第9話 鯉には名前が書かれていない3

『川武さん、ご無沙汰してます。丸越の弟です。』


丸越はウチの屋号。マルコシと読む。

ちなみに、川武さんのとこの屋号はセンプだ。


『なんだよ、急に。なんか用か?』

相変わらずぶらっきぼうな返事だ。


『いやさ、センプさんのとこに、吉本ってお客さんいます?なんかちょっと相談されたことがあって』

この手の越後人は、下手にカマをかけても機嫌を損ねるので、いきなり切り込んでみる。


『あー、知ってるよ。で、どんなことだよ。』


『なんか預けた鯉が死んだって、言われたって言ってたよ』


『あー、あの春の200万の話だろ、死んだ。死んだから山に埋めたよ』


『で、なんか先日の九州大会によく似た鯉が出てたって言ってたよ』


『ったく、そりゃ同じ親から作った鯉だから、模様や色だって似てるだろ。なんて言ったって、姉妹なんだから。』


なんとなく、バツの悪そうな顔をしている。


『あー、あれ、姉妹なんだ。センプさん、吉本さんには俺から上手く話すから、申し訳ないけど本当のことを教えてくれよ。同じ新潟じゃろ、センプさんも変な疑いかけられて困るだろうが。』


『おめえは、とっくに東京に行ってるじゃろが!うっせえわ!』


面倒くさそうに怒り出す。


『センプさん、兄貴から俺は色々聞いてるし、オヤジの鯉の時にもこういうことあったよな?

それとも話せない何かがあるのかい?』


『ガキがうるせえんだよ! 良いか、吉本が200万で買ったと騒いどるが、結局50万しか春には払わんで、無事に生きて野池から上がったら、秋に残りの150万を払うと言ってたんだよ!


んで、この前九州のやつが来て、300万の現金でその場で払ってくれたから、死んだ写真と50万返して、諦めてもらったんだよ! だいたい、金もちゃんと払わん、魚は預かれ! ダメにしたら金は払わん、そんな条件より、その場で全額払ってくれて、持って帰ってくれるやつの方が気楽じゃろうが! 金も返した!何が悪いんじゃ!』


センプさんの言ってることもわからないことはない。あと、吉本は金を返した話はしてなかったな。


なんとなく全貌が見えてきたな。さてさてどうするかな

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