下へ、下へ、どこまでも

※作者コメント※

前回がミョーに重めだったので、

今回はハシ休め的な雑談回にしました。





「さてと、ここから下に行くわけだが、配信はどうするかな……」


『そういえば、第7層までの開拓は終わってますよね』


「そうなんだよなぁ……開拓しないのに配信する意味あります?」


『ツルハシの配信ってだけで見るやつはいるんじゃないー?』


「え、そう?」


『だって、ツルハシが配信してて、何もなかったことって基本無いじゃん、撮れ高を呼ぶ男って感じー?』


「ぐぐぐ……」


『それはそれでどうなのでしょう……』


「ま、ツルハシがやりたいなら、配信でも何でもやれば良いんじゃないかね?」


『だねー。ユウキって子はブッダリオンっていうギャングと一緒にいるんでしょ? で、いま起きてるダンジョンの問題はこいつらにあるから……』


「いつもの開拓じゃなくって、ブッダリオンを倒す配信にする。ってことだね」


「なるほど。じゃあ配信のタイトルは『ブッダリオン討伐配信(仮)』に設定して、配信して見るか」


『実際に倒すのは、アタシたちだけどね』


「パーティだから良いの!!」


『まぁ、それはそうですが……』

『他力本願って感じー?』

「男として恥ずかしくないのかね」


「はい、それ差別ですぅー!! 男女差別ですぅー!!」


『なんかツルハシって、ダンジョンの下へ下へ行くほど、人間としての格がどんどん下がってる気がするんだけど、気のせいかなー?』


「バーバラさん、それ割とマジで傷つくからやめて」

『あっ、うん……ごめん』


 急にシュンってなられると、それはそれで気まずい。


『えーっと、その……話を元に戻しますと、ブッダリオンがダンジョンで縄張り争いをしているのが探索者の迷惑になってるわけですよね?』


 あまりに不毛なこのやり取りを見かねたのだろう。

 ラレースはうなだれながら俺に助け船を出した。申し訳ねぇ……。


「ああ、その通りだ。ブッダリオンのせいで探索者たちは迷惑してる。これをどうにかするのは、聖墳墓騎士団の仕事でもあったろ?」


『そうですね』


「なのでうーん、愛と正義のためになんとかするってことで」


「雑がすぎるけど、まぁそんなもんだろうね」


「――というわけで、配信開始!」


 俺は半ばヤケクソで配信を始めた。

 二拍手して大国主オオクニヌシを呼び出すと、カメラを向けてもらう。

 ここまでノープランでやるのは初めてかもな。


「えー皆さんお久しぶりです。当チャンネル『ツルハシ一本でダンジョン開拓します』ですが……今回の配信はいつもとはおもむきを変えて、ギャング退治です!」


 そして、俺はカメラに熱く語りかける。


「――というもの! 俺はこれまでダンジョンを開拓してきましたが……開拓しすぎたのか、探索者ではないギャングまでもが、ダンジョンに来てしまいました」


「そう、ブッダリオンの事です。連中はこのダンジョンをシノギにしようと目論見、縄張り争いをしています。これは非常によろしくありません」


 そして、俺は語気を強めると挨拶の締めに入った。


「ダンジョンは探索者のものです! 探索者による、探索者のための、探索のダンジョン! これを今から取り戻します!」


 うむ、我ながら名演説だ。

 ここに聴衆がいたのなら、拍手喝采されたことだろう。

 

「しかし、アンタもお人好しだね」

『ね。勝手にやるなんてさー』

「へ?」


「探索者協会か議会の連中にギャングの件を対処してやるって言えば、なんぼか神気をブン取れたんじゃないかね?」


「…………確かに!!」




 ダンジョン配信を開始した俺は、いつものようにダンジョンの下へと向かう。

 これまでの開拓の甲斐もあって、もう第5層「朽ち無しの墓所」に到達した。


 この第五層は壁をブチ抜き、入り口から次の階層までを真っ直ぐつなげている。

 なのでこの階層は歩くだけで踏破できる「通路」と化している。

 我ながらヒデーことしたもんだ。

 

 だが、黙々と歩いていても、俺の頭の中をある言葉が支配する。


 ――そう、タダ働きという呪わしい言葉だ。

 この言葉は「納税」の次にこの世から消し去らなければならない言葉だ。


 まさかこの俺がこの呪いを受けるとは。

 クッ!


「は~、しまったなぁ……」

『それで18回目ー』

「良く数えてるね」


『そんなにショックだったんですか、ツルハシさん』


「後から言われて気づくほうがキツいよね。ほらなんていうのかな……」


「あー、そこアイテムあったのに、みたいなやつかね?」


「そうそう、それそれ」


「名作ゲーって言われるやつでも、そういう取り返しのつかない要素が多いとそこの部分はクソ感すごいからねぇ……」


「あーありますね」


「なんだっけね……急いで逃げないと、とかそういう演出の時に限って、取り逃しちゃいけないアイテムが配置されてたりとか、ああいうのはざけんなってなるね」


「わかり味が深いぜ。――ってか、師匠ってビデオゲームとかするんだ?」


「まぁね。酒飲みながらやるレトロゲーは最高だよ。S◯GA、ネオジ◯、いろいろあるけど……一番はスー◯ァミだねぇ」


 全然わからん。

 ゲーム機もそうだが、師匠の年齢が一番わからん。


 師匠の着ているスーツから見える胸の張り、尻の形。どう見ても20台……いや、10代後半でも通じる。それなのに趣味がおじいちゃんおばあちゃん世代だ。


 いかん、流石にコレ言ったら殺されそうだな。


「シブいっすね。俺はプ◯ステ3世代なんで――」


『待った』


「うん? バーバラさんは4? 5?」


『アホみたいなこと言ってないで地面を見て。野営の後だよ―』


「え?」


 バーバラさんが指し示している先、ダンジョンの床に黒い炭と灰の山があった。


 

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