ジジイの元へ
<ガチンッ!>
「よしっ、と!」
放牧の結果、野生化してしまった丸ノコは、何とか回収できた。
いやぁ、まさかこんな事になっているとは……。
そういえばツルハシスレでもなんとかしろって怒ってる人がいたな。
その怒りはもっともだと思う。本当に申し訳ない。
「さーて、丸ノコも回収したことだし、『下』に行きますか」
「やれやれ、あと3階層か……同じようなモンが、まだあったりするかね?」
「いえいえ、ここから後は第十層まで直通ですよ」
「直通? どういうことだい」
『師匠はご存知ありませんでしたか?』
『ほら……私と師匠は防衛戦でバタバタしてたから、その時のツルハシの配信は、何も見てないんだよねー』
『あっ、なるほど。』
「防衛戦の最中に配信見てる場合じゃないですよね。普通にブッ飛ばされそう」
『それなー』
「それで、どうやって行くんだい?」
「俺らが戦っていた黄泉歩きのファウストが、『シュート』の罠で第十層まで俺を道連れにしたんですよ」
『ツルハシ、よく生きてるねー』
「実際、死にかけましたけどね……こっちです」
俺たちは、第十層地下を目指すために、模倣された教会の前に向かった。
その道中で第七層の本当の住人、影人間としか言いようのないモンスターに出会った。だが、そいつらはラレースと師匠に、造作もない様子で追い払われていた。
第七層のモンスターなのに弱すぎないかと、俺は何かのギミックを疑った。
しかし、視界の端で「行ってはならねぇジジイ」が空高くぶっ飛ばされているのを見て、どうやら普通に師匠とラレースが強いだけだと分かった。
(そういえばラレースは第十層の赤竜とタイマン張ってたもんな……。普通に強い相手を、普通に超強いラレースたちがブチのめしてるだけだコレ。)
少しして俺たちは教会の前についたのだが、鐘楼が見下ろす周囲には激しい戦いの痕跡が残っていた。
何かものすごい力で千切れ飛んだ鉄骨と電柱に、巨人にチョップを食らったように屋上から一階までを断ち割られたビルの残骸……。
なんという凄まじい破壊の跡だろう。
この凄惨な光景は、偽竜とユウキが暴れまくる姿を俺に思い描かせた。
「……こりゃすごい。どう暴れたらこうなるんだ」
『偽竜だけでなく、援護に来た探索者が破壊したものもありますけどね……』
「……あれ、そういえば変だな」
『どうかしましたか、ツルハシさん?』
「いやほら、さっきは丸ノコの勢いがすごかったから流しちゃってたけど……ここにあるものって、
『――あっ、そういえば!』
「たしかに妙だね。ダンジョンのモノって壊れないんじゃなかったかね?」
『丸ノコ、めっちゃ壊してなかったっけ?』
「でしょ? でも丸ノコを捕まえる時に使ったダンジョンの壁はぜんぜん壊れなかったから、この複製された街が何か特別っぽいですね」
『ここにあるビルや電柱は破壊されてるもんねー。そういや、お台場のダンジョンの第4層の足場もそうじゃなかったー?」
『バーバラの言う通りですね。ダンジョンの中でも違いがあるんでしょうか?』
「うーん……ちょっとわからないな」
ラレースたちにわからないとは言ったが……。
俺はひとつの仮説を立てていた。
「ダンジョンが所有しているモノは壊せない」となると、一方で「ダンジョンが所有していないモノは壊せる」となる。
つまり――ここにある複製された街。
そもそもこれは「ダンジョンのものではない」可能性があるということだ。
ダンジョンは俺達の世界をくり抜く形で存在している。
うん、それは良い。実際そうなっているのだから。
しかしそうすると、ひとつの疑問が出てくる。
――なら、くり抜かれたモノはどこにいったのか? という疑問だ。
くり抜かれたのは大地やそこにあったビルや物資だけではなく、そこに住んでいた「人間」も含まれているはずだ。
この複製された街に存在する、無数の建物とモノたち。
こいつらの材料は、地上にあった街そのものなんじゃないか?
ってなると……ひょっとして、あの影人間は……。
『ツルハシさん?』
「あぁごめん、何でもない。ちょっと考え事をね」
この仮説が本当だとすると、ちょっと不味いことになる。
アルマが「そんなこと」を、望んでするはずがない。
だが、人は望むと望まざると、大量の人間を殺すことはあり得る。
ただ純粋に仕事をしているだけでも、その仕事が誰かの害になる。
そんな事はよくあるもんだ。
――実際、今の俺がそうなっているからな。
物事は全部が全部、自分が起こせるものじゃない、むしろ起こるものだ。
それをお前のせいだと言われてもぶっちゃけ困る。
責任転嫁と言われるかも知れないが「そう起こる」ように目的を持って行動したわけでもないのに、行動の責任を問われても、知らんがな、としか言えない。
だが、自分で起こせるものだと思い込んでいるものは、決してそうは思わない。
これは「お前のせい」だと、そう言うはずだ。
はぁ……これは面倒くさい事に気づいてしまった。
これがバレたら、絶対問題になる。
うん、これは真偽が確定するまで秘密としよう。
「で、どこにあるんだい? その『シュート』ってのは」
「えーっと……たしか教会の入口辺り、あそこですね」
教会の門の先にある不自然な空間を、俺は指さした。
そこは一見して妙だとわかる。なんせ、周囲に
「わかりやすくて助かるね」
『こんなのに引っかかるアホいるのー?』
「まー、最初はここまで乱雑になってませんし」
『ツルハシさんを
「だなぁ……。俺はファウストに落とされた訳だけど、ラレースは自分からこれに飛び込んだんだよな?」
『それは、ツルハシさんを助けに行くには、それ以外に方法がなかったので……』
『ひゅーひゅー!』
「おっと、これはついに来たかね……?」
『茶化さないでください!』
「この先にはジジイがいるはずだ、助けに行ってやるか」
『はい! ほら皆さん、行きますよ!』
「『はいはい!』」
俺たちは「シュート」の上に乗り、一気に第十層を目指した。
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※作者コメント※
厄ネタのおかわり入りまーす!!
キャッキャ!!
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