重ね合わさる運命


 この世界に現れてから、存在が揺らいでいたカイネ。

 彼は自身を「ジョブ」としてその身に降ろすことで安定化した。


 アルマがやったのは、極めて特例的なジョブの処理だ。

 この処理は、俺にあるひらめきをもたらした。


「……ユウキの問題がこれで解決するかもしれない」


<<ユウキ君の問題ですか?>>


「誰だそいつは?」


「カイネは知らないよな。お前と同じような問題を抱えている人間の男の子だ」


「なるほど。そいつも自分の概念がおかしくなってるのか?」


「ああ。色んな奴らにいじくり倒されて、メチャクチャになってるんだ」


 ユウキがおかしくなった原因は……。

 最初はファウストだろうな。


 彼はファウストと同行する時、スキルを込められた武器を手渡された。

 そして第七層でその武器に乗っ取られる形で異形化した。


 ファウストが具体的に何をやったのかは不明だ。

 だが、ミラービーストと同じことを彼で試したのは間違いない。


 ダンジョンネズミをミラービーストに作り変えたのは、ニャルラトホテプだ。

 そしてニャルラトホテプは「勇者」に由来していた。


「それは?」


「……あっ」


 カイネに声をかけられて、俺は手に持った石炭・・に気付いた。

 これはアルマの一部に閉じ込めた勇者だ。 


「彼に取りいていた勇者だ。……心当たり、あるか?」


「無いといえばウソになる」


「そうか。なんとなく感じてたんだが……知り合いか?」


「そんなところだね。彼に振り向いてもらおうと頑張ったけど――」


「なるほど。ドライアドたちが言っていた言葉を思い出すな」


「ドライアドたちが?」


「なんだったか。『愛は憎しみよりも残酷』とかなんとか」


「……どうやら長く根を下ろしすぎたらしい。そこまで見透かされるとは」


 庭師は指先を交差させたまま、ピタリと手を止めた。

 中途半端なトピアリーを並べたまま、彼は舞台に腰を下ろす。


「それなら場所を変えてみるか?」


「ダンジョンへのお誘いといったところかい?」


「まぁ、そんなところかな?」


「やめておくよ。この公園には僕が必要だ。放っておけばすぐ灰に沈む」


「わかった。そうだ――」


「避難民のために花壇の一部を畑として使えるようにしておくよ」


「すまん」


「詩を教えてもらった礼だよ」


「そっか、じゃあ授業料として遠慮なく受け取っとくわ」


 俺は帰れオーラを出している庭師の前を離れ、皆のもとに帰ることにした。

 彼には少し考える時間が必要そうだからな。


<<庭師さんがもとに戻ってよかったですね!>>


「まぁ、元の姿は知らないんだけどな」


 それをいったら、ユウキの元の姿も俺は知らない。

 彼の元の姿、それを知ってるのは――


「あ、すっかり忘れてた!!」


 なんで忘れてたんだろう。

 お台場からきた連中に、彼の友だちがいるはずだ!




『うん。見回りのシフトはこれで行こうかなー』

『良いと思います。治安の維持のためにできることはしましょう』


「ようやく落ちついたとおもったら、今度は別の日常が始まる、か」


『そうですね。なかなか休ませてはくれません』


『はやく交代が来るといいんだけどねー。避難民から現地採用する?』


『戦時でもないのに、団長代理が採用をやるのは……』

『やっぱマズイかなー?』

『はい。後々になってキャリアの差が問題になりますよ』

『正式な訓練ナシで従士になっちゃうとねー』

『昇段のない非戦闘員なら問題ないですが、警備ですからね』


「色々ややこしいね。ん……ツルハシが帰ってきたね」


「おっす。ただいまです」


『おかえりなさい。庭師さんはどうでした?』


<<はい、大変うまくいきました!!>>


 あっバカ!!


 アルマが声なき大声をあげると、周囲の人たちがあたりを見回す。

 いきなり頭の中に声が流れ込んだら、いったい何事かと思うよな。


「頼むから声を小さくしてくれ。お前の声は周り全部に届いちゃうんだから」


<<は、はいぃ……>>


 テレパシーというか、精神波というか……。

 その正体はわからないが、アルマの声は頭の中に直接届く。


 聞かせたくない話もダイレクトに行くから、秘密を守るどころじゃない。

 注意しないとそのうち大変なことになりそうだ。


『おい、今のなんだ』「頭の中に直接声がしたような……」

「うまくいったとかなんとか……」


 避難民も騎士も、姿の見えない声に首をひねっている。

 声の主が俺の外骨格スーツにいるなんて知ったら、みんなたまげるぞ。


『うまくいったのはわかりました。ですが大変でしたね……』


「そのスーツを着ている限り、人の多い所には出れないんじゃないかね」


『だねー。秘密も何もあったもんじゃないもん』


「胃がいてぇ……っとそうじゃない。庭師の問題を解決した方法が、別の問題を解決することに俺は気づいたんだ。」


『別の問題ですか?』


『庭師は解決したんだから……ダンジョンか、あのユウキって子のことー?』


「そうだ。アルマがやったことを、具体的に説明すると――」



「なるほど。それでユウキって子を目覚めさせるわけだね」


「そういうことですね」


『自分をジョブとして降ろす……思いつきもしませんでした』


「これならユウキの恐れに触れることもない。何せ自分自身なわけだからな」


「しかしそれって大丈夫なのかね?」


『自分をジョブとして装備したら、性格とか技能とかどうなるんだろうねー?』


『ジョブですからね……自分が2人ぶん。2倍になるとかでしょうか?』


 たしかにそれは気になるな。

 俺と俺が合体したら、1足す1は2だ。


 2倍のジャンプ、2倍の速さ、2倍の拳。

 うーん、強くなさそう。しょせんは俺だしなぁ。


「どうなんだアルマ?」


<<その人次第だとおもいます。その人自体を降ろすわけですから>>


「つまり、何が起きるかわからんと」


『カイネさんには何も問題が起きてませんでしたか?』


「とくに妙な様子はなかったな。いつもどおり気に食わなかった」


『であれば、試してみる価値はありそうですね』


『あとは目覚めたときに備えて、ユウキの友だちを探しておく、だね?』


「あぁ。頼めるか?」


『うん、それはいいんだけどー』


「なんだ?」


『ツルハシの妖精さん。アルマに大声で叫んでもらったほうが早くない?』


「『あっ確かに!!』」


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