第2話 2億300万

「じゃあ、いよいよ本日のメイン、101センチの紅白、百万円から!さあ、どんどん競ってください。」


「えっ!一億? 一億円だ!一億円! 一億百万!…… 二億、二億100万。二億200、二億300万で、Sさん!お手を拝借!ヨーオ!」


上のやり取りは、有名な史上最高額の錦鯉のオークションの様子だ。

錦鯉は一山当てればでかい。良い鯉を作り、売れば儲かる。

そんな甘い匂い誘われて、鯉の仕事に手を出して、そして周りに喰われ、潰されていく。


これほどまでに、歴史も長く闇も多い世界に、素人や鯉をろくに飼った事のない人が、普通の商売の感覚で入ってきても残れない。


人は、隣の芝生は青く、簡単に整地したように見えるらしい。


俺はみんなとは違う。

実家も会社員の父が趣味でやってる兼業生産者。芸術家肌の兄貴は、最大手の生産者に雇われて世界一の1匹を作るために色々やってるらしい。


鯉を売るよりも、小金を稼ぐ堅実な仕事が好きだ。


「おー!来たか!池の掃除頼むわ!そういえばこの前、新潟で昭和三色を200万で買ったんだよ、秋まで預かってくれるって言うからつい買ってしまった!…」


この吉本という男は、東京の一等地にオフィスを持つ会社の社長だ。家の中は、豪華絢爛、たまに連れて行ってくれる飯屋は料亭かレストラン、わかりやすい成金だ。

奥様と思われる方も、ずいぶん歳が離れているようだ。


「春先なので、池の鯉の中で鱗の一部が少し赤味がかかっていますね。薬を付けて、水質改善のために濾過層を洗っておきますね。」


「頼むわ!しかし、秋に期待している昭和は新潟にいるから、ダメになったらアイツに喝を入れてやらないとな。本当に変な鯉売りつけやがって(笑)」


鯉の世界に、相場はない。基本的には言い値だ。また鯉の業界の語られない部分だが、紹介料は基本的に売り上げの二割という相場はある。この鯉の場合は、俺が紹介したものなら、紹介料の40万が入ってくる。残念ながら、俺は紹介もしてないし、お客さんが勝手に新潟で買って来たものだから、俺からしてみれば、縁もゆかりもない鯉だ。


「画像と動画を見せてもらった感じですと素敵な鯉ですので、良くなって帰ってくると良いですね!」


「そうだよー!次の品評会で勝ちたいから、無理言って分けてもらったんだから、なんとかしてよー本当に(笑)」


この鯉には、二百万円の価値はない。

ただ、二百万円で販売したという事実があり、そこに生産者の政治力を試される。

周りにどれだけ信頼されている生産者か、そして品評会で票を集められるか。


この二つで品評会での勝者が決まる。

鯉の良し悪しは二の次だ。


「バ金持ちめ…」

そう愚痴をこぼし、作業を終えて軽トラに乗り込む。




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