ツルハシの答え
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<<お返事は……どうでしょう?>>
アルマの願いが俺の中に染み入ってきた。
胸の奥にすっと入ってきたのは、透明感のある風のような何か。
風は彼女の真摯な願いを表しているようだ。
俺はこの風を心地良いとさえ感じる。
そこに邪悪さは一切なかった。
(悪意ゼロっていうのがまたなぁ……)
アルマの行動には、基本的に悪意はない。
ただ彼女の存在が巨大すぎて、大事なものさえ踏み潰してしまうのだ。
肩をすくめる巨人の悲しみを、地面のアリが知り得ることはない。
きっと「これ」が、今の世界で起きている問題の原因なのでは?
俺はそんな気がした。
それはさておき、返事はもう決まっている。
今ダンジョンをどうにかできるのは、俺しかいない。
なら、何を迷うことがあろうか。
「わかった……やろう」
<<ありがとうございます!>>
アルマの弾んだ心から、喜びの感情が俺に流れ込んでくる。
陽気なラッパ合わせて紙吹雪が舞ってお祭り騒ぎだ。
「そこまで喜ぶことある?」
<<もちろんです!>>
「思ったけど、ツルハシって人間以外にはやたらモテるね」
『そういえば……リッチとイエティ、あとダンジョン?』
『いっそのこと、つきあっちゃえばー?』
「サキュバスのお姉さんならお願いしたいですが、アルマは宝石っすよ」
「そこはほら、神気でうまいことしてもらう感じでー?」
「えー、できるの?」
<<人形などの
「できるんだ……」
『良かったねツルハシ』
「おめでとう」
「まって、なんでお付き合いする前提になってるの?」
<<人形以外にも、適当な死体でもできま――>>
「あ、その選択肢は消して大丈夫です」
<<あっはい>>
「話を戻そう、実際に俺はどうすればいいんだ?」
<<一番簡単な方法は、ツルハシさんを私の中に取り込む方法ですね>>
アルマさん????
クソッ、そういうパターンか!
一番ありがちなやつじゃね―か!!!
<ガチャ><リン……!>
俺の背後で
アカン、これじゃアルマが粉々に
「待て、それはマズイ! 他の方法を所望する!!!」
<<で、でしたら、もう一つの方法があります>>
「よし早く説明しろ! ラレース待て、まだ方法はあるっぽいから!」
武器を振りかぶって、アルマに振り下ろそうとするラレース。
俺はラレースの腰にしがみつき、必死に彼女を抑えた。
さすがアルマだぜ。軽率すぎる!!!
<<もう一つの方法は、ツルハシさんに管理機能を開放する方法です。>>
「管理機能……ダンジョンの管理機能ってことか?」
<<そうですね。ダンジョンの形を整えたり、モンスターや探索者を呼び寄せる宝を配置したり、そういった機能になります>>
「なるほど、俺がモンスターを置くことや宝を置くことができるようになるのか」
<<ですが、これにはちょっとした問題がありまして……>>
「問題?」
<<ツルハシさんがモンスターに襲われないように、ダンジョン管理者として設定します。これはつまり――>>
「あぁ、そういうことね……俺はもう完全にダンジョン側の存在になるわけか」
<<はい。そういうことです>>
『ツルハシ・ザ・モンスターの爆誕ってこと?』
「あまり強そうじゃないし。真っ先に狩るとしようかね」
「待って、待って、かつての仲間に対する愛はないの?」
『できるだけ苦しまないようにするのが、仲間への愛だと思います』
「ラレースまで?!」
『いちおー、セイパイとウチにも立場ってもんがあるからねー』
『ツルハシさんがモンスターにならない方法は無いんでしょうか?』
シスター組から、もっともなツッコミがきた。
ダンジョンのために、ラレースたちと決別するのはちょっとな。
彼女たちと戦うことになるのは、夢見が悪いっていうレベルじゃない。
「アルマ、それもパスだ。さすがに人間をやめる気は無いぞ」
<<そうですか。これ以外の方法となると……うーん>>
そういってアルマは考え込んでしまった。
参ったな。アルマがもちかける方法は、どれも極端すぎる。
彼女が考える方法の他にも、なにかあるはずだ。
そう、アルマが気づいてない方法が……。
『ただ単に、アルマさんにアドバイスするというのはどうでしょう。』
「そうだね。絵とか文章、模型を使って説明してやればいいんじゃないかね」
「あっ」
『それもそうだよねー。探索者の習性とかそういうのをアルマに教えてやれば良いだけじゃない?』
「そうだ、それだよ!」
「『え?』」
さて、そもそもの話をしよう。
俺がダンジョンマスターして変わるのは、この浜離宮ダンジョンだけだ。
しかし、アルマにノウハウを教えればどうなるか?
アルマは世界中のダンジョンの奥底に存在して、互いにつながっている。
ということはだ。
浜離宮のアルマにダンジョンの作り方を教える。
すると、全部のアルマにその知識が反映される。
結果、すべてダンジョンが改善されるというわけだ。
俺がこの事を伝えると、アルマは感嘆の声をあげた。
<<たしかにそのとおりですね。完全に見落としていました>>
「ただ問題は、アルマと俺たちの連絡が取れないことだ」
『そうですね。最初から連絡が取れていれば……』
「今回の件は、もっと楽になったはずだね」
<<は、はいぃぃ……>>
「そこでだ、アルマには俺たちのパーティに入ってもらう」
『アルマさんをですか?!』
「そうだ。ダンジョンを運用するなら、探索者を知らないといけない。客のことをまるで知らない店がやっていけるわけ無いだろ?」
「そりゃそうだね」
「で、探索者の事を学ぶなら、俺たちのパーティに同行するのがいいだろ?」
「確かにね。ツルハシはやたらと探索者とのトラブルに巻き込まれるから」
『なんか余計なことも学びそうだよねー。基本外道だし』
「クッ」
『ですが、アルマさんをどうやって?』
「そこはほら、アルマが最初のほうで言ってたろ?」
『……あ、人形!』
「そうだ。アルマには人形の体に乗り移ってもらうんだ。そうすればダンジョンをどうしていけば良いのか、直にアルマに教えられる」
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※作者コメント※
まさかのアルマのパーティ・イン?
しかしツルハシ、本当に人外ばっかにモテるな・・・
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