ダンジョンマスター


<<ツルハシさんなら、ダンジョンを――>>


「待った!! 作戦タイムを要求する!!」


<<は、はいっ?!>>


 俺は答えを求めるアルマを止める。

 そして相談のために、ラレースたちと輪を作った。


「何かヤバそうな話が来たぞ……」


「アレはツルハシにダンジョンを任せたいみたいだけど、どうするんだい?」


「そんな事、できるわけが……あるな」


『ですね。第十層にツルハシさんが作ったアレは、まさにダンジョンでしたよ』


「危害を加えることに関してだけ早い頭の回転、性格の悪さ、道徳心の無さ。

――うん。必要なものは全部そろっているんじゃないかね?」


『クズのロイヤルストレートフラッシュじゃん』


「ひどくない?!」


『冗談はさておき、どうしましょうか、ツルハシさん?』


「うーむ、まずは初心に戻ろう」


『――初心ですか?』


「そうだ。まず、俺とラレースが出会ったとき、何を話したか覚えているか?」


『お、センパイとツルハシのれ初めってこと?』


『そんな大したものでは……もちろん覚えてますよ』


『私たちの当初の目的は、人間が自身を神に捧げるシステム、これから人間を解放することでした』


「神への挑戦か、大きく出たねぇ」


「そこから転じて、ダンジョンを消すことが目的になったんだっけな」


『はい。ダンジョンが現れてから神が現れた。ならば、ダンジョンを消し去れば、神は消え去ると思っていました。世界は元に戻るものだと……』


「真実は俺たちが想像していたようなものとは、大分違っていたからな」


「話が確かなら、本物の『神様』なんていなかったんだろう?」


「そうなりますね。異世界からやってきた自我みたいなのが、この世界に最初からあった『神様』のガワを借りただけだった。中身はオレたちと同じだった」


 アルマの話は恐らく真実だ。庭師からも裏が取れたしな。

 この世界に本当の神様なんていなかった。


 最初から存在していないものに、自分の不幸や罪をなすり付けた。

 それだけだ。


『異世界の彼らは、形を保つためにこの世界の神と重なり合っただけです』


 ラレースは手を胸の上に置き、首を左右に振った。


『元をたどれば、選択の自由、そして責任は私たちにありました』


「そうだな。『捧げない』っていう選択肢も十分にあったはずだ」


『ですが、人は楽な道、幸せがありそうな方向へ流されてしまうものです。それが他人だけでなく、自分も犠牲にすると知っていても……』


「そうだな。耳が痛ぇわ」


『そう? むしろツルハシってドMだと思ってたけどー』

「自分でマキビシと地雷を撒いて、その上を歩いてるからね」


「なぜだ。俺はベストをくしているはずなのに……」


『それで次にツルハシさんは、ダンジョンを開拓し続けることで、事態が好転することを願ったのですが……これは甘かったですね』


「俺が開拓することでダンジョンが簡単になれば、神に自分の子供を捧げたりしなくても稼げるようになるとおもったんだが……」


「実際には、より最悪な連中、ギャングを呼び込むことになったね」


「少しはマシになると思ったんだが……俺は人間の欲を甘く見てたな」


 前よりは少しは良くなるだろう。

 そう思って色々なことをこれまでやって来た。


 ……実際にはどうだったろう。

 振り返ってみると、良くなったことはあるだろうか。


 ダンジョンネズミ、ミラービースト、ファウスト、庭師、ブッダリオン。

 敵ばっかり増えてないか?


 俺がやって来たことは、混乱と破壊、そして不必要な死をばらまいただけ。

 そんな気すらする。


『それと、神気が有限な「資源」だったことも予想外でしたね』


「……だな。俺たちは全体の量が決まっている神気を互いに奪い合っている。誰かが独り占めするとおかしくなっちまう」


「まるで前世紀にあった通貨そのものだね。実際、よく似た役割を持ってるけど」


『でも、ダンジョンがなくなるってそんなに悪いことー?』


<<とても怖いことになると思います。その……>>


 アルマはそこまで言って口ごもる。

 俺は彼女が言おうとしたであろう言葉をいだ。


「ダンジョンに神気が無いなら、人間同士で奪い合うことになる」


『そっか……もうそれしか方法がなくなっちゃうのか』


『……そしてこれは神気が存在する以前の世界で、何度も、何度でも繰り返されてきた光景でもあります。私は――』


「いや、ラレースは別に何も間違っちゃいないよ。俺と一緒に答えを探してたんだから。ダンジョンを消すかどうか、実際の答えは、2人して保留しただろ?」


『……はい、そうでしたね』


「俺はアルマにいくつか聞きたいことがあるんだが……良いか?」


<<何でしょう?>>


「神気がなくなると、モンスターがいなくなるだけか?」


<<いいえ。鉱床やフロアに置かれる財宝の維持も難しくなります>>


「本当のもぬけの空になるってことか……神気でダンジョンは何ができる?」


<<モンスターを配置したり、道具や武器といったアイテム。そして鉱石やトラップといったものを配置したりですね>>


「あれ、アイテムって使ったら消えるだろ? それって神気が消えない?」


<<アイテムや鉱石は消費しているのではなく、形を変えています。そうしたものは時間をかけて神気に還っているんです。ですが――>>


「それだけに循環を頼ることはできない。そういうことだな?」


<<はい。石や鉄が還るのは、とても時間がかかりますので>>


「神気って何にでもなれるものなのか?」


<<そうですね。神気とは……概念が氷なら、神気は水のようなものです>>


 わかるような、わからんような……。


 ま、最初から理解できるとは思ってない。

 なんせ、異世界の技術だからな。


「ダンジョンの側になるってのは参ったな……でも人間同士の争いを防ぐには、ダンジョンが消えると困る。やるしか無いのか? うーん……」


「ツルハシ、アンタ忘れてるかも知れないけど」


「はい?」


「受けようと受けまいと、人類の敵としての条件は整ってるからね。」


「……ぐぐぐ」


『ツルハシさんはダンジョンの中に住むのが、今一番安全なんですよね……』


『ダンジョンマスター・ツルハシの誕生、かなー?』


<<それで、どうでしょう!>>


「えーっと……」


 どうしよう。


 俺と同じスキルを持つ者が、いずれ各地に現れるのは間違いない。

 このスキルは壁を半年殴るだけで簡単に手に入るのだから。


 そうなれば各地でダンジョンの開拓が起きるだろう。


 そうしてダンジョンが廃墟はいきょになればどうなるか。

 人は神気を求めて同胞同士で争うことになる。


 そうなれば第三次世界大戦の再来だ。

 誰かが食い止めないと……。


 俺が……それをやるのか。






※作者コメント※

壁を半年殴るだけとか

その時点でバグってるんだよなぁ…


これを受け入れると

ツルハシは当初とは真逆の存在になる


けど、ツルハシの「芯」は

血みどろになって頂点に登るよりは

誰かを頂点に登らせること

それが自分の利益になれば良いって考えなので


芯に反するよりむしろ

ツルハシの考えにかなってそう?


さてはてどうなることやら……


●追伸

今回から校正ツールを使い始めました。

少しミスが減って読みやすくなる…かも?

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