神気の真実(1)


 俺はジジイが放った言葉の意味が飲み込めず、数秒フリーズした。

 ダンジョンが消えるって……何がどうしてそうなった?


「おいジジイ、どういう事か説明しろ!」


「まぁ落ち着け、今説明してやるからの」


「ジジイが何かやらかしたのか」


「ワシの人生に置ける究極の失敗は、お主と関わったことじゃな」


「ハハッ、ナイスジョーク」


『まぁまぁツルハシさん。ここはリッチさんの説明を……』


「そうだな」


 ヤバそうな話の気配を感じた俺は、配信を止めようとする。

 だが、意外な事にジジイは「そのままで良い」と言って続けさせた。


「今こうなっているのも、お主が『それ』で中途半端に情報を伝えたせいじゃろ?それはそのままが良い」


「え、それマジで言ってる?」


「今からする話は、全ての人間に関係する話じゃからの」


「えぇ? 全ての人間に関係するなら、なおさら止めたほうがいいと思うんだが」


『正確な情報を知っても、ぶっちゃけ正確さって、それを扱う人次第だからねー。おじいちゃんって、意外と理想主義者さん?』


「そうかもしれんの。ワシはまだヒトを信じておる故にな」


「ホントォ~?」


 そう言って疑念の目を向ける俺に、ジジイは青い熾火おきびともる眼窩を俺に向け、すこし笑ったような気がした。


「ま、ほんの少しじゃがな」


「うーん……ジジイがそこまで言うんなら、配信はそのままにしとくか。」


『少し不安ですが、ここはツルハシさんの選択にお任せします』


「なにか起きたら、全部ジジイのせいだな、ヨシ!」


「ほんのわずかに残っていたお主の信用が消し飛んだな」


「ナンデ!」


『逆になんで、信用が残ると思ったのかなぁ?』

「悪党としての信用は揺るぎないから、そっちと混同したんじゃないかね」

『なるほど!』


 こらそこ! 人聞きが悪いですよ!


「では、少し話をするとしよう――まず、ことの始まりはお主がダンジョンの開拓が始めた時期にさかのぼる」


「ほうほう?」


「お主がダンジョンの罠地帯やマッドマンの封印をしたことで、ダンジョンに入ってすぐ、何も倒せずに入り口で力尽きるものはいなくなったな」


「うんうん」


「そうして段々と開拓が進み、今は第七層まで進んでおったかの?」


「そっすね」


「そこでお主に聞きたいんじゃが、最近モンスターと戦った記憶はあるか?」


「……あれ?」

『そういえばウチらって、基本、敵を回避してるから会わないよねー』

「そうだね。ここにくるまでモンスターと出会ってないね」


「そこでもう一つ、神気とは何なのか?」


 何だろう。

 何か非常に嫌な予感がしてきたぞ……。


「神気はこの世界で通貨として使われておる。しかしその実態はエネルギーじゃ。この世界で概念を動かす力。それが神気じゃ」


「概念を動かす力ってああそうか、スキルの原動力も神気なんだよな」


「左様。さて、このダンジョンでも神気は使われておる。ワシらモンスターも神気を使ってアレコレしておるでな。それだけでなく――」


「ダンジョンにモンスターを生み出す循環にも神気が使われておる。そして、このメカニズムはほとんどお主らの蘇生と変わらん」


「……うっすらそんな気はしてた。ジジイは神気がこの世界で概念を動かす力っていうけど、具体的には何なんだ?」


「ふむ……誤解を恐れず言うと、命や意志の資源化というのが相応しいの。あちらの世界では生物の命の本質、意志の抽出。それが出来ていた」


「うん?」


「ちょっと待ちな。この世界にダンジョンが生まれた時、そこから出てきたモンスターには、銃を始めとした武器はもちろん、核すら通用しなかった」


「そういえば、そんな事を聞いた覚えがありますね。まさか――」


「概念そのものは、決して傷つけることは出来ない。触れ得ないものをどうやって損なうことが出来る?」


「現実におっ立って存在しているんだから、銃とか効きそうなもんだけどなぁ」


「たとえば、犬が死んだら、犬と言う概念は消えるか?」


「いや、他にも犬はいるから……クソッ、そういうことか。アルマだな?」


「お主、さすがに察しが良いな。そういうことじゃ」


『どういうことです、ツルハシさん?』


「人は死んだら消えますよね。でもそれって、世界からその人が完全に消えたって言えますか?」


『いえ、記録や覚えている人がいる限り……あっ』


「そういうこと。アルマがいる限り、概念は決して消えることがないんだ。そしてそれは異世界の技術に由来して、概念だけで実体を持っている」


「スキルは命そのものを身につける。そんなイメージなのかね?」


「うむ。そしてそれをまとってないと、一切干渉できないということじゃ」


 なるほど、神気のイメージがだんだん出来てきたぞ。


「ラレースたちがモンスターと戦えるのは、神気をもとにしたスキルを使うことで、概念を使って殴り合いをしているからだな?」


『私たちが単純に剣やハンマーを振り下ろしても、剣術や槌術といった概念が背景にある。そういうことだったんですね……』


「まぁそんな難しいことじゃないな。向こうから来たモノは、向こうから来たモノを使わないと退治できない。ただそれだけのことだろ?」


「うむ。平たくいうとそういうことじゃな」


 これについては、うーん。

 実際に出回っている情報と真実の間に大した差は無いように思えるな。


「まぁ、何となく理解したよ。今この世界で生きてる人間とモンスターは、異世界からもたらされた神気を共有してるってことだよな?」


「うむ、そういうことになるの」


「神気については大体わかった。根源的なリソース。命の通貨なんだな」


「ファファ、そのとらえ方で良いと思うぞ」


「話を戻すけど、なんで俺の開拓が、ダンジョンが消えることにつながるんだ?」


「うむ、死なないからよ」


「……は?」


「ダンジョンから失われた神気は一体どうやって補充されているのか? 神気の量は異世界から持ち込まれた総量から増えることがない」


「増えないなら、やりくりするしか……あッ!?」


「そう、お主の言うように増えないのなら、やりくりするしか無い」



「――ダンジョンに必要な神気は、ダンジョンで死んだ探索者から補充しておる」





※作者コメント※

シリアスさん<やぁ、そうなんだ、また来たよ

お昼の12:05分頃に、もう一話アップしますので、よろしくね!

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