泳ぐ宝石

@koiya1151

第1話 小さな鯉屋さん

『錦鯉』その単語で何を思い浮かべる?


『お金持ち』『広い庭』恐らくそういったワードが頭を駆け巡るだろう。


東京に来て10年。熱帯魚屋でアルバイトをしていたが、実家が新潟のO市ということもあり、錦鯉の販売をするいわゆる『鯉屋』という仕事を一人ではじめた。


仕事の内容は簡単だ。『錦鯉をお客に売る』。仕入れ金額と売った金額で利益を出して生きていく。勿論、閑散期と繁忙期がある。

だから俺は、餌や設備の販売だけではなく、公園やお寺、公共施設、そして個人の池の管理や清掃で毎月の金を稼ぐ。


客の好みによっては、良い鯉を仕入れても売れない。売れないと下手をすれば鯉が死んでしまうこともある。そうなれば、その月の収入は何もない。そうなれば飯も食えない。


「山越くん、今月もありがとうね!お金はいつも通り、振り込みかい?」


毎月、俺が掃除をしている女子大のキャンパスの管理人は言う。


「ありがとうございます。また請求書送るんでお願いします。何かあれば呼んでください。」


作業は簡単だ。泳いでいる鯉の調子を見て、水を半分ほど減らし、池のゴミとコケを洗い流し、浄化槽の掃除をする。二、三時間もあれば終わる仕事だ。


学歴はいらない。

これで毎月3万円。年間契約で36万。

午後には、別の施設の掃除がある。


俺はこのような仕事を月に十件ほど持っている。月に30万。とりあえず、人並みの給料は入ってくるようにしてある。


帰りどこ行くー? スタバは?

そのバッグ可愛くない?


なんの不自由のない、女子大生の声が聞こえてくる。


大学生って本当に時間を無駄にしてるな。

働くか、勉強でもすりゃ良いのに。

わかりやすくコンプレックスを感じながら、

軽トラの運転席に乗り込み、午後の施設へ。


「宝くじでも当たんねーかな。」


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