神気の真実(2)


「探索者から神気を補充しているってことは……」


「お主が開拓をひたすらに頑張ったお陰で、このダンジョンは赤字経営が続いておるということじゃ。客を儲けさせる一方の賭場が長く持つと思うか?」


「うん、速攻で潰れるな」


『必ず胴元が儲かるようになってるのが、カジノの基本だもんねー』


「まぁそういうことじゃ。わかったかの?」


「――えーっと、ジジイの話をまとめるとつまり……」


 俺はこの場にいる者に向かって、以下の内容を説明した。


 神気はこの世界における通貨であり、資源だ。

 今の時代、俺たちは何かするときは神気を使っている。


 ダンジョンもそれは同じだ。

 神気を使ってモンスターを復活させたり、なんやかんやの運営をしている。


 ダンジョンのモンスターは、倒したものにいくらか神気が入るようになっているが、これは探索者を呼び寄せるためのエサだったのだ。

 

 神気を求めてやって来た探索者がモンスターにミンチにされたり、罠に引っかかって三枚おろしになると、そいつが持っていた神気の一部がダンジョンに入る。

 こうしてダンジョンは運営されているわけだ。

 

 このダンジョンがクソたわけな難易度を誇り、常時ナイトメアモードだったのは、アルマの調整不足意外にもそういう理由があったのだ。


 だが、ここで思わぬ事態が起きる。

 ダンジョンを改造するイレギュラーな存在が現れたのだ。


 ――つまり俺だ。


 俺はダンジョンの罠を無力化するどころか回収して、戦闘に向かない悪条件のダンジョンの環境をどんどん改善していった。


 結果、いまの浜離宮ダンジョンは、ひたすら探索者に有利な環境にある。

 今の浜離宮ダンジョンでは、よっぽどの素人でもない限り、探索者は死なない。


 そうなると、ダンジョンの神気は出ていく一方となるわけだ。


 つまり、浜離宮ダンジョンは赤字運営が続いてたってことだ。

 そりゃモンスターの数も減るし、異変も起きよう。


 つまり浜離宮ダンジョンは採算が会わず、倒産(?)寸前なのだ!!


「――何もかも、全て俺のせいって……コトォ?!」


『……ちょっと思い出してみたのですが』


「はい?」


『この浜離宮ダンジョンで起きた事件で、ツルハシさんのせいじゃなかったことって何かありましたっけ?』


「イヤイヤ、ダンジョンネズミは向こうが突っかかって来ただけだし、マインバッハの奴も俺が直接何かしたわけじゃないんだけどなぁ~……」


『でも配信しなかったら襲われなかったんじゃないー?』


「……それはそう」


『ツルハシ、そのうちダンジョン出禁になるんじゃない?』


「まって、それは困る!」


「まぁそこらへんのことは、ダンジョンの主と相談するのがよかろう」


「アルマとかぁ……怒ってるかな?」


『あまり怒っている姿は想像できませんが……困ってはいそうですね』


「そう気に病むな。倒産寸前になったのがお主のせいなら、首の皮一枚繋がったのも、お主のおかげじゃからのう」


「首の皮一枚? なんかしたっけ」


「ほれ、アレよ」


 ジジイはアゴでフレッシュゴーレムと血エレを指した。

 あっなるほど。


「俺がやったのは、臨時収入ってわけね……」


「ファファファ、そういうことになるのう」


「なんだか、そこまで利用し尽くされると、連中がちっと哀れだねぇ」


「そっか、不良議員はともかく、第十層までやって来たギャングたちは明らかに実力不足だったし、結構な数がダンジョンで死んでそうだな」


「ツルハシの扇動も、役に立つことがあるんだね」

『それなー』

「言葉巧みに人を死に追いやったみたいに言わないで?!」

「ちがうのかい?」

「ダンジョン探索は自己責任ですよ!」

『などと供述しておりー?』


『では、今後のダンジョンの将来も含めて、アルマさんと話すということになるのでしょうか? 庭師さんのこともありますし……』


「そうだな。そもそも浜離宮ダンジョンに来たのは、そっちが目的だからな」


「なら急ぐとよかろう。また次の連中が来ないとも限らん」


「んじゃジジイ、見張りよろしく」


「お主は人使いが荒すぎるな。アンデッドでも過労死するぞ」


「アンデッドに疲労とかないだろ?」


「それが何故か、お主と話しているときだけは感じるんじゃ」


「人だった頃の感覚を思い出させるほどの聖人ってことだな」


「聖人は死なぬとなれん。手伝ってやろうか」


『ツルハシさん、リッチさんは頑張ってくれたのですから……』


「わかってるって。いっそのこと、ホールの通路をダンジョンの壁で埋めるか?」


『ちょっと無理じゃない? あれ30メートルくらいあるよー』


「……今やることじゃないか」


 高さ30メートルとなると、階段状に積み上げないと上まで行けない。

 かなり大掛かりな建築になるから、ササッとやるという訳にはいかないな。


 いや、そもそもの話、このダンジョンはアルマが管理しているんだ。

 俺がやるより、アルマに封印してもらったほうが話が早いな。


「よし、ここはジジイたちにまかせて、地獄門に行こう」

『はい!』


 俺はジジイとイエティと別れ、地獄門に向かった。

 まさか俺の開拓がダンジョンの経営を傾けていたとは…‥。


 俺が地獄門の前に立つと、以前と同じ様に扉がゆっくりと開いていく。

 どうやらあちらも、俺に用事があるようだな。


 庭師の要求にもし何かの交換条件がつくとしたら……。

 まぁ、アルマが俺に提案することはだいたい予想がついてる。


 ダンジョンが経営危機に陥ったのは、どう考えても俺の開拓のせい。

 おそらく、開拓の逆をやれとでも言うのだろう。


 それはつまり――人類の敵になれってことだ。 




※作者コメント※

人類の敵……。

いや、君すでに条件コンプしてない?


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