禁断の提案


 地獄門をくぐると、俺とラレースは迷いなく橋の上に足をおいた。


 しかし師匠とバーバラさんは、どこかためらっている様子だ。

 初めて見る巨大な構造物に圧倒されているのだろうか。


「あんたら、よくこの中に入ろうって気になったね」


『こういうの、大昔のエイリアンが出てくる映画で見たかもー?』


 うん、冷静に考えればそうだよね!!

 こんな怪しすぎる場所、フツー入ろうとしないよね!!

 

「まぁ……最初は俺たちも恐る恐るでしたよ」


『はい、ですが一度入ってしまうと、マヒしてしまうものですね……』


「ツルハシはともかく、ラレースまでねぇ……」


『センパイ、こちらに戻ってくるなら今ですよ!』


「……二人とも、俺を何だと思ってるんですか」


「外道?」

『人類の敵とかー?』


「……俺のこと、叩けば良い音のする楽器くらいに思ってません?」


『割とそんな感じかもー』


「クッ!」


 そんな事を話しながら、俺たちは橋の上を進んだ。


 この橋は巨大すぎるあまり距離感がつかみにくい。

 どれくらい進んだろうか、次第に橋の向こうで鎮座しているものが見えてきた。


 ある種の神性を感じさせる、幾何学的な構造物。

 その上にあるのは、心臓が鼓動する時のように拍動して光る血色の宝石――


 アルマだ。


 その様子は、以前会った時と変わりないように見える。

 俺がツルハシで削り取った部分もそのままだ。


「あれがこのダンジョンの主かい?」


「そうです。ラレースさんみたいに叩き割ろうとしないでくださいよ?」


『……その節はご迷惑をおかけしました』


「ほんと、取り乱して大変だったんですから」


「へぇ、ラレースが取り乱すなんて珍しいね」


『ちょっと見たかったかもー』


 俺は皆から一歩、二歩、前に進み出て、アルマの前に立った。


「よっ」


<<あぁ~! ようやく来てくれたぁ~……よかった!>>


 俺の頭の中にアルマの声が響き、陽だまりのような感情が流れ込んでくる。

 よほど安心したんだろう。


「頭の中の声は……目の前のコイツがしゃべってるのかい?」


「そうです。彼か彼女かわかんないですけど、これがアルマです。」


『わ、話には聞いてたけど、宝石が喋るなんて、ファンタジーみたいだねー』


「でしょ?」


<<初めましてお久しぶりですね!>>


(――? まぁいいか。)


「ジジイから大体は聞いたよ。ダンジョンのバランスが崩れたって」


<<はい……現在の収支が続くと、あと1ヶ月ほどでこのダンジョンは廃墟になってしまうでしょう>>


「げっ!」

『……そんな早くに?!』


 ダンジョンの崩壊が思った以上に早い。

 一体どうしてこんな事に……?


「何で急激にバランスがおかしくなったんだ?」


<<主な原因は第十層のモンスターが一掃され、その分の神気が地上に持ち出された事による結果ですね。これで数億の神気が失われました。>>


「なるほど……間違いなく俺のせいだな」


「数億程度で、そこまでおかしくなるもんかね」


「え、師匠……億ですよ、億!!」


「数億の神気ならアタシだって持ち出したことがあるし、黄泉歩きだってそれくらいは稼ぐだろ?」


「あっ、そうか……ってか師匠、お金持ちっすね」


「パッと稼いだら、後はちびちび飲み代に消えるけどね」


<<はい、稼がれるだけであれば問題はありません。それはあくまでも、数字上のやり取りになるわけですから>>


『……なるほど、使われたことが問題なのですね』


「え? 俺が外骨格スーツを現金払いしたのが問題なの?」


『いえ、それは問題ではないはずです。ツルハシさんが払った神気がどう使われたのかそれが問題なのだと思います』


<<まさにその通りです!>>


 ぜんぜんわからん。

 ま、まさかこれは……俺が一番苦手とする「経済」の話なのでは?


『先ほどのリッチさんの話を総合するに、神気が「本当に使われている」状態というのは、ジョブを得て、スキルを身につけたときです』


「えーっと、俺達の体を目に見えない神気が取り囲んでるみたいな?」


『そういうことですね』


<<あなた達には表示枠がありますよね?>>


「あぁ、ここに書かれている神気って、もしかして……」


<<はい。その神気はまだダンジョンにたくわえられたままなのです>>


「なぬっ?! それってサギじゃん!!」


<<それは数字として書かれているだけですから>>


『やはりそうだったんですね……』


「似たようなものは、世界が崩壊する前の人間も作ってたね」


「え、そんなモノがあったんですか」


「あぁ、銀行っていうんだけどね?」


 ――なるほど、分かってきたぞ。


「あー……神気を稼いだっていっても、そのほとんどはジョブに使われるわけじゃない。大体は生活費や貯金になりますね」


『実際に出回っている神気はそう多くないというわけですね』


「日常で使われれば、ダンジョンに帰ってくるってことか」


 ん……そういうことなら、おかしくないか?


「じゃあ、ラフィーナで使った分は、アルマの元に帰ってきたんじゃないか?」


「ツルハシ、加工屋や職人は、誰から資材を仕入れてると思う?」


「あ、ダンジョン探索者?」


「そういうことだね。そいつらが神気を手に入れて、ジョブを上位のものにした。そうなると神気はそいつらが身につけて、ダンジョンには帰ってこなくなる」


「なるほど、それでか……そして強くなった分、ダンジョンで倒れることもなくなった。どんどん採算が取れなくなっていくわけだ」


<<はい、そこでトラップだったのです。モンスターと違って、トラップは決して倒されることはありませんでした。これまでは……>>


「俺がほとんど回収しちゃったからな……」


『やっぱりツルハシのせいじゃん?』


「面目ねぇ……」


 俺が重いため息を吐くと、それが合図になったようにアルマはきらめいた。

 そして彼女は俺に向かって、とんでもない話を持ちかけた。


<<そこで提案なのですが……ダンジョンを作ってみませんか?>>





※作者コメント※

理不尽には理不尽を。クソたわけダンジョンで一切自重せず

攻略と言う名の暴虐を尽くしてきたツルハシ男


彼にさらなる理不尽が与えられる…

いや、ダメだろ!!!

絶対やめといたほうがいいと思うなぁ…


(あれ? ダンジョンを消すって話じゃなかったっけ?

というツッコミが入ったので、次話でツルハシの目的の整理を入れます。

大変申し訳ない・・・第0稿ということでオナシャス!!)

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