第8話 鯉には名前が書かれていない2

吉本からの依頼のために、仕方なしに、新潟に行き、仕事中の兄貴に電話をかける。


鯉の業界には、人格破綻者が多いというが、本当に滅茶苦茶だ。


『兄貴か、今新潟にいるんだけど、川武(かわたけ)さんって、相変わらず馬鹿やってるの?』


『あー、最近はおとなしかったけどな、また例のやつか?お前が商売した鯉なら、ちょっと喝を入れてやるけど、どうするよ。』


『どうもそうらしい、あー、俺は関わってないんだけど、お客さんがハメられたみたいで。

まあ良いや、これから行ってみるわ。』


『了解。まあ、お互いにちゃんとしてないから、そうなってるんだろうな…』


相変わらずというのは、この手の事件だ。


この事件のトリックはとても簡単だ。


まず、1人目のお客に高い値段で鯉を売る。

理由をつけて、その業者が預かる。

麻酔をかけて、新聞の上に横たわった写真を撮り、死んだことにする。

模様を少し整形して、2人目のお客に売る。


これは、新潟で古くからある手法だ。

なぜこのようなことになるのか?

理由は2つある。

一つ目は、錦鯉では、極上品は本当に稀にしか作ることが出来ない。だからこそ、高い値段で

取引ができるのは、数匹。それを何度も違う人に販売することで、利益を得る。つまり業者が腐っているケース。


二つめは、金払いの悪い客の鯉や、縁を切りたい相手に対してその腹いせにこのようなことを行うケース。


いずれにしても心が荒んでないと出来ない。

しかし、業者としては、金持ちから金をふんだくって何が悪いという考えの奴もいる。

いわゆる、金融義賊かぶれの奴らだ。


また、一匹の鯉に複数のオーナーが付くケースも少なくない。

わざと、複数の人間に売り、ずっと預かる方法だ。

門外不出の鯉にしか出来ない荒技だ。


最近はスマートフォンの普及でSNSや動画や写真が手軽になったこともあり、こういうことも無くなったようだ。


さてさて、ではこの業者に会いに行って真相を聞いてみるとしよう。

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