おっと忘れてた


「でもツルハシ。人形なんてどこにあるんだい?」


「え、それはもちろん、人形師の人に作ってもらうとか……」


「知り合いでもいるのかい?」


「いや、心当たりはないですね」


『それじゃあ職人を探すところからだね―』


『それに人間サイズの人形となると、製作費用もかさむのでは』


「芸術の需要って、今の時代はあんまりないからねぇ」


 あまりにも無常だが、師匠の言葉は真実だ。


 いまの世界は生きるので精一杯だからな。

 モナリザよりカツ丼のほうがずっと価値がある。


 芸術品を欲しがるのは、生きるための努力が必要ない人たち。

 手から石油が出て、庭に資源が埋まってる富裕層くらいだ。


 そういう人達がいるところじゃないと、芸術家はいない。

 銀座なんかで見つけるのはまず無理だ。


 いるとしたら、ハイソな方々が集まっているお台場だったが……。

 壊滅しちゃったしなー。


「なら自作するとか?」


『ツルハシの芸術センスは壊滅的だったじゃん』


「あぁ。丸ノコを捕まえる時のアレはひどかったね」


「ぐぬぬ……」


 そういえば俺は美術の成績が壊滅的だった。

 うっかり自作とかいったが、俺にできるはずもない。


『人形……それは人型であればいいのですか?』


<<はい。人型であれば鉄製でも木製でも動かせると思います>>


「バネとかモーターがなくても良いのかい?」


<<はい、神気で補えますから>>


 うーん?

 いったいどういう原理だろう。


 あっそうか、神気で人形の人形の外側を包みこむ。

 そして神気を筋肉のかわりにして動かす感じだろうか。


「神気で人形を包み込んで、それで動かすのか?」


<<そのとおりです。精神に感応する素材だとより機敏に動けますよ>>


「精神に感応する素材……オリハルコーンみたいな?」


<<はい。素材としてはそれがベストですね>>


「オリハルコーンの人形とかいくらするんだろうね」


『ね。余裕で億いっちゃうんじゃないのー?』


 オリハルコーンは鋼よりも強度に優れている。

 しかしオリハルコーンの価値はそこにはない。


 この金属は精神感応という貴重な特性を持つ。

 加えて、黄金に似た輝きを放つという美しさだ。


 これがオリハルコーンの価値を高めているのだ。


 第十層のミノタウロスは、しれっとオリハルコーンを胸当てにしていた。

 だがあれは金塊を着ているようなもんだ。


 人間用のよろいだったら、同じ額でアダマンタイトの鎧を買ったほうがいい。


『そうですね……ツルハシさんが着ている外骨格スーツにも、オリハルコーンは使われています。相当な額の神気を――』


「……人形、人型のもの……あるね」


『うん。ありまくるねー』


「人型で、オリハルコーン製の……ちょ、まさか?!」


『ツルハシさんが着ている外骨格スーツもオリハルコンを使用していて人型です。アルマさん、これに宿ることは可能ですか?』


<<多分できます! 分霊を宿らせられるかやってみますね!>>


 そう言うとアルマの光の拍動が少し早くなった。


『えっ』


「なにそれこわい」


『あなたと合体したいってやつー?』


「何かどっかで聞いた記憶があるね」


「ちょ、おま、アルマさん!!!」


<<はい?>>


「自分を投げ出すのに、もうちょっとためらいとか持たないの?!」


<<はい。これはきっと必要なことですから>>


 アルマの光は更に早いビートを刻み、激しく輝き出す。

 何かラスボスが最後に爆発するやつみたいなんですが!?


「自分の体はもっと大事にして! イヤー!!!」


 目の前の宝石がカッと光る。

 すると、俺の体の周りが膜に包まれるような感覚がした。


 アルマが神気で俺のスーツを囲ったのか?


 俺は閃光に包まれ、何も見えなくなった。

 白亜の世界の中では、いやに触感に気が回る。

 暖かくも優しいそれは、俺を頭の先から足の爪先つまさきまで包み込んだ。


 閃光が収まると、アルマの声がさっきよりも近い場所――

 ヘルメットの中から聞こえてきた。


<<成功したみたいです!>>


「そ、そう。ヨカッタネー……」


『だ、大丈夫ですかツルハシさん!? 乗っ取られたりとかしてませんか!?』


「あー意識はあるし、俺の腕もちゃんと動く。うん。たぶん平気……か?」


『すみません。まさかいきなり実行するとは……』


「まぁ、アルマだしなぁ」


『はい……彼女の性格を忘れてました』


「いやほんとに。うまくいったからいいけどね……」


<<はい!!>>


 はいじゃないんだよなぁ?!


『なんでツルハシが人外にモテるのか、ちょっとわかった気がするかもー?』


「うん、あれだね。包容力ってやつだ。文字通りの」


「誰がうまいこと言えと!?」



 ……成り行きとはいえ大変なことになったな。


 俺は自分の外骨格スーツに、ダンジョンの主……。

 つまり、アルマを宿らせて着ることになってしまった。


 最初のアルマの提案とは完全真逆だ。

 まさかこんな事になるなんて想像できなかった。


 しかしアルマが宿ったことで、予想外のメリットも生まれた。

 彼女は異世界から持ってきたすべての人格・自我を保持している。


 つまり俺は、その知識や技能も借りることができるというわけだ。


 もっともアルマに俺の動きを任せたくはない。

 全身骨折しそうで不安しか無いもの。


 したがって、それをするのは最後の手段だろう。


「おっと、ここに来た本当の目的を忘れるところだった」


『そうでした! 私たちはアルマさんにお願い事があったんです』


<<願い事ですか? なんでしょう!>>


「地上に庭師、本名はカイネっていうやつがいる。そいつはお前の世界から来て、自分のことを忘れかけてるらしいんだ。カイネに自分のことを思い出させて、それを忘れないように出来ないか?」


<<カイネさんですか? なにか懐かしい気がする名前です>>


「知り合いか?」


<<わかりません。私の中にある誰かかも>>


 俺はラレースたちと顔を見合わせて息を吐いた。


 この数週間の出来事で、俺たちには「ある技能」が身についた。


 『これはややこしいことになりそうだ』。


 そういう気配や空気感を読み取る能力だ。

 この能力がアルマの言葉に激しく反応しているのだ。







※作者コメント※

合体……しちゃっ……たぁ!!

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