庭師の元へ


「……クスン。俺、もう一人の体じゃないのね」


「気色悪いこと言ってんじゃないよ」


『今の時代、不快な発言ってだけでも犯罪になるんだからねー』


「ラレースさん。2人のお気持ちで捕まりそうです」


『と、言われましても。あまり弁護のしようが……』


「そんな?!」


 最近、ラレースも俺に対する当たりがきつくない?

 気のせい?


『ツルハシは真面目にやってるときは頼れるんだけどねー』


「普段が犯罪者スレスレだからね」


「フゥン。人は生まれながらにして罪を背負ってるものですよ」


加特系カトリック的には確かにそうなんだけど―』


「ツルハシが言うと詭弁きべんにしかならないから不思議だね」


『まぁまぁ。お2人ともそのくらいに……』


「大丈夫です。いつものじゃれ合いですから」


『本当ですか?』


「えぇ。ただすべての傷が致命傷になってるだけです」


 2人とも大型のネコ科動物みたいなもんだからな。

 すべてのツッコミが俺の心臓を狙ってくる。


「さて、そろそろ地上に戻りたいところだが……第七層に寄って『シュート』のトラップを解除しないといけないな」


『そうしないと、また地獄門の前に探索者が押し寄せてきますからね』


<<では外しましょう>>


「え、ここからできるの?」


「そりゃそうだろ。この宝石の体でどうやって現地で作業するのさ」


「それもそっか。便利なもんだなぁ……」


<<ツルハシ男さんの表示枠に情報を転送しますね>>


「うん?」


 俺の前で表示枠が勝手に開く。

 すると画面にはダンジョンの階層が書かれた立体地図が表示されていた。


「ま、まさかこれって……」


<<はい、ダンジョンをモニタリングする画面です>>


 何かスゲェのきたー!!

 管理者ツールって……コトォ!?


「えー……さわっていいのぉ~? でもさわっちゃうー!」


 俺が画面に触れるとダンジョンの座標位置や情報が表示された。


 教会を探し出してその前方の地面をみると、黄色く光っている部分がある。

 おそらくこれがトラップを示す表示だな……?


 地図の黄色い部分をタッチすると、ツールチップで情報が表示された。

 そこには確かに「トラップ:シュート」と書かれていた。


 どうやらこれで間違いないらしい。


「えーと、削除っと」


 表示枠に浮き上がってきたボタンを押すと、トラップは消えた。

 これでいいんだろうか?


<<――はい、これで完了です。トラップを外しておきました>>


 わぉ。これで終わりとかスゲェな。

 現地に行かなくても修正できちゃった。


「この画面を見てダンジョンを造るのは、感覚が分からなくて難しそうだ。でも、ちょっとした修正ならこれで十分だな」


<<お気に召しました?>>


「まぁまぁかな。悪くない」


『ツルハシさんが操作して、アルマさんが実行するという感じでしょうか?』


<<はい。ツルハシさんは何も変わりありません。なので――>>


「これまでどおりモンスターに追いかけられるし、トラップで首をはねられる?」


<<です!>>


「自分で仕掛けたトラップにやられないようにしないとな」


「ツルハシのこれまでの人生がそうじゃないかね?」


『だいたい自分でいた種に襲われてるよねー』


「俺って昔っからそうなんだけど、鉛筆を頑張って研いだ日に限って自分に突き刺したりするんだよな」


『それはもはや、呪いか何かなのでは……』





 俺たちはダンジョンを出て地上に上がった。地上はいつものように鉛色の空と放射性物質が混じったガスで、俺たちを歓迎してくれた。


 いつものように若草色の缶詰――吸収缶をマスクに付ける。

 ダンジョンが作り変えられるなら、アルマには地上も面倒見てほしいものだ。


 いつかはマスク無しで息が吸えると良いんだが。


「さて、庭師に会いに行くか」


「そういえば、時間的に……あれじゃないかね?」


『あ、すっかり忘れてたねー』 


「うん……? あ、避難民か!」


『そうです。日比谷公園には、そろそろ避難民が到着した頃合いかと』


「まーたなんか問題起きてそうだな」


『ダンジョンの問題もまだ片付いていないのにねー』


「あっちはすぐに解決できそうにないですから、庭師の件を先に解決するべきです。庭師のほうは時間制限があるんで」


「ったく、アンタの周りには本当に問題しか無いね」


「ですが……これはチャンスでもあります!」


『チャンスですか?』


「避難民の問題なら、銀座の議会から金をもらえるからな!」


『そっちですか……』


「ギャングの一件ではタダ働きになったからな。その分を取り返す!」


 ふんすとマスクの下で鼻息を荒くしていると、師匠から痛い一言が飛んできた。


「場合によっちゃ、こっちが賠償することになるかもね」


『だよねー。本来の依頼は立ち退きのはずなのに、庭師はそのままだもん』


「あっ」


『日比谷公園が廃墟はいきょになっていたらどうしましょう……』


「避難民とシスターが、ドライアドを相手に争ってないといいけどね」


『それはないと思いたいですが……彼女たちは敬虔けいけんですからね』


「ラレースたちってモンスター相手にも結構柔軟に見えますけど……異例?」


『普通は「忌まわしきものを浄化する!」とかいって炎で焼き払うかなー』


「げげっ」


「冗談でも脅かし過ぎだよ。聖墳墓教会はわりかし穏健派だよ」


『そうですね。一部の宗教騎士団が苛烈なのは本当のことですが……』


『うちの子は勝手に戦争始めるほどバカじゃないけど、避難民はわかんないねー』


「……不安になってきた。急ぎましょう!」



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