ジジイと後片付け


 さてさて……。

 溶岩地帯を消すにはまず、この血の海地獄を越えないといけない。

 どうしたもんかなと思っていると、血の海が立ち上がって人の形を取った。


「な、なんじゃこりゃ?」


「これは……ブラッドエレメンタルだね。かなり高位のアンデッドだよ」


「げ、何でそんなもんが」


 しかし、ブラッドエレメンタルの様子がおかしい。

 こちらに襲いかかるどころか、俺たちに興味すらなさそうだ。


「うーん?」


『ツルハシさん、あれを!』


 ラレースの指の先を追うと、杖を振り回して踊っているジジイがいた。

 あー……ジジイの仕業か。


「ファファファ、難儀してそうに見えたからな。少し手を貸してやろう」


「さっすがジジイ~、話がわかる!」


 床を浸していた血は、そのほとんどがブラッドエレメンタルの体になったお陰で、ほとんど姿を消した。


 しかし、まだ床の上には大量のお肉があるな……。

 足の踏み場もないぞ。


「『これ』も何とか出来るか?」


「ふむ、動かして見るか」


「できるのか?」


「ファファ、ワシはこれでも不死者の王ぞ?」


「ホントー? これだけ損壊がひどいと、ゾンビにするには無理があるんじゃ?  下半身だけのゾンビとか見たこと無いぞ」


 死体は師匠の剣技で真っ二つになって上下が別れてる。

 パーツが半分くらい余るけど……。


「まぁ見ておれ」


 ギロチンハウスでジジイは不思議な踊りをはじめた。

 すると、床にあった肉がひくつき、蠢きくっつきだすではないか。


「いや、ちょっとこれはないわ」


『あたしたちでも、これは精神的に来るねー』


『あの、ツルハシさん……もしかしてお忘れかも知れないのですが』


「うん?」


『私とバーバラは一応その、修道騎士。シスターです。ここまで堂々とアンデッドを造られてしまうと……』


「あっ、ラレースたちってアンデッドと敵対してるんだっけ」


『一応そういう事になってます』


 やっべ。

 すっかり忘れてた。


 ラレースとバーバラさんは、特にジジイと争う気はない。

 それは俺もわかっている。


 だとしても、きっと教会の人たちはそうじゃない。

 この有様をボーッと見てると、ちょっと彼女たちの世間体的に良くないよな。


 どうしたもんかと考えていると、俺の考えをあざ笑うかのように「それ」は床に手をついて起き上がった。


 ……これをなんと形容したものか。


 複数の人間がギュッとねじられ、畳まれて、内臓や骨をグチャクチャにかき混ぜられた状態で腕や足として束ねられ、巨人の姿になっている。


 皆仲良くなっちゃってまぁ。

 人類愛を全力で間違った方向に実現した感じだな。

 オエー。


『これは、フレッシュゴーレムですね。』


「フレッシュゴーレム? 確かに出来たて新鮮だけど」


『いえ、新鮮ではなく、死肉で造られたゴーレムという意味です。フランケンシュタインの怪物のようなものですね』


 ふーん……ゴーレムかぁ。

 ってことは……。


「じゃあこれ、アンデッドじゃなくて、魔法で生まれた生物ってことになりますね。それなら教会的にセーフになりません?」


『うーん……生物の創造も禁忌なんですが』


「じゃあ道具ってことにしましょう。アレは血と肉で造られたロボットです」


『まぁ、そうとも言えますが……』


「アレはロボットだから、アンデッドではない。なのでアレを倒さなかったとしても、ラレースたちが教えに背いたことにはならない。セーフです!」


『無理矢理すぎない―?』


「まぁ待ってくださいバーバラさん。教えっていうのは、人間が生きるのを楽にするためのモノなんです。こうした解釈の余地を残しているのも、神の恩寵とか何かそんな感じのやつに違いないんですよ」


『ものすごい早口でそれっぽいこと言ってるだけだよねー?』


「ツルハシはほんと、口の回りようだけは伝説級だねぇ」


「ともかく、ジジイのおかげで通れるようになったんです。ちゃっちゃとトラップを片付けて行きましょう」


 俺は溶岩に片っ端から氷を叩き込み、溶岩を消していく。

 さすがにこの作業にも慣れてきたのか、サクサク前へ進んでいった。


「お、お前も手伝ってくれるのか?」


「ンゴゴー!」


 ジジイの作り出したゴーレムたちも手伝ってくれるようだ。


 ゴーレムたちは俺が取り出した氷ブロックを掴んだかと思うと、溶岩に投げつけて、俺が置きに行く手間を省いてくれた。ちょっとした


 見た目はエチケット袋が必須になるレベルだが、気立ては良いんだな。

 彼らの手助けのおかげで、俺は想定よりも早く作業を終えられた。


 もろもろのトラップを回収して後片付けを終えた俺は、ジジイとイエティたちに手を振った。


  何だかんだ、俺たちが来るまでココを守ってくれたのはジジイだからな。

 礼の一つくらいは言っておくか。


「よっジジイ、おつかれ」


「ずいぶん時間がかかったもんじゃのぅ……」


「まぁ、色々あってな。でも守り切れたから良いじゃん?」


「うむ……確かに守りきれはした。じゃが、ちと問題があってな」


「問題? 何かあったのか?」


「全てをひっくり返す大問題じゃな。ダンジョンが消えるかもしれん」


「……はい?」






※作者コメント※

なぜかゴーレムの鳴き声で

某なろう作家を思い浮かべてしまったンゴ。

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