられた関係。


私たち、二人以外に他に必要な人間なんていらなかった。





ヨウジはすごく優しい。


すごく思いやりがあって、ずっと一緒の私に対してすら、考えすぎて何も言えないことがある。



ヨウジは一人で学校を休んでバイトをしていた。私たちが二人で生きられる場所を作るため。ただ、それが無駄だって、私もヨウジもわかってた。



「・・・・」



「なに? なんか考えてる? ヨウジ」



「・・・ん。なんでもない」




私たちはいずれ社会から離れてそのまま死んで行こうって話し合ってた。


だって、世の中ってつまんない。


こんな世の中で生きてる意味なんてないから。



「社会人になったら、二人で死のうね」


「うん。・・・そうだね。絶対大人にはならないよ」



彼はヨウジ。


私はセリ。


二人きりの関係。友達なんて私たちには必要ない。


ただ、二人きりで高校生まで生きて死ねばいいんだって思ってた。





でも、そこで神様が悪戯したんだ。


私たちを離ればなれにさせるためのすごい陰湿な悪戯。


私たちはバズの力を得たんだ。


それは自由にバズする力。


どんな状況でも、私たちが願えば、バズる。




「二人っきりでいいよね? バスしなくても」


ヨウジは言ったけど、私は思ったんだ。


「でも、バズし続ければ、お金が入り続けるし、そしたらずっと二人で幸せになれる。大人にならなくてもいいかも」


それは神様の与えた罠だった。




バズの力を与えられた私たちは自由に自分たちで世の中を弄った。


バズの力は自由。どんな願いでもバズに関することなら叶えられる。



「突然人がモンスターになっちゃう世界にしよう」



「えっ? でも、それ危険じゃ」



「いいの! 全部ぶっこわしちゃえっ」



私が言うとヨウジはうなずいて、そして、私たちは動画を配信した。



すると突然人がゴブリンになって、ぎゃあぎゃあ騒ぎ始めた。



世界は動転。私たちの動画に驚嘆した。




やったあ。




ヨウジは無言で、私を観た。




「・・・・」



「なに? なんか考えてる? ヨウジ」



「・・・ん。なんでもない」




次に私はダンジョンを作った。



「ダンジョンがいきなり私たちの庭に出来たら、みんなびっくりするよ」



「えっ? でも、それ危険じゃ」



「いいの! 全部ぶっこわしちゃえっ」




私が言うとヨウジはうなずいて、そして、私たちは動画を配信した。



すると突然私の家の庭にダンジョンが出来て、その動画を観ると人が喜んだ。








「・・・・」



「なに? なんか考えてる? ヨウジ」



「・・・ん。なんでもない」





私たちが動画を配信すると、その動画に色々な珍しいものが映る。



それで、私たちは人気ユーチューバーになって、お金に困らなくなった。



ダンジョンを作ったり、モンスターを作ったり、バズの力で私はなんでもした。





「学校やめようよ。ヨウジ。10憶手にはいったから二人でくらそ」



「うん。これで僕らを虐める連中とさよならできるね」



「私たちずっと一緒」



「どんなことがあっても、セリは僕が守るよ」




結局のところ、私たちは変わらなかったんだ。



私にとって、ヨウジだけが世界に必要な人で、それ以外の人はどうでもよかった。



ヨウジにとってもそれは同じで、私たちはお金持ちになっても二人で一人だった。



「ずっと一緒だよ」



「うん。死ぬまで一緒」



ただ、神様がそのとき突然現れた。


世界に向けて宣言したんだ。


「この世界をムチャクチャにしたのは、この二人だよ。全部世界をメチャクチャにして滅ぼそうとしたんだ」



ウソっ。なんで手のひらを返すの?


バズの力与えてくれて、私たちの味方だったんじゃなかったの?



神様は私たちのやったことを世界中に広めて、私たちを世界の敵にした。



確かにモンスターが発生したのは私のせい。ダンジョンがそこら中に出来たのも私のせい。



ただ、みんなつまんないって言ってたジャン。


そして、私たちを褒めたたえてた。


私たちのお蔭で世界が面白くなったって言ってた!



なのに、今更怒るなんて信じられないっ。



世界中の人たちが私たちに襲い掛かって来た。


私たちを殺すために大勢が動いてる。



そのとき、ヨウジが言った。



「この世界を壊したのはセリじゃない。僕だ!!! すべて僕がやったんだ!!!」



世界の怒りのすべてがヨウジに向かって。




「いやだぁああああああああ」



「いやだあぁああああ。助けて。助けて。ヨウジを助けてよおお」


「やだよぉおお。やだよおおおお。私を殺してぇえええ。私を殺してぇええええ」




私はメチャクチャに暴れたけど、結局、集団の力でヨウジはメチャクチャに殺された。



ずっと二人でいたかった。



世界中が全部滅んで、私とヨウジだけの世界がよかった。



私たちをイジメる世界なんて大嫌いだった。



私はたった一人生き残って、ただ、影で震えてるしかできなくなった。これからもずっと一人ぼっちだ。




後で、私はヨウジの最後の想いを知った。


スマホの動画にメッセージが残ってた。




バズなんてどうでもよかった。


笑ってる君が好きだった。


セリだけ守って、ずっと一緒に静かに暮らしたかった。僕は君だけを守るために強くなりたかった。バイトでもいいから、君だけを養いたかった。




スマホの画面の中で、ヨウジはまっすぐ私だけを観ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る