正々堂々、邪道を進む


 俺が投げつけた爆弾は盾の上に「ゴン!」という野太い音を立てて着地すると、金属板の上をゴロゴロと転がって、次の瞬間にボンッと弾けた。


<ズドォォンッ!!!>


 轟音がダンジョンに響くと、キャタピラ代わりにされていた盾が爆風で吹き飛ばされ、何人かの不運な探索者が、溶岩の中に落ちていく。

 直後、短い絶叫がして、命だったものが炎に染まりながら沈んでいった。


 自分でやっといて何だけど、クッソエグイな。

 ちょっとトラウマになりそう。


「のわー!」「盾が―!!」「何をする!」

「人の心がないのか貴様!!!」


「うっさいわ!! おかわりを喰らえ!!!」


「や、やめろ、うぉぉー!!!」


 俺はふたつ目の爆弾を、連中の足元に向かって投げつける。

 すると、盾の橋を守ろうとした探索者が、爆弾の上に覆いかぶさった。


 え、まって、それは――


<ボチューンッ!!!>


「OH……」


 もう……何ていうか、大変なことが起きた。


 真っ赤なピニャータを、メジャーリーガーが渾身のフルスイングで叩きのめした、そんな光景が俺の前に広がった。


 これは……しばらく肉は食えそうにないな。


『うわぁ……さすがの私でもひくわー』

『文字通り決死の戦いですね』

「それをくじこうとするツルハシは魔王かね? 悪逆非道勲章を授与しないとね」

「待って、そんなに?」


「センジュアスラどの!」

「このままでは、全滅してしまいます!」

「やむを得ん……辻説法を開始する!」

「ハッ!!」

 

 盾の上で動きがあった。

 坊主が二人がかりで機関銃を構えて、こちらに向けてきたのだ。


「おいおいおい!!!」

「こりゃちょっと不味いね」

「盾の後ろへ!!」


什麼生そもさん!」

説破せっぱ!」


「すべてのものには仏が宿るという。ならば犬畜生にも仏があるか!」

ある! 銃弾を食らった負け犬はお陀仏である。ゆえに仏である!」


「なんですかあれ?」

「さぁ? アタシに聞かないで」

『来ます!』


<ズタタタタッ!!!>


 一人が機関銃を立ち射ちの姿勢で構え、前に立ったもう一人が銃身を支えるという独特のやり方で、ブッダリオンが機関銃をぶっ放してきた。


 なんかプラモで見たことある打ち方だ。


 とはいえ、不安定な盾の上から撃っているので狙いは甘い。

 だが逆に言えば、どこに飛んでくるかわからないから、スゲー怖い。


「うぉぉぉ怖ェッ!!!」


 たまにちゃんと飛んできた銃弾が、ラレースの盾を叩いて甲高い音を立てる。

 彼女の盾はミスリル製だが、続けて銃撃を受け続ければ危険だ。

 なんとかしないと……!


<ピューン! パシッ!! ピシッ!!>


「ツルハシ、下手に頭を出さないほうが良いよ」

「あぁいや、爆弾を投げようとしてるんですけど……」

『止めたほうが良いと思うなー』

『はい。今撃たれたら、バーバラのスキルで手当ができませんからね』


「くそっ、完全に弾幕で制圧されたってことか」


 ブッダリオンの援護射撃のせいで、俺は手出しできなくなった。

 連中は盾をしゃかりきに動かして、ついに溶岩地帯の端にたどり着いた。


「ついたぞ!!」

「よし、上陸開始だ!」

御仏みほとけの加護だな!!」


「いや、御仏っていうか、普通に鉛玉のおかげじゃねぇかな……」


 ブッダリオンの援護のもと目的地にたどり着いた連中は、赤熱して使い物にならなくなった盾をそのまま残して、武器を掲げる。


 これは不味いな……。


「今だ、突撃とっつげきぃー!!」

「ツルハシを捕らえろー!!」


 雄叫びを上げた連中は、思い思いの武器を振り上げて走り出した。


 ブッダリオンのせいでスキルが使えない今、戦いはジョブやスキルの練度よりも、単純に数が多いほうが有利だ。


 バトルドラッグで脳と体がボロボロのブッダリオンの連中はともかく、探索者は基本、健康的だ。ガチで殴りあいたくないなぁ……。


「師匠、なにか良い考えってないですか?」


「なんともだね。アタシはこのまま殴り合いでも良いんだけどね」


「俺ってインドア派なんで」


「ダンジョンにいる奴らは全員そうだよ。じゃあ、こういうのはどうかね」


「おっ、何かありますか」


「正々堂々、白兵戦に応じる。そうすりゃブッダリオンの機関銃は味方がジャマになって援護ができないし、グレネードを投げ込むわけにも行かない」


「正々堂々って苦手なんですけど」


「それこそ堂々と言うことじゃないね」


 クソッ、正々堂々戦う以外にやれることはないか……?


 今俺たちの足を引っ張りまくっているのは、ブッダリオンのスキル封じだ。

 これさえ何とかできれば、現状を打開できるのだが……。


 墨を使って地面に落書きするだけで、どうしてこんな厄介なことが出来るのか。

 これが分からない。


 ……地面に落書き。


 ん、どうしてジジイがスキルを使えないままなんだ?

 ジジイはあのスキルの無効化方法を知っているのに。


 ブッダリオンのスキル封じは、床に書かれた落書きが発動のカギになっている。

 だから無効化したかったら、単純に床掃除をするだけでいい。


 現に爺部屋で使われた時は、スケルトンたちが床をモップで掃除したら、スキルが使えるようになった。


 何で連中は、あんなにも必死になって、こちらに来ようとするのか。


 もちろん、俺を捕まえようとしてるのだが、それにしたって焦りすぎている。

 必死で気を引こうとしているようにも見えるのだ。


 俺はふと、向こう岸にあるギロチンハウスの屋上を見た。

 すると、その天井に立っていたジジイが両手で矢印を作り、それを激しくある方向に向かって前後させていた。


 …………あっ!

 ブッダリオンがした落書き……こっちにあるってコト?!





※作者コメント※

何で普通に戦争映画みたいなシーンがでてくるんですかね…

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